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【完結】【連載版】断罪された悪役令嬢ですが、真実の愛よりも大切なことを教えてさしあげますわ  作者: 上下サユウ
第二章

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第二十二話 学術都市『ソフィア』ですわ

 イグニス山の工房に滞在してから十日後。

 アイリスの徹底的な指導により、ドワーフの鍛冶場は劇的な変貌を遂げていた。


 職人の勘に頼っていた現場は、完全な『ライン生産方式』へと生まれ変わった。

 ドワーフたちは定時で働き、定時で上がり、食堂で美味い飯を食う生活を謳歌している。


 生産ラインも安定し、物流ルートも確保したアイリスたちは、次なる目的地である学術都市『ソフィア』を目指し、装甲車を走らせていた。


 運転席でハンドルを握るのは、げっそりと頬がこけた元王太子、アレクセイ。彼はつい数時間前まで、ドワーフの工場で『人力送風機』として、二十四時間酷使されていたはずだった。


「……死ぬかと思いました。ドワーフの親父さんたち、俺が少しでも休むと、『おい、炉の温度が下がるぞ!』ってハンマーを投げてくるんです……」

「おかげで少しは痩せられましたわね。感謝なさい」


 後部座席で優雅に書類を整理するアイリスに対し、隣に座る皇帝ルーカスが呆れたように尋ねる。


「アイリス、こいつはドワーフに労働力として売ったのではなかったか?」

「ええ、売りました。ですが、工場に『自動冷却魔道具』の設置が完了しましたので、『不要在庫』として返品されましたの」

「……返品、か」

「機械の方が文句も言わず、性能も安定していますからね。それに、次の相手は『学術都市』です。万が一の時の『肉壁()』として、彼にはまだ使い道がありますから」


 アイリスの冷徹なリサイクル精神に、ルーカスは戦慄しつつも納得した。

 すると、アレクセイの隣、助手席に座っていたゴルドが力なく声を漏らす。


「……私の扱いも大概だと思いますがね、ボス」


 かつては贅沢三昧していたその体は、ドワーフの工房で数万個の鋼球を検品させられたせいで、アレクセイ同様に引き締まり、その目は深い虚無を宿していた。

 ゴルドは膝の上に広げた膨大な書類と格闘しながら、カタカタと震える指で魔導算盤を弾いている。


「おや、終わりましたの? ゴルド、ソフィアの『特許関連判例集』三千ページ分の要約は」

「……たった今終わりましたよ。寝る間もなく読み込まされましたから。そもそも、私は外交官であって、速読機でも計算機でもないのですがね」

「あら、ドワーフたちに『複式簿記』を教えていた時よりはマシでしょう? 計算を間違えたらハンマーが飛んでくるわけでもありませんし」

「アレクセイ殿と比較して『マシ』と言われるのが、これほど悲しいとは思いませんでしたよ……」

「ゴルドよ、そう嘆くな。アイリスに使い潰されるのは、お前にそれだけの利用価値があるという証拠だ」

「は、はい、陛下……」


 ルーカスの慈悲のない励ましに、ゴルドはさらに項垂れた。

 片や『人力送風機』、片や『人間計算機』。

 アイリスにとって、前列に並ぶこの二人は便利な備品に過ぎないのだ。


 装甲車が峠を越えると、眼下には異様な光景が広がっていた。荒涼とした大地の中、そこだけが別世界のように白く輝いている。


「ほう、あれが『ソフィア』か。噂には聞いていたが、なんとも鼻につく街だな」


 盆地の中央に鎮座する学術都市は、巨大な半透明の『魔力結界』に覆われている。

 結界の内部には、天を衝くような白亜の塔が林立し、流線型の魔導船が行き交う。


 大陸中の賢者や研究者が集う『知の聖地』であり、同時に魔法技術の特許を独占し、高額なライセンス料で各国から金をむしり取る『知財の要塞』でもある。


「鼻につくとは失礼ですわよ、陛下。あそこには世界中の叡智が眠る『大図書館』があるのですから」


 アイリスは手元の『魔法技術ライセンス料請求書』の束を見つめながら言った。


「もっとも、その叡智を『自分たちだけの財布』だと勘違いしている節はありますが。特許法の穴を突いてでも知識を解放して差し上げなくては」

「ボス! あの壁の手前に検問があるみたいです。止まりますか?」


 結界の手前に設けられたゲートには、すでに数名の影が待ち構えていた。


「ええ、正規の外交ルートでアポイントメントは取ってあります。堂々と入りましょう」


 通常なら通行証を持つ外交車両は通れるはず。

 だが、車がゲートに近づき、アレクセイがブレーキを踏んだ瞬間だった。

 突然、地面が爆発し、警告の魔法弾が撃ち込まれた。

 砂煙が晴れると、ゲートの奥から数十名の集団が整列して現れる。

 純白のローブを纏い、手には杖ではなく、分厚い法令全書と計算機を持った『事務官』たち。その中心から、眼鏡をかけた男が一歩進み出て、拡声魔法で告げる。


「車両を停止せよ! こちらは『ソフィア魔導特許管理局・徴収課』である!」


 男は眼鏡の位置を直しながら、アイリスたちを冷徹に見下ろした。


「貴殿らの乗り物は当都市が保有する『魔導車輪駆動特許(第402号)』及び『排気浄化術式(第108号)』に対する重大な侵害の疑いがある。よって、これより強制執行による差し押さえを行う!」

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