66 君の名前は
さて、今私はラヘルとアクセスの間の草原に来ている。ちょうどモカさんをテイムした辺りのところです。なぜこんなところに来ているのかと言うと、クランハウスの建材の調達である。この草原はあちこちに岩が点在しており、そこで石材を取ってきて欲しいというのが今日の私のお仕事だ。他の二人はなにやら秘密兵器を作りに行ってるらしい、詳しいことは実際に見るまで教えてくれないらしい。
現在マルが石を掘って、掘った石をカスミがモカさんの荷車まで運んでいる。ちなみにモカさんは荷車を繋いだ状態で採掘が終わったらマルを乗せて次の採掘ポイントへと移動してくれている。そう、つまり全自動である。いやー、仲間が勝手にやってくれるって言うのは楽でいいね。そしてやることのない私は荷車の上で例のタマゴを抱いて温めている。そろそろ孵ってくれてもいいと思うんだけどなあ。ま、今日もいい天気で何よりだよ。
暖かな日差しの中、今日も日向ぼっこが捗っていた。そして私の隣にはどんどん切り出された石材が積まれていっていた。
「にしてもブラックカウってこんなにいっぱいいたっけ?」
私達の周りには3匹一組で固まっているブラックカウたちが見える範囲だけでも7組はいる。前に来たときはそんなにいなかったような気もするんだけど。この前のアップデートでモンスターの数を増やしたってユウさんが言ってた気がする。
パキッ
それは前触れもなく始まった。タマゴにヒビが入り、だんだん大きく揺れだした。私は急いで地面に降り、タマゴをそっと置いた。いよいよ、待ちに待った誕生の瞬間だ。
ペキペキッ、パーン!
フシャーーーーーー!!
眩い光がタマゴを包んだかと思ったらその光は大きく膨れ上がり、そして弾け飛んだ。中からは前に出会った大きさと同じくらいのアメジストスコーピオンが両鋏を上にあげ、サムズアップするかのようにポーズを取っていた。
「よーしよし、おいでー。君の名前はフェブレロだよー。」
もうこの子の名前は決めてあった。前に3人で集まったときにもうすぐ孵りそうって話をしたら名前を決めようって流れになった。
「んー、私はスコちゃんにしようかと思ってるんですけど。」
「それは~、却下で。」
「えー。私が親なんですけど?」
「フェブレロ…。」
「なんかかっこいい。」
「スペイン語で2月…。アメジストは2月の誕生石だから、それにちなんで…。」
「ん~、それにしましょう!ね、アカリさん。」
「悔しいけど、私よりちゃんと考えてて反論できない。」
こんな感じで名前は決まった。私のアメちゃんもいいと思うんだけどなあ。ちなみにステータスはこんな感じ。
【フェブレロ】(アメジストスコーピオン)Lv1
体力(HP) 40/40
スタミナ(ST) 30/30
筋力(STR) 15
知力(INT) 5
俊敏性(AGI) 10
器用さ(DEX) 5
重量(WT) 10
スキル:<紫水晶の鎧:Lv1> <挑発:Lv1> <猛毒液:Lv1>
レベルは1だった。まだステータスが低く、何が得意なのかははっきりとはわからない感じだった。この前4桁のステータスお化けを見たから、なんだか初心に帰れてほっこりしてしまった。
スキルは1レベルながらも3つ覚えており、最初の紫水晶の鎧は打撃以外の物理攻撃を軽減して魔法は弾くというスキルらしい。ウサ吉の衝撃吸収のような感じ常時発動しているスキルのようだった。挑発は周囲の敵の注目を集めるスキルで、たしかタンク役のプレイヤーが使ってるって前にユウさんが言ってた気がする。最後に猛毒液だが、これは名前の通りに触れた敵を毒状態にする液体を出せるみたいだ。初めての状態異常使いだ。
とりあえず、スキル的にはタンク役っぽいけどどうなんだろうか。まだステータスが弱いからあんまり前に出てもらうのは厳しそうだけど。ちょっと戦わせてみようかな。
レイと社員さんを召喚して、フェブレロの初戦闘をすることにした。相手はその辺にいっぱいいるブラックカウだ。一番近くの集団に近づき、レイに1匹だけ残して他は倒してしまうよう指示を出す。
ンモォーーー!!
1匹だけ残ったブラックカウが声を上げ、こちらへ突進してくる。それを止めようとフェブレロが前に立ちはだかる。が、衝突音と共にフェブレロはあっさり飛ばされてしまった。ま、そうなるよね。急いで社員さんに回復指示とレイにとどめを刺すよう指示を出す。フェブレロはなんとか瀕死になることはなく持ちこたえたようだった。ごめんね、無茶させて。
今度はレイを先頭にして、後ろから猛毒液を飛ばしてもらうことにした。あっという間に群れの2匹をレイが倒してしまい、最後の1匹の気を引いてくれていた。そこにフェブレロは尻尾から紫色の毒々しい液体を噴射してブラックカウに纏わりつかせた。ブラックカウの体力バーの横に毒のアイコンが表示され、時間とともに徐々に体力が削れていった。数分経つ頃にはもう瀕死寸前まで体力が減っていた、しかし毒では倒せないようで体力がほんの少しだけ残った状態で止まった。
「フェブレロ、トドメを!」
その指示で、今まで私の横にいたフェブレロは走り出しブラックカウの横っ腹に鋏を突き立てた。ちゃんとダメージが入ったようで無事ブラックカウを討伐できた。その後もレイに敵の注意を引いてもらいながら周囲のブラックカウたちを倒して回った。お陰でフェブレロのレベルも上がり、大満足の成果が得られた。
あれ?私何しにここに来てたんだっけ?となるくらい夢中でレベリングをしてしまった。元の場所に戻ると石材の採掘は終わってたみたいで、カスミとマルは荷車の中で寝ていた。モカさんは相変わらず呑気に草を食べていた。とりあえず目標数以上の石材は集まったのでよしとしよう。
その後はモカさんとレイ以外の子たちは仕舞って帰路についた。
|ω・) 目的を見失って寄り道、あるあるですよね
誤字脱字等ありましたら報告いただけると助かります。
感想や評価、ブックマークやいいね等していただけると喜びます。
更新は毎週火曜と金曜を予定してます。




