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第53話 朝焼けの街


 

「姉さん……!!」

 

「お嬢……!!」

 

 嫌な予感が脳裏を駆け抜けると同時に、黒澤と鰐淵は駆け出していた。

 

 二人の声にも反応せず、金ちゃんとさくらはピクリとも動かない。

 

 近付くにつれ、金ちゃんの身体に刻まれた無数の傷跡がはっきりと見えてくる。

 


 結局俺達が倒した幹部は最初のガトリング野郎だけ……

 

 残りは全部……


 姉さん一人で倒したようなもの……

 

 

 自分たちの不甲斐なさに顔を歪めつつ、二人は金ちゃん達のもとにたどり着いた。

 

「お嬢……!! お嬢……!! しっかりしてくだせえ……!! お嬢……!!」

 

 恐る恐るさくらの肩を揺すると、さくらはゆっくりと目を開いた。

 

「お嬢……!!」

 

「黒ちゃん……? ハゲちゃんも……無事だったんだね……」


「あっしらの心配は要りやせん……!! それよりお怪我はねえですか!? 面目ねえ……俺達が不甲斐ないばかりに……姉さんが……」


「ヤバぁ……《《寝落ち》》してた……あれ……? ママは?」


「へ?」


 その時背後から威勢の良い怒鳴り声が響き渡った。


「てんめえらぁあああ……!!」


 黒澤と鰐淵が振り向くと薙刀を振り回す鬼ババアがドアの所から猛然と走ってくるのが見える。


「ひぃ……!?」


 薙刀の刃は黒澤の喉元でピタリと止まった。


 ギロリと睨むババアの目は、まるで子連れのヒグマを連想させた。


「あんたら……いつかのヤクザもんだね……? さくらと武志から離れな……!! 手負いの武志を殺って一旗上げようったってそうはさせねえ……!!」


「ママ待って……!! 違うの!! 二人は一緒にママを助けに来た仲間なの!!」


 慌てて飛び出したさくらに、ママは目を丸くした。


「馬鹿言うんじゃないよ!? 人は簡単には変わらないよ……!! 何が目的だい!? 白状おし……!!」


 二人は顔を見合わせると正座して深々と頭を下げた。


「この度は、あっしらのせいで店と命を危険に晒したこと……誠にすいやせんでした……!!」


「あっしらは元々、西地区を牛耳ってた國松親分の預かりでした……國松の伯父貴(オジキ)が殺され、組はバラバラになり……青龍商会傘下の中華マフィアに吸収された挙げ句……奴らの言いなりに……」


「ふん……!! そんな誇りのねえ根性ナシが何を今更出張って来たんだい!? また西を狙ってんじゃないのかい!? えぇえ!?」


 ママは容赦のない追い打ちをかけた。


 しかし二人は真っ直ぐにママを見上げて、揺るがぬ炎を宿した瞳で答えた。

 

「あっしらは姉さんに……!! 姉さんの武士道に救われやした……!! 一生この人に仁義を通すと腹ぁ括った次第……!! 姉さんが命懸けで守ろうとするものは、あっしらも命懸けでお守りする所存……!! 虫がいいのは百も承知……ですが……どうか、信じてくだせえ……!!」


 ママは目を細めて二人を睨んでいたが、やがてため息をついてから矛を収めた。

 

「ふん……!! 口で言うのは簡単さね……信じてほしいなら行動で示しな!! うちの雑用兼用心棒もしてもらう……いいね!?」


 その言葉で黒澤と鰐淵は目を輝かせた。


「へい……!!」

「がってん……!!」

 

 その時、二人の背後でムクリと起き上がる気配がする。


「金ちゃん!」


 さくらが言うと金ちゃんは大あくびしながら言った。

 

「ふぁあああああ〜!! よく寝た!! あら……あんた達どうやって来たの?」


 大きく伸びをする金ちゃんに、二人は正座のまま向き直って言った。


「姉さん!! よくぞ……よくぞご無事で!!」

 

「あたり前田の慶次さん! オカマは不死身なのよ」

 

 ボキボキと首を鳴らして金ちゃんが立ち上がる。

 

 金ちゃん窓の方を見やると、さくらをひょいと担ぎ上げた。

 

「ちょ……ちょっと!? なに!?」

 

「今更なに恥ずかしがってんのよ?」


「恥ずかしがってないし……!! 怪我の心配してるだけだし……!!」


「そりゃどーも! それより見てみなさいな」

 


 白みかけた空の下、NEO歌舞伎町の町並みが朝もやに包まれていた。

 

 灰色の青龍街も、けばけばしい花街も、霧の海に包まれて白く染まっている。

 

「すごい……雲海?」

 

「雲海って言うよりは霧海ね。見てなさいよ……すごいのはこれからなんだから……!!」

 


 その時、二人が立った窓の反対側の窓から、燃えるような黄金の旭光(きょくこう)が差し込んだ。

 

 旭光に照らされた漆黒のタイルは消え失せ、部屋は太陽と同じ黄金の輝きに包まれる。

 

 目が眩むほどの金色の光は、やがてNEO歌舞伎町を覆う霧の海に燃え移った。

 

 街全体が黄金色に染まる。

 

 それを満足気に見ながら、侍はさくらの頭に手を置いた。

 

「見よさくら……!! ! 灰の街も、色の街も、人も心も黄金(こがね)に染め上げる……!! これこそが……黄金魂!!」


「黄金魂……」


「そうよ……!! どんなに辛く厳しい時でも、真の世界は美しい……!! 誠を生きる人の心は美しい……!! 覚えておきなさい……この輝きをいつも胸に宿すの!!」



 消えゆく朝焼けを心に刻みつけながら、さくらは小さく頷いた。

 

 こうして、青龍商会との全面戦争は静かに幕を閉じたのだった。

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