ep1 そのウサギ、狩るべからず
異世界の環境保全…なんてのを思いついたのですが、先に書いてる人がいたら、申し訳ない…けど、思いついたので垂れ流します。
この物語はキャラクター名や土地名、誤字脱字の確認にAIを使用しています。
全12話で完結済みです。
アマゾンの熱帯雨林、その湿った土の匂いと、銃声。
それが、俺ーー動物学者、佐藤アキラの、人生の最期だった。密猟者の罠にかかったジャガーの子供を助けようとして、背後から撃たれたのだ。
(……せめて、あの子だけは逃げ切ってくれ……)
薄れゆく意識の中でそう願った。動物が好きだった。人間よりも、ずっと。
だから、次に目を覚ました時、目の前に真っ白な空間と、フリフリのドレスを着た、絵に描いたような「女神」がいたとしても、俺の感想は一つだった。
「……ここは? あのジャガーは?」
女神は、俺の問いを完全に無視して、パチンと指を鳴らした。
「合格! 動物への無償の愛、そして理不尽な死! 貴方こそ、我が創りし世界『エルドラ』の、均衡を守る使いにふさわしいわ!」
彼女は、まばゆい笑顔で、とんでもないことを口にした。
「というわけで、異世界転生おめでとう! 貴方には、我が教会の特別職『自然魔物保護官』として、エルドラの生態系を守ってもらいます!」
「は……? 魔物?自然保護官?」
「そう! 最近、私が適当に…じゃなくて、特別にチート能力…じゃなくて加護を授けた『勇者』たちが、張り切りすぎて魔物を乱獲しちゃってて。このままだと、世界の魔力や生態系のバランスが崩れて、百年後にはエルドラが砂漠になっちゃうの。あはは、困っちゃうわよね!」
全然困ってなさそうな笑顔だ。
「貴方に与える能力は『万物言語理解無料』と『神聖結界有料』これで、魔物たちと意思疎通して、勇者から守りなさい。あ、これ、教会の身分証と、活動マニュアルね。じゃ、よろしく〜!」
「ちょっと待て! 予算は!? 組織は!?」
俺の叫びは、光の中に消えた。
エルドラの大地は、アマゾン以上に緑豊かで、生命の気配に満ちていた。
……が、今の俺にそれを満喫する余裕はない。
「はぁ……はぁ……、まさか、転生初日から業務開始かよ……」
俺は、神聖な白と緑の儀礼服(女神いわく『制服』)を泥だらけにしながら、深い渓谷を歩いていた。
手には、女神から渡された『活動マニュアル』という名の、薄っぺらいパンフレット。
そこには、赤ペンで殴り書きされた、女神の「今週のミッション」が記されていた。
『ミッション:精霊の谷に生息する「ポムポム・ウサギ」を、勇者一行から保護せよ』
ポムポム・ウサギ。
マニュアルの図鑑によると、綿飴のように真っ白でフワフワした、小型の魔物だ。
性格は極めて臆病。魔力はほぼゼロ。……要するに、ただの「可愛い動物」だ。
「なのに、なんで勇者が狙うんだよ……」
その理由は、すぐに分かった。
谷の奥から、けたたましい爆発音と、ヒャッハー!という、およそ勇者とは思えない歓声が聞こえてきたからだ。
「いたぞ! 今日の100匹目! よーし、これで俺の『聖剣』の熟練度も、かなり上がるはずだ!」
「頑張って、レオ様! 私、この子の毛皮で新しいポーチが欲しいわ!」
岩陰から覗くと、そこには金髪のイケメン勇者レオと、その仲間と思われる聖女(?)の少女が、魔法で動けなくなったポムポム・ウサギの群れを、次々と聖剣でなぎ倒していた。
「な……っ!」
俺の血管が、ブチ切れる音がした。
熟練度稼ぎ? 毛皮のポーチ?
そんな、くだらない理由で、この無抵抗な生き物たちを!?
「動物学者を、……ナメるなよォォォォ!」
俺は、岩陰から飛び出した。
「そこまでだ、乱獲勇者ども!」
俺の声に、勇者レオが、面倒くさそうに振り返った。
「あん? なんだお前、教会の人間か? 邪魔するな、今いいところなんだ」
「いいところだと!? お前たちがやっているのは、ただの虐殺だ! この『ポムポム・ウサギ』は、この谷の植物の種子を運ぶ、重要な役割を果たしている。こいつらが絶滅すれば、この谷の植生は全滅し、百年後には砂漠化するぞ!」
「はぁ? 百年後なんて、俺が魔王を倒した後の話だろ。知るかよ。それより、こいつらを倒すと、微量だけど聖剣が光るんだ。それが重要なんだよ!」
こいつ……話が通じない!
レオは、再び聖剣を持ち上げ、残ったウサギたちへ向かって、強力な光の斬撃を放とうとした。
「『聖剣・シャイニング・スラッシュ』!」
「させるかぁぁぁ!」
俺は、女神から授かった、唯一無二の防御魔法を展開した。
「『神聖結界』、発動!経費申請は、後回しだァ!」
俺が叫ぶと、ウサギたちの前に、黄金色に輝く、巨大な半球体の結界が現れた。
勇者の放った光の斬撃は、結界にぶつかり、虚しく弾け飛んだ。
「なにっ!?」
「な、何者ですか、貴方は! レオ様の攻撃を防ぐなんて!」
少女が、驚愕の声を上げる。
俺は、泥だらけの制服を正し、胸元に輝く「異世界環境省」のエンブレムを突き出した。
「神の使い、教会所属、自然魔物保護官、アキラだ! これより、この『精霊の谷』全域を、神聖不可侵の『自然保護区』に指定する!」
俺は、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、勇者の鼻先に突きつけた。
「これは、女神様の聖痕入りの『立入禁止命令書』及び『戦闘差し止め令状』だ! 勇者レオ、及びその一行! 直ちに武器を収め、この谷から退去せよ! さもなくば、『神罰』対象として、教会のブラックリストに載せるぞ!」
「神罰……? ブラックリスト……?」
レオの顔が、みるみる青ざめていく。
どれほど強力な勇者でも、教会の支援(ポーションの供給や、宿泊施設の利用)を打ち切られれば、魔王討伐など不可能だ。
「く、くそっ……! 覚えてろよ、レンジャー! 次は、令状が出る前に全滅させてやるからな!」
レオは、吐き捨てるように言うと、聖女の手を引いて、谷の向こうへ走り去っていった。
「……はぁ、……なんとかなったか」
俺は、その場にへたり込んだ。
緊張が解け、泥まみれの体が一気に重くなる。
(キュ~……キュキュ~?)
結界が解けたポムポム・ウサギたちが、おずおずと俺の周りに集まってきた。
『万物言語理解』のチート能力のおかげで、彼らの声が、人間の言葉のように聞こえる。
(おじちゃん……、助けてくれたの?)
(ありがとう! 怖い人間、行っちゃったね!)
一匹の、特に小さなウサギが、俺の泥だらけの手を、ペロペロとなめた。
「……あ、ああ。……もう大丈夫だ」
俺は、そのフワフワした体を、そっと抱き上げた。
その温かさと、ドクドクと波打つ小さな鼓動を感じた時、アマゾンで死んだ時の、あの虚しさが、少しだけ晴れた気がした。
「……動物学者が、異世界で神様の使い、か」
俺は、腕の中のウサギを見つめ、苦笑した。
「無茶振り上司に、話の通じない勇者……。前途多難だが、……ま、悪くない転職先かもしれないな」
エルドラの空は、アマゾンよりもずっと広く、そして澄んでいた。
俺の、異世界での「自然魔物保護官」としての生活は、こうして、泥と令状と共に、幕を開けたのである。
「……よし。まずは、女神様に『精霊の谷』の正式な保護区指定の報告書を書かないとだな。……あ、活動資金の前借りも……」
溜息をつきながら、俺が今後の事務作業に思いを馳せた、その時だった。
「ひゃうううううっ!?」
空から、情けない悲鳴と共に、真っ白な何かが猛スピードで落ちてきた。
ドス――ーン!
砂煙を上げ、俺のすぐ目の前の地面に、見事な「犬神家」状態で頭から突っ込んだのは……、真っ白な羽を持った人影だった。
「痛たたた……。あぅぅ、着地失敗しましたぁ……」
土の中から這い出てきたのは、アホ毛を揺らし、涙目で鼻の頭に泥をつけた、とんでもなく顔が整った少女だった。
だが、俺の目は、彼女の顔よりも先に、別の場所にくぎ付けになった。
「……でかい」
思わず口に出た。
彼女が身につけている、聖なる教会の修道服。その胸元が、布の限界に挑戦するかのようにパンパンに張り詰め、今にもボタンが弾け飛びそうなほど、豊満に波打っていたからだ。
「え? ……ああっ! こ、これは失礼しましたっ!」
少女は、俺の視線に気づくと、顔を真っ赤にして、その「凶器」のような胸を手で隠そうとする。……が、隠しきれていない。
「貴方が、アキラ様ですね? 神界・環境保全局、女神様直属の、見習い天使、リリィです! 女神様から、『アキラ様は現場のペーペーだから、しっかりした監視役が必要だ』と仰せつかって、派遣されましたぁ!」
彼女は、泥を払いながら、ビシッと敬礼をした。……が、その反動で胸がボヨヨンと揺れ、先ほどまで安心していたポムポム・ウサギたちが、その圧に驚いて一斉に逃げ出した。
「監、視、役……?」
俺は、女神の顔を思い浮かべた。……あいつ、俺を信用してねぇな。
それにしても、「しっかりした監視役」が、空から頭から突っ込んでくるか?
「はい! 天使の力で、アキラ様の活動をバッチリサポートしますから! ……あ、あれ? 私の『天使の輪』、どこ行っちゃいましたっけ……?」
リリィは、自分の頭の上を空中で手探りし始めた。……どうやら、落下の衝撃でどこかに紛失したらしい。
「あの、アキラ様……。一緒に探してくれませんかぁ? あれがないと、私、天使としての魔法が使えないんですぅ……」
涙目で上目遣いに見つめてくる、ポンコツ巨乳天使。
俺は、天を仰いだ。
(女神様……。俺、動物園の園長じゃなくて、保育園の園長をさせられてませんか……?)
アマゾンよりも、ずっと澄んだ、広い空。
だが、俺の未来は、その空の青さよりもずっと、混沌に満ちたものになりそうだった。
(第1話・完)
毎日朝7時に更新します。
異世界の自然魔物保護官の今後の活躍にご期待ください。




