124 魔道具専門店
トントン
「ちょっといいかしら〜?」
私の部屋のドアをルリが叩いた。
「どうぞ。」
「お邪魔するわね〜。『一つ聞きたかったんですけど、ダンスや演奏っていう支援スキル勧めなかったのは何か理由があるんです?』ってリーダーからチャット来たけどどうする〜、ユウ。」
「もう少しうまくなってからがいい…、出来ればはぐらかしておいて…。」
「はいは〜い、とりあえず適当に言っておくけど、ちゃんと使えるようになりなさいよね〜。せっかくスキル構成変えてまでやってるんだから〜。」
「うまくいきそうだよ…。いや、うまく活かして見せる…。」
そう、私は今新しいスキルの特訓中。と、言うのも前のスキルはソロでの戦闘に特化したものだった。特に一対一をメインにするような。別に対多数を苦手としてたわけではなかった、私の運動神経があれば攻撃をパリィで弾きながらカウンターを入れるなんて造作もなかった。ただ、最近感じていたのはみんなと遊ぶようになってからどうしてもできることが少ないと感じた。
最初にそれを感じたのはハルカに戦い方を教えているときだった。ハルカに盾の使い方を教えながらの戦闘だったのだが、うまくハルカに一対一をさせるように立ち回ったが、生憎ターゲットを集めるようなスキルは持ってないため苦戦した。ハルカには最初少し怖い思いをさせたかもしれない。シルバーウルフ2匹相手に盾に隠れ怯えてたハルカの姿を今でも覚えている。あれは本当に私の失敗だった。
次に力不足だと感じたのはサマーイベントだ。単独行動に適してる私にサイドクエストを任せてくれて嬉しくはあった。だけど、結局最後のボス相手に私のできることは殆ど無かった。もっとみんなの役に立ちたかった。
「じゃ、私は工房に戻るわね~。作りたいものがまだまだあるし~。」
「ん、ありがと…。」
ルリが出ていったのを確認してまた練習を再開する。早くみんなの役に立てるようになろう。
◇
テロンッ♪
「お、ルリさんから返事だ。なになに。」
『話題に挙げなかったのわ~、リーダーが不器用そうだからやめといたの~。ごめんね~。それとよかったら今から教えるお店に私が注文してたアイテムを取ってきてくれるかしら~。《添付ファイル》 ルリ』
「ふむふむ、やはり器用じゃないとダメなのか。でも人を不器用扱いするなんて、って言いたいところだが事実だから仕方ないか。それよりもお使いか、時間もあるしついでにやっていこう。」
とりあえず返事をしてっと。
『了解です。帰りにもらってきますね。 アカリ』
「それで、目的のお店はっと。ちょうど今いるレストランからすぐのとこだね。残ってるヒールベリーのジュースを飲んでしまったら、早速行ってみよう。」
ヒールベリーのジュースを一気に飲んでしまい、すぐさまレストランを出ていった。久々に食べたきのことクリームパスタは懐かしい味だった。
「さてと、この通りを真っ直ぐ行って、ここを曲がれば。お、見えてきた。あそこだね。」
レストランから出てすぐの通りを進み、路地に入ったすぐのところ。立ち並ぶお店の看板の一つに目的の店があった。魔道具専門店「黒猫の黄色い瞳」。扉を押してすぐさま入店した。
カランカラン♪
「すみません、お邪魔します。」
「いらっしゃい、何をお求めで?」
店内にはずらーっといろいろな形の道具が飾ってあった。ほとんど何に使うのかわからないものばかりだけど。店の奥にはカウンターがあり、そこには一人の少年が店番をしていた。と、言っても少年はNPCの表記があった。店番として雇われてるのだろう。
「店主さんはいらっしゃいますか?頼みの品を預かりに来ました。」
「少々お待ち下さい。」
カウンターの後ろにあるドアから更に建物の奥に少年は消えていった。開いたドアの先にはどうやら作業場になっているようだった。そしてその作業場にはこちらに背を向けて座っている一人の影があった。
「店長、お客さんです。」
「あいよ、すぐ行く。」
そう言って店主はすぐに出てきた。身長はすごく高く、スラッとした体型の男性だった。少しウェーブのかかった黒髪をハーフアップで後ろで束ねてある。シャツにジーンズと普段着のような姿をしていた。柔らかな表情の要因はこの黄色く光るタレ目のせいだろう。
「あんたがアカリか?ロリ嬢、いやルリ嬢の使いの。」
ロリ嬢?聞かなかったことにしよう。
「はい、ルリさんの頼まれ物を受け取りに来ました。」
「じゃ、あいつのクランのリーダーってのはあんたか。俺はネロだ、魔道具を専門に作ってる。よろしくな。ルリ嬢とは業務提携の仲って感じだ。」
「よろしくです。一応もふもふファームのクランリーダーしてるアカリです。モンスターテイムしながらあちこち旅してます。」
「テイマーか、最近は少しづつ増えてはいるが珍しいスキル使ってんだな。」
「いろんなモンスターもふもふできて良いスキルだと思うんですけどねー。」
「ふふ、それは確かにそうだな。それでルリ嬢からの依頼の品はこれになるんだが。」
そう言ってカウンターの下から麻袋に包まれた円柱状の物を出した。大きさは片手に乗るくらいの物だったが、受け取るとそれなりの重さがあった。2~3キロくらいだろうか。
「また酔狂な物を依頼してきたもんだと最初は思ったが、作るのはだいぶ楽しかったよ。特に軽量化と小型化に難儀したよ。でもお陰でスキルも上がったし、新しいアイディアも思いついた。この技術を使って今までの物を改良できそうだ。ルリ嬢にはよろしく言っといてくれ。」
「これの中身は何なんですか?私何も聞いてないんですよ。」
「ああ、そうなのか。これは増幅装置っていう魔道具だ。当たった魔法を増幅し、周囲に発散する。しかし、こんな物何に使うんだろうな。」
「んー、あの人何考えてるんでしょうね。私もわかんないです、ハハハッ。」
「テイマーならモンスター用の装備で欲しいのがあればいつでも相談してくれよ。魔法に関する装備なら任せてくれ。ルリ嬢を通して依頼してくれてもいいぞ。」
「魔法ですかー、私の子たちだと2匹いるんですけど。」
「1匹目はシャインディアで、回復魔法を使います。もう1匹はミストオウルで水魔法を。シャインディアの方はルリさんの作ったサドルを装着してるんですが、ミストオウルは何も装備させてないんですよ。」
「なるほどな、モンスターの装備枠は1つだから、サドルをつけて防御を上げてるならそれでいいと思う。ミストオウルの方は足輪なんかいいんじゃないか?効果は水魔法を強化する物がいいかもな。」
ふむふむ。
「今連れてるなら見せてくれないか?」
「は、はい。おいで、カスミ!」
ホウッ!
「おお、この子が。ちょっと触らせてもらうぞ。うむ、足のサイズはこれくらいなら人用の指輪なんかでも良さそうだな。ちょっと待ってろ。」
そう言って作業場の奥へ消えてった。そしてすぐさま戻ってきた。
「これと、これと、これが今あるものになる。」
3つ並んだ指輪にはそれぞれ宝石がはめてあった。水色に紫、無色のものが並んでいた。
「左から水魔法+4、こっちが知力アップ、最後は魔法のスタミナ消費軽減。どうだろうか?」
んー、どれがいいのだろうか。どれも良さそうだなー。でも付けるの私じゃないしな。
「カスミ、どれがいい?選んでいいよ。」
ホウッ?ホー!ホホッ!
カスミは飛びながら近づいて、水色の指輪をくちばしでつついて見せた。
「これがいいらしいです。いくらですか?」
「お、一番いいものを選んだな。これは20万だ。」
う、高い…が、払えない額ではない。うちの子のためだ、出し渋る必要もないだろう。そう言えば他の子たちの装備も揃えないとなー、ルリさんに聞いてみよう。
「か、買います!はい!」
「毎度あり!また縁があればどうぞよろしく。それじゃルリ嬢にもよろしく言っといてくれな。」
思わぬ収穫もありながらお店をあとにした。
◇
「ただいまーっと。」
リターンでクランハウスへ帰還した。元気よくドアを開けたがこの広いクランハウスだ、返事が帰ってくるはずもなく。ルリさんは工房だろうか、向かってみよう。
工房の方へ向かうとトンテンカンと金属を叩く音が聞こえてきた。
「お邪魔します、帰りましたよ。」
「あら~、おかえりなさい。」
「ただいまです。これ、言われたお使いの品です。」
そう言ってネロさんから預かった魔道具を渡そうとした。
「あ~、それはユウの物だから渡してきてくれる?自室に居るはずだから。」
「わかりました。後で持っていきます。」
「それと、頼まれてたサドルできてるわよ。こっちがランニングホースで、こっちがグランドホースのものね~。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、サドルにも能力付けができるようになったから~。ランニングホースの方にはスタミナ消費軽減+5とグランドホースには牽引+6を付けといたわ~。ルインズ盗賊団の倉庫に眠ってた装備から付け替えたんだ~。宝の持ち腐れしてたからもらってきてあげたわ~。」
ちゃっかりしてるなー。てかこの人、私がテイムしてくるの予見してもらってきたってことだろうか。怖い怖い。
「あと~、昔作った子たちの装備も更新するから~。何か要望あれば聞くけど~?無いならこっちで勝手にスキル付けるわね~。」
「いえ、そこはお任せします。あ、でもカスミの分は先ほどネロさんのとこで買ってきたので大丈夫です。」
「なっ!先を越されたか~、やられたわ~。ま、あいつのなら効果は折り紙付きだからいっか~。よし、他の子たちは任せて!負けないくらいいいものを作ってみせるから~!」
何やらルリさんの闘志に火を付けてしまったようだった。
「じゃ、じゃ装備のことお願いします。」
「わかったわ~。任せなさい!」
「そ、それじゃユウさんにアイテム渡してきますね?」
火の付いたルリさんは手だけで返事しながら、もうすでに作業に取り掛かっていた。私はそれを見届けて工房をあとにした。次に向かうのはもちろんみんなそれぞれの自室がある2階だ。
トントン
「アカリです、ユウさん今いいですか?」
「ま、待って…!!今片付けるから…。2分、いや3分…。」
どうやらユウさんは部屋を散らかすタイプらしい、意外だ。ここは静かに待っておこう。
…5分後…
「お、お待たせ…。どうぞ。」
「お邪魔します。」
開いたドアの先は意外とシンプルな内装をしていた。とても散らかっている様子はないようだけど何を片付けていたんだろうか。
「お茶入れようか…?」
「いえ、大丈夫です。アイテムを渡しにきただけなのなで。今日中央都市に用事があって行ってきたんですけど、帰りにルリさんに荷物の受取を頼まれて取ってきたんです。はい、これ。」
「う、うん。ありがとう…。」
「それで、これは何に使うんですか?」
「えっと…、まだ秘密…。」
目が泳いでる。何を隠しているんだろうか。ま、無理に聞くのもあれだし、そのうち教えてくれるまで待っておこう。
「絶対あとで教えて下さいね!」
「うん…、ちゃんとあとで教える…。」
楽しみにしておこうかな。
「それじゃまた。」
「うん、また…。」
バタンッ
「これで揃った…、絶対物にするんだ…。にしてもこの部屋ちゃんと防音だよね…?」
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