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ep4 その魔物、倒すべからず


「……アキラ様、今日の女神様からのパンフレット、なんだか禍々しい黒文字で書かれてますぅ……」


天使リリィが、震える手で女神からの『任務表』を差し出した。


そこには、血を吐くような文字でこう書かれていた。


『特緊急:火山の麓の村で、勇者レオが「溶岩モンスター」を討伐したと報告あり。……バカ! アホ! 女神の加護を返せ! 今すぐ現場へ行って、何とかしなさい! さもないと、エルドラが滅びるわよォォォォ!』


最後の一文は、女神の絶叫が聞こえてくるようだった。


「……溶岩モンスター? ……火山の麓?」


俺は、動物学者としての嫌な予感が、背筋を駆け抜けるのを感じた。


「……あいつ、まさか……」


「……どうかしたの? レンジャー」


木の枝から軽やかに飛び降りたのは、エルフのセレーナだった。


彼女は、ショートカットの銀髪を揺らし、弓を背負って、俺たちを冷ややかな目で見つめた。


「……あのバカ勇者が、また何かやらかしたの?」


「……セレーナ。お前の森の近くにある、あの火山。……あそこに棲んでいる『溶岩を食べる魔物』を知っているか?」


「……『マグクイ(マグマ・イーター)』のこと? ……知っているわ。……古くから、あの火山の内圧を調整している、守り神のような魔物よ。……めったに人前には現れないけど」


「……その『マグクイ』を、レオが討伐したらしい」


「……何ですって!?」


セレーナの顔が、一瞬で青ざめた。


「……あの男、……自分が何をしたか、分かっているの!? ……マグクイがいなくなれば、火山に溜まったマグマの内圧が限界を超え、……明日には、大噴火が起きるわ!」


「……えぇっ!? 大噴火!? ……エルドラが滅びちゃうんですかぁ!?」


リリィが、自分の豊かな胸を両手で押さえ、パニックを起こした。


「……滅びる前に、……俺たちが止める」


俺は、女神から支給された「防熱服(女神の加護入り・経費:特別備品)」を身につけ、リュックに「人工授精キット(環境省特製女神の加護たっぷり)」と「魔物用栄養剤(経費:一般消耗品)」を詰め込んだ。


「……セレーナ。お前の弓で、火口付近の気流を読んでくれ。……リリィ。お前は、……俺の『神聖結界セーフティ・ゾーン』の魔力供給をサポートしろ。……天使の魔力なら、火山の熱にも耐えられるはずだ」


「……はいっ! アキラ様のサポート、バッチリやりますっ!」


「……フン…理想論ばかりのレンジャーだけど、背に腹は変えられないわね。協力してあげるわ」


セレーナが、弓を引き絞り、火山の山頂へ向かって矢を放った。矢は、風を切り裂き、気流を観測する信号弾となった。


俺たちは、火山の麓、煙が立ち込める火口付近へ向かって、走り出した。


現場に到着すると、そこには、巨大な『マグクイ』の死骸が横たわっていた。


その死骸は、すでに冷え固まり、黒い溶岩の塊と化していた。


そして、その死骸の上で、勇者レオが聖剣を掲げ、村人たちの歓声を浴びていた。


「ハハハ! 見たか、村人たちよ! 街を脅かす溶岩モンスターは、この俺が事後承諾で討伐したぞ!」


「この、大バカ野郎ォォォォ!」


俺の叫びが、火口に響き渡った。


「あ? またお前か、レンジャー。邪魔をするな、今いいところ……」


俺は、レオの胸ぐらをつかみ、黒焦げになった『マグクイ』の死骸を指差した。


「いいところだと!? お前が倒したのは、村を襲うモンスターじゃない! この火山の大噴火を、身を挺して食い止めていた、守り神だ!」


「はぁ? 守り神? こいつ、溶岩をドロドロ吐き出して、村の畑を燃やそうとしてたんだぞ!」


「それは、内圧が高まりすぎて、食べきれなかったマグマを、少しずつ外に逃がしていただけだ! ……お前がこいつを倒したせいで、今、火山の地下では、マグマが限界まで溜まり、明日には、大噴火が起きる!」


俺の声に、村人たちの歓声が、悲鳴に変わった。


「……嘘だ……俺は……英雄に……」


レオが、聖剣を落とし、その場にへたり込んだ。聖女マリアも、水晶通信マジック・スコープを落とし、顔を真っ赤にして固まった。


「嘘じゃないわ、バカ勇者」


セレーナが、火口の気流を読みながら、冷ややかに言った。


「……今、火口付近の気圧が、異常に高まっている。……噴火まで、……あと、半日もないわね」


「アキラ様! どうすればいいんですかぁ!? 私の『天使のワッパ』、まだ見つかってないのにぃ!」


リリィが、パニックを起こして俺にしがみついてくる。


「リリィ、落ち着け。まだ、方法はある」


俺は、リュックから「人工授精キット」と「魔物用栄養剤」を取り出した。


「マグクイは、雌雄同体の魔物だ。死骸から、生きた細胞を採取し、この『人工授精キット』で、高速繁殖させる。……そして、生まれた子供たちを、火口へ誘導し、マグマを食わせる!」


俺は、防熱服を正し、火口へ向かって走り出した。


「…嘘だ…俺が、村を滅ぼす元凶だったなんて……」


膝をつくレオに、アキラが鋭い声を飛ばす。


「絶望してる暇があるなら立て、勇者! まだやり直せる。お前のその『聖剣』は、命を奪うためだけにあるのか!?」


「え……?」


「セレーナ! お前は村へ戻って避難誘導を頼む。エルフの俊足なら間に合う。パニックを防げるのはお前だけだ!」


セレーナが一瞬目を見開き、力強く頷く。


「分かったわ。…死ぬんじゃないわよ、レンジャー」


アキラは次に、呆然とする勇者ペアに向き直った。


「レオ! マリア! お前たちの強大な魔力が必要だ。俺の指示に合わせて、溢れ出した溶岩を火口の『排出口』へ押し戻せ!


力加減を間違えるなよ!様子を見ながら少しずつだ!これは、お前たちにしかできない『救済』だ!」


「……救済……俺たちが、本当に救えるのか?」


レオの目に光が戻る。マリアも水晶通信を投げ捨て、真剣な顔で杖を握り締めた。


「やってやるわよ……! 髪がチリチリになっても文句は言わないんだから!」


俺は、火口付近の灼熱の中で、『マグクイ』の死骸から細胞を採取し、『人工授精キット』で繁殖を開始した。


神聖結界が、火山の熱を遮断する。……が、結界は、天使の魔力を消費し、次第に薄くなっていく。


「……うぅ……魔力が…足りないですぅ……」


リリィが、フラフラになりながらも、魔力を注ぎ続ける。


「リリィ、頑張れ! あと少しだ!」


俺は、栄養剤を繁殖した細胞に注ぎ込んだ。

するとどうだ。キットの中から、手のひらサイズの、小さな『マグクイ』たちが、次々と這い出てきたではないか。


(……キュ……キュ~ゥ……)


小さなマグクイたちが、俺の手をペロペロとなめた。


(……よし、いい子だ。あっちに、美味しいマグマがあるぞ。みんなで、お腹いっぱい食べるんだ)


俺は、小さなマグクイたちを、火口へ向かって誘導した。


小さなマグクイたちは、火口へ向かって一斉に走り出し、ドロドロと流れるマグマを、次々と口に運び始めた。


「食べた! マグクイたちが、マグマを食べてるわ!」


避難誘導から戻ったセレーナが、驚愕の声を上げる。


小さなマグクイたちが、マグマを食べるにつれ、火口付近の気圧が、次第に下がっていく。


「噴火の危機は、去ったわね」


セレーナが深い溜息をついた。


夕暮れ時

火山の麓には、平和な時間が戻っていた。


「アキラ様! 凄いです! エルドラを救っちゃいましたっ!」


リリィが、満面の笑みで俺に抱きついてくる。その反動で胸がボヨヨンと揺れ(デジャヴ)、小さなマグクイたちが、その圧に驚いて一斉に逃げ出した。


「…理想論ばかりのレンジャーだけど、…少しは見直したわ」


セレーナが、フンと鼻で笑うと、おずおずと俺に手を差し出した。


俺は、セレーナの手を握り、苦笑した。


「多様性を認めれば、世界は、もっと広くなる」


俺の言葉に、セレーナは頬を染めて固まった。

(……この……レンジャーァァ!)


(キュ~……キュキュ~?)

(おじちゃん……、新しいお姉ちゃん、照れてるね?)


ポムポム・ウサギたちが、セレーナの背後からおずおずと顔を覗かせ、セレーナに懐き始めた。


「……な、何よ、お前たち! ……照れてなんかいないわよ!」


セレーナが、顔を真っ赤にして、ウサギたちを追い払おうとする。……が、その動作がかえって(デジャヴ)。



「……アキラ。俺は今まで、ただ強ければいいと思ってた。……次からは、あんたの指示を仰ぎたい。……この力を奪うためじゃなくて生かす為に使わせてくれ!いや、ください!」


「……フン。相談料(予算)は女神に請求してくれよ」


アキラがその手を握り返した時、背後でリリィが「わあああ、感動の友情ですぅ!」と抱きついてくる(安定の胸部圧迫)。


俺の、異世界での「自然保護官レンジャー」としての生活は、……泥と令状と、個性豊かな仲間達とますます、カオスなものになりそうだ

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