表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/54

第47話 死亡遊戯

 

 す……すごい……

 

 黒華(ヘイフォア)は思わず息を飲んでそう思った。

 

 ミスター劉と互角に切り結ぶなんて……

 

 一体何者なの……この侍は……?

 

 

 

「貴様の覇道とやらは幕引きと心得よ……(リュウ)青龍(チンロン)……!!」



 侍が口上を宣うと、ミスター劉は壁に掛けた二本の青竜刀に手を伸ばした。


「侍風情が……大層な口をきく……実に不愉快だ……不愉快極まりない」


 柄に赤い房を垂らした大ぶりの得物は、青緑色の妖しい光沢を放っており、一方の刀身には閉口した龍が、もう一方の刀身には開口した龍の紋様が描かれていた。


「貴様はこの大刀(ダァジァン)双青龍(ソウチンロン)達磨(だるま)に仕上げて、死ぬまでここに飾ってやる……」



「《《ソウロウチンポン》》だが何だか知んないけど……今から死合う相手に刀の自慢? あんた……ごちゃごちゃうるさいわよ?」


 ぴき……

 

 空気に(クラック)が走った。

 

 しかしオカマはお構いないし煽り続ける。

 

「早漏自慢なら、そこの愛人にでもしてくれる? あたしはあんたみたいなのタイプじゃないの」

 

 刹那、侍の首目掛けて左右から青龍刀の青黒い閃きが襲いかかった。

 


 疾い……

 

 侍は上体を仰け反らせてそれを躱すと、素早く柄に手を掛ける。

 

 しかしミスター劉は半身を捻り、左腕に溜めを作ると、そこから再び横薙ぎへと繋げ抜刀を許さない。

 


 大陸特有のしなやかな身のこなし……

 

 巨体を活かした攻撃力と、練り上げられた流麗な型が、大きな体の不利を完全に補っている……

 

「ハイィィィイイイイイ……!!」

 

 刃を躱す侍を、突如強烈な前蹴りが襲った。

 

 なんとか躱したその蹴りは壁を突き破り、巨大な風穴を作り出していた。

 

 体術も一級品ってわけね……

 

「抜かせはせんぞ……?」

 

 足を穴に掛け、ミスター劉は身体を浮かせると、そのまま風車のように回転し大刀の連撃をお見舞いした。

 

 ガリガリと地面を抉り取る無数の斬撃を転がるように躱し、侍が言う。

 

「早漏とか抜くとか……あんた溜まってんじゃない? ……のっ……!!」



 侍は鞘に納まったままの刀を回転する刃の隙間に叩き込んだ。

 

 火花が散り、ミスター劉の回転が止まる。

 

 両者は互いに相手の動きを封じつつも、鼻が付きそうな距離で睨み合っていた。

 

 密着した鞘が青竜刀から離れぬよう、侍は二刀を巻き込むようにして力を込める。

 

 やがて妖艶な笑みを浮かべたオカマザムライは、柄を歯噛みし、ゆっくりっと刀を鞘から抜いて鯉口を切った。

 


 まるでアイシャドウと揃えたかのように、淡い紫味を帯びた刃紋が覗く。


 妖しい光を放つ刀身に、侍の眼が映り込む。

 

 

 ここまでの緩かな動作が嘘のように、侍は鮮烈な緩急をもってして鞘から両手を離した。

 

 拮抗する力が消え、ミスター劉が姿勢を崩す。

 

 侍は宙に浮いた刀から直に抜刀すると、高々と上段に構えた刃を返し、袈裟掛けに振り抜いた。

 

 思わず飛び退いたミスター劉のスーツがハラリ……とはだけ、侍はニヤリと口角を上げる。


 

 対するミスター劉の表情からは怒りの色が消えていた。


 一刀を地に突き立て、切られたスーツを破り棄てると、首をボキボキと鳴らし、肩甲骨を回転させる。


 地面の刀を抜くと、半身を引き、両腕を大きく開いて吠えた。


 凍てつくような殺気に空気が震えあがる。


 一刀を後方斜め上に流すように構え、もう一刀を侍の喉元に向けた構えは、さながら巨大な龍を思わせた。

 

 

 対する侍は、地に深く腰を沈ませ、右肩の上に構えた刀の切っ先を斜め左下に滑らせる。

 

 二人は、前に構えた足を軸に、後ろ足で地を擦りながら、ずり……ずるり……と時計回りに円を描いて睨み合っていた。



 僅かな位置取りの変化から、両者の構えは移り変わっていく。



 目にも止まらぬ速さで、侍は峰に手を添え、刀を下段に構え直した。



 呼応するように、ミスター劉も腕を伸ばし、二刀を並行に構えて迎撃の構えを見せる。

 

 

 探り合いの末、先手を打った侍は峰に手を添えたまま、下段からの突きを放つ。

 

 脇腹に迫る切っ先を、青龍刀の腹で受けると、ミスター劉はもう一方の剣を振り上げた。

 

 侍は切っ先を起点にして、振り下ろされる刃を鍔近くで受け止める。

 

 

 微妙極まる力の掛け方、重心の位置、刃の角度……

 

 そのどれを誤っても致命的な結果が待ち受ける。


 死亡遊戯の様相は、徐々に激しさを増し、速度を上げて、二人の猛者を奈落の底へと誘っていく。


 

 二人が激しく切り結ぶにつれ、床に丸い円が浮き上がっていくのにさくらは気付く。


 広い部屋の中、僅かな空間で戦う二人。

 

 そこに渦巻く濃密な時に、介入できる者など、誰一人としてそこに居はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ