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第24話 閃光照顔

 

「どうしよう……金ちゃんがいなくなっちゃった……ねえ!? どうするの!? 金ちゃんは!?」

 

 慌てふためくさくらの両肩を掴んで黒澤が静かに言う。

 

「お嬢……!! 落ち着いてください!! さっき声が聞こえた。(あね)さんは無事です……!! それより、今はご自分の心配を……!!」

 

 努めて冷静に振る舞う黒澤の広い額には、一筋の汗が滲んでいた。

 

「お嬢のことはこの黒澤と鰐が命に代えてもお守りします……!! ただ、あっしらは二人で束になっても姉さんには敵わねえ……今危険なのは姉さんではなく、むしろあっしらの方なんです……!! どうぞ……お気を強く……!!」



 さくらは気持ちを落ち着けようと大きく息を吸う。

 

 ふぅ……と息を吐き出すと、いつもの生意気な顔に戻ってさくらは言った。

 

「ごめん……もう大丈夫。金ちゃんは心配ない。それより、《《命に代えても》》は取り消して……!! 全員生きて帰るのがあたし達の勝利条件なんだから……!!」


 黒澤と鰐淵は驚いた様子で互いに顔を見合わせた。


 そんな二人を生意気な瞳の奥に真剣を構えたさくらが睨みつける。


 

「わかりやしたお嬢……肝に命じやす……!!」


「それにワシらかて死ぬ気はおまへん……!! 気合いれてやるいう意味ですわ!!」 


 笑顔でそう答えながらも、二人は密かに覚悟を固めていた。

 

 もしもの時は……

 

 刺し違えてでもお嬢を守る……

 

 それが、姉さんに仁義を通す、極道の道だ……

 それが、姉さんに仁義を通す、極道の道や……

 

 


 ⚔

 

 

 そんな一行を影から見つめる目があった。

 

 暗い部屋の中で腐果老は亀の甲羅に浮かび上がる一行を眺めて不気味な笑みを浮かべる。

 

「ふぇふぇふぇ……!! 上手くいったわい……オカマとの分断は大成功……あとはあの小娘を……ぐふふ……ぐふふふふふ……」

 

 亀甲に浮かんださくらのホログラムに指を這わせて老人が恍惚に浸る。

 

「さあ……お行き……儂の可愛い子たち……あのやくざ者二人を八つ裂きにしてしまうんだよ……? そして娘は無傷でここに連れておいで……ぐふ……ぐふふふふ」


 低い唸り声を上げて何かが暗い部屋を飛び出していった。

 

 それを見送り、再び腐果老は亀甲に浮かび上がるホログラムに視線を落とす。


 そこには侍が重たい扉を開き、ちょうど部屋の中に入るところが映し出されている。

 

「ふぇふぇふぇ……飛虎殿とオカマ侍の戦いはどちらが勝ってもお互いただでは済まぬだろうて……これは愉快!! 見もの見もの……ぐふふふふふ……」

 

 老人はそう言って笑うと、二人の戦いの行方を邪悪を宿した小さな目で見守るのだった。

 

 

 ⚔

 

 ガコン……

 

 鐘楼のような青銅の扉が音をたてて開いた。

 

 中には燃える松明がいくつも揺らめき、室内を朱く染めている。

 

 その部屋の中央に、胡座を組み、目を伏せて待つ青年の姿があった。


 肩までの白い道着に金の帯、眉に届くかどうかの真っ直ぐな黒髪と引き締まった肢体。

 

 先程感じた殺気の主に違いないが、さっきと打って変わって、青年の気は凪いでいる。

 

 若く丹精で整った顔立ちをしているが、醸す気配は数多の死線をくぐり抜けた、紛うこと無き武の漢。

 


「死合う前に問うておきたい。さくらと二人をどこにやった……?」

 

 侍の言葉で青年はすう……と目を開く。

 

「私は知らない。仲間の居場所は不過老殿が知っている。私はただ……己の強さの果てを見極めたい……それだけだ……」

 

 そう言って漢は立ち上がると床に置かれた朱い槍を手に取り背後に構える。


 青龍刀のような(やいば)の付いたその槍は、関刀(グアンダオ)と呼ばれるものだった。


 かつての名将も愛用した間合いと威力を併せ持つ優れもの。

 


 軽く曲げた左手を前に突き出し、漢は四本の指を天に向ける。

 

「手合わせ願おう……侍の人。あなたを殺し、わたしは強さの先に往く」

 


「それが悪党に与することになろうとも……か?」

 

 

「無論……我が強さの証明のために……もしあなたが戦いを避けるというならば、わたしはあなたの仲間を殺しに向かう……」

 

 そう言った途端、漢の身体から凄まじい闘気と殺気が溢れ出した。

 

 金ちゃんはするりを刀を抜くと、右肩の上で構えた切っ先を漢に向ける。

 


「哀れなり……武に取り憑かれた人。義は勇に勝ると心得よ……」

 

 そう言って侍が目を見開くと、解き放たれた気が漢の気を押し返す。

 

 激しく打ち消しあった気が、気流となって立ち上ると、あたりに静寂が訪れた。

 

 

 ごとり……

 

 崩れた炭火の音で、二人は同時に床を蹴る。

 

 高く舞い上がった漢は「()ぁぁぁあああああ……!!」と気合の声を上げ、鋭い突きを侍に見舞った。

 

 侍がそれをゆらりと躱し、迎え撃とうと構えると、漢は地面に突き刺さった槍に体重を預け天に向かって両足で蹴りを放つ。

 

 すると穂先が地面から抜けた。


 再び舞い上がった漢が今度は連続の突きを放つ。

 

 侍は初手を躱し、二撃、三撃と穂先を刀で打ち払うと、後ろに飛び退き距離を取った。

 

 間合いの利を活かし、漢は渾身の突きで侍を追撃する。

 

 迫りくる切っ先を睨みつけ、侍は下から上へ円を描くように刀を振るった。

 

 刃と刃が鎬を削り、眩い火花が二人の顔を照らし出す。

 

 強者との邂逅に歓喜で打ち震えながら、漢は興奮を抑えきれずに叫んだ。

 

「素晴らしい!! 一切無駄が無い動き……!! 判断力……!! そして胆力!! あなたのような人に会いたかった……!!」

 

「ええ……ここじゃないどこか別の場所で、あたしもあんたに逢いたかったわ」

 

 漢とは対象的な憂いを帯びた目で、侍は答える。


 


「さあ……!! もっと殺ろう!! 侍の人!!」

 

 深く地に伏し、槍を抱きかかえるような奇妙な構えで漢が吠える。

 

「いい漢のお誘いで残念だけど、あたし……先を急いでるの!!」

 


 噛み合わぬの二人を置き去りに、刃は幾度となく交わり、火花を散らす。

 

 やがて切っ先は互いの皮膚を捉え始め、うっすらと、しかし確実に、戦いは死闘の様相を強めていくのだった。

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