ep2 その羽、抜くべからず
毎朝7時投稿
異世界の環境保全…なんてのを思いついたのですが、先に書いてる人がいたら、ごめんなさい。けど、思いついたので垂れ流します。
この物語はキャラクター名や土地名、誤字脱字の確認にAIを使用しています。
全12話で完結済みです。
「ひゃあああ! 待ってください、ウサギさん! そこは急所ですぅ、突かないでぇぇ!」
異世界の朝は、天使リリィの悲鳴から始まった。
昨夜、空から降ってきたこの「監視役」は、俺が保護したポムポム・ウサギたちに朝飯をやろうとして、逆に群れに押し潰され、その豊満な胸をクッション代わりにされていた。
「……リリィ、それは『懐かれている』んじゃなくて、単に『柔らかくて居心地がいい場所』だと思われてるだけだぞ」
「そんな身も蓋もないこと言わないでくださいアキラ様ぁ! 助けてぇ!」
俺は溜息をつき、女神から支給された「魔物用ブラシ(経費:一般消耗品)」を手に取った。
ポムポム・ウサギの毛並みを整えてやると、彼らは満足そうに散っていった。
「さて、今日の任務は……」
女神のパンフレット(任務表)を開く。そこには、禍々しい赤文字でこう書かれていた。
『緊急:銀色クジャク(シルバー・ピーコック)の乱獲を阻止せよ。さもないと、来月の神界パーティーの装飾が地味になるわよ!』
最後の一文は無視するとして、銀色クジャク。
この世界の希少種で、その羽は魔法触媒としても、宝石以上の価値を持つ工芸品としても珍重されている。
「……嫌な予感がするな」
「アキラ様、あっちの方で爆発音がしますぅ!」
リリィが指差した先――「水晶の滝」と呼ばれる観光名所から真っ黒な煙が上がっていた。
現場に到着すると、案の定、そこには「規制前」の旗を掲げた(比喩ではなく、本当に旗を立てていた)勇者レオ一行がいた。
「ハハハ! 逃げるなよ鳥公ども! 聖女マリアが『羽のドレスが欲しい』って言ってるんだ。光栄に思え!」
レオが聖剣を振りかざし、滝壺に集まっていた美しい銀色のクジャクたちを追い詰めている。
聖女マリアは、水晶通信を自らかざしながら、悦に浸っていた。
「みんな見てる~? 今からこのレア・モンスターの羽をゲットしちゃうよ! #勇者パーティー #聖女の休日 #銀色クジャク」
「待てェーい! その乱獲、自然保護法第8条に基づき差し止めだ!」
俺は叫びながら、レオとクジャクの間に割って入った。
「またお前か! レンジャー! 邪魔をするな、これはマリアの……ファンのための、聖なる儀式だぞ!」
「ファンじゃなくて自分の承認欲求だろ! いいかレオ、そのクジャクを力ずくで殺したり、無理やり羽を抜いたりしてみろ。その瞬間、お前たちの計画は台無しになるぞ」
「……あ? どういう意味だ」
俺は、動物学者としての「ハッタリ」を交えた専門知識を、理路解釈して叩きつけた。
「このシルバー・ピーコックは、極度のストレスを感じると、体内の魔力ラインが逆流し、羽の銀色成分が数秒で『ただの灰色のカラスの羽』に変質する。死体から剥ぎ取った羽なんて、雑巾にもなりゃしないんだよ!」
「えっ!? そんなの聞いてないわよ!」
マリアが素っ頓狂な声を上げる。もちろん半分は嘘だ。変質はするが、そこまで極端じゃない。だが、素人を黙らせるには十分だ。
「じゃあ、どうすればいいんだよ! ドレスが作れないじゃないか!」
「……プロのやり方を教えてやる。リリィ、ブラシを出せ!」
「は、はいっ! ブラシ入りますぅ!」
リリィが、自分の胸の谷間に挟んでキープしていた(なぜそこに入れた)特製ブラシを差し出した。
俺はゆっくりと、怯えるクジャクのリーダー格に近づいた。
『万物言語理解』をフル回転させ、穏やかな声で語りかける。
「(……大丈夫だ。あの金ピカのバカからは俺が守る。ちょっと、体を綺麗にさせてくれ……気持ちいいぞ……)」
クジャクが首を傾げた瞬間、俺の「超絶技巧ブラッシング」が炸裂した。
首筋から尾羽の付け根にかけて、毛並みに沿って、しかし適度な圧をかけて。
「(……ほら、そこだろ? 痒いところは……)」
「キュ……キュ~ゥ……」
銀色クジャクの目が、とろ~んと蕩けた。
するとどうだ。クジャクの全身から、抜け落ちる寸前だった「最高級の古い羽」が、ハラハラと、しかし今まで以上に輝きを増して抜け落ちていくではないか。
「な、何よあの手つき……。見てるこっちが恥ずかしくなるような……」
聖女マリアが頬を染めて固まる。
「これが『換羽期』を利用した、採取方法だ。殺さず、傷つけず、魔物との信頼関係を築くことで、最高の素材が手に入る」
俺がドヤ顔で言い放った、その時。
「わあぁ! 凄いですアキラ様! 私も、あっちの子にやってみますぅ!」
リリィが、善意100%で別のクジャクに駆け寄った。
だが、運悪く彼女が前かがみになった瞬間、その「規格外の質量」が、クジャクの視界を塞いだ。
(!? デカい! 敵か!? 威嚇か!? いや、これは求愛ダンスのライバルか!?)
パニックを起こしたクジャクが、リリィの胸に猛烈な「ついばみ」を開始した。
「ひゃうんっ! 痛い、そこ、突っついちゃダメですぅ! 柔らかいけど食べ物じゃないですよぉぉ!」
「バカ、リリィ! 刺激するな! レオ、見てるだけじゃなくて結界を張るのを手伝え!」
結局、現場はクジャクの羽と、天使の悲鳴と、勇者の舌打ちが入り混じるカオスと化した。
夕暮れ時
俺たちの手元には、ブラッシングで収穫した「最高級の銀色の羽」が山ほどあった。
「……これなら、ドレスどころか寝具まで作れるな。レオ、マリア。これを持ってさっさと帰れ。次は、ちゃんと教会で手続きを踏んでからにしろ、乱獲に繋がらなければ、ちゃんと許可は出してやるから」
「ちっ…まぁ、今日はこれで勘弁してやるよ」
レオたちは、不満げながらも羽の輝きには満足したようで、捨て台詞を残して去っていった。
「うぅ…胸がヒリヒリしますぅ…天使の治癒魔法、自分にかけますぅ…」
涙目のリリィが、自分の胸をさすっている。
「災難だったな。だが、おかげで一羽も死なさずに済んだ。…お疲れ、リリィ」
「アキラ様……はいっ! 私、もっと勉強して、立派な監視役になりますっ!」
満面の笑みを見せるリリィ。その背後、滝のしぶきに虹がかかる。
平和な、いい1日の終わり方だ――と、俺が思った瞬間。
「……あ、あれ? アキラ様……私の頭の上の『ワッパ』やっぱり無いですぅ、アレが無いと私、魔法が使えないんですぅ」
そんな気配を感じてか、シルバー・ピーコックのリーダー各が俺の足にやってきた。
(あっちの森の方に、キラキラしたのが飛んでいったのを見た)
シルバー・ピーコック達が首を向けた先は、エルフたちが住むという「禁忌の森」だった。
「……残業、確定だな」
俺は深い溜息をつき、新たなトラブルの予感へと歩き出した。




