ep5 アキラ先生の「異世界・魔物生態学」入門
噴火の危機を乗り越え、火山の麓に設置された臨時の「教会所属・環境保護駐在所(ただの天幕)」
そこには、煤だらけの顔で机に並ぶ、異世界最強?の生徒たちの姿があった。
「いいか、お前たち……剣を振る前に、まず『脳』を使え」
教鞭(ただの木の枝)を振るうアキラの前で、四人がそれぞれ異なる態度で座っている。
レオは 聖剣を膝に置き、ノート(羊皮紙)に「まもの=トモダチ」とデカデカと書いている。やる気だけはある。
マリア は「日焼け止め魔法」を自分にかけながら、退屈そうに爪を磨いている。が、アキラが「美肌効果のある魔物の粘液」の話をすると身を乗り出す。
セレーナは 腕を組み、一番後ろでフンと鼻を鳴らしている。……が、耳はアキラの方をピクピクと向いていて、一言も漏らさず記憶しようとしている。
リリィは 最前列でキラキラした目を向けている。が、机に載った「豊満な質量」のせいで羊皮紙が滑り落ち、一人でバタバタしている。
「レオ。お前は今まで、魔物を倒すと『レベルが上がる』と言っていたな。だが、それは神界が勝手に設定したゲーム的な数値に過ぎない」
アキラは、黒板代わりの岩に図を描く。
「実際には、魔物を一匹殺すごとに、その地域の『魔力循環構造に穴が空く。例えば、お前が好んで狩っていた『草原のウルフ』あいつらがいなくなったせいで、来月には草原の野ネズミが爆増し、村の穀倉地帯は壊滅するぞ」
「えっ……。俺、村を救うためにウルフを狩ってたのに、逆に飢饉を招いてたのか……?」
レオがガーンと衝撃を受ける。
「マリア。お前が欲しがる『宝石蝶の鱗粉』あれは殺して剥ぎ取るんじゃない。特定の花の蜜を撒けば、あいつらはダンスを踊り、その際に古い鱗粉を落としていく。殺さなければ、一生、極上のコスメが手に入るんだぞ」
「……一生? 永久に無料で!? ……アキラ先生、もっと詳しく教えてちょうだい!」
マリアの目が「$」マーク(異世界貨幣)に変わる。
「セレーナ。お前は森を静かにしすぎだ。適度な外敵や競争がなければ、種は弱体化し、病気一つで全滅する。……これからは『間引き』ではなく『循環』を意識しろ」
「……分かっているわよ。……少し、厳しくしすぎた自覚はあるわ」
セレーナが、バツが悪そうに顔を背ける。
講義が終わる頃、空から女神の「無茶振りメッセージ(光る矢)」が飛んできた。
『お疲れ様~! チーム結成おめでとう☆
さっそく次の任務よ。北の「氷晶海」で、海面が凍りすぎてクジラが息ができないんですって!
ついでに美味しいカニも獲ってきてね! あ、予算は出ないから現地調達でよろしこ!』
「……また予算ゼロかよ、あのクソ上司」
アキラは深い溜息をつき、リュックを背負った。
「よし、野郎ども。……実地研修だ。北へ向かうぞ。…レオ、マリア。お前たちの力は、今度は『倒す』ためではなく、『氷を砕く』ために使ってもらう」
「応! 任せとけ、アキラ先生!」
「カニ…カニの殻は、美肌パックの材料になるかしら……!」
「……ついていってあげるわ。……監視役としてね」
「アキラ様ぁ! お弁当作りましたぁ! 入らなくて蓋が閉まらないんですけどぉ!」
個性豊かなメンバーを連れ、アキラは歩き出す。
アマゾンで死んだあの日には想像もしていなかった、「世界を救わない、世界を守る旅」が、ここから本格的に始まるのだ。




