95 2回目の挑戦4
「えっとえっと、こういうときは落ち着いて素数を数え…、じゃなくて魔法を唱えて。」
急いで魔導書を開き、唱える。
「アポート!」
ズドンッ!
大蛇にがんじがらめにされていたクーちゃんを別の場所に瞬間移動させて開放する。捕まるものがなくなった大蛇は大きな音とともに地面に落下した。砂煙の中からにょろにょろと起き上がる大蛇の体力バーは落下ダメージを受け、1/3ほど削れていた。このゲームの落下ダメージは理不尽なほどに痛いが、敵も同じ条件なのでイーブンと言うことなのだろうか。ま、なかなか落下させるのは難しいみたいだけどね。
フシャアアアアアアアア!
また、大きな咆哮を上げた。すると、周囲に流れていた溶岩の噴出が激しくなり地面にも溶岩が流れ出した。
「えとえと、ポータル!二人共一緒に入って、避難するよ。」
自分たちの目の前とクーちゃんの背中の上にポータルを設置する。ポータルをくぐり、クーちゃんの背中の着地する。背中から少し外に乗り出して地面を見ると、さっきまで居たところは溶岩に沈んでしまい、残った部分は先程の半分ほどまで減ってしまった。すぐクーちゃんの背中に移動して正解だったかもしれない。大蛇の方を見ると沈んだ溶岩の中を泳ぎ、残った陸地部分をぐるっと囲んでる。体力が減ったことで何か変化したのかもしれない。大蛇は相変わらずこちらを睨みつけている。
「とりあえず社員さんはクーちゃんの回復を継続で。」
クーちゃんの体力が多いのもあって、なかなか回復が追いついていない。前にユウさんが、今は一定量の回復で間に合ってるけどそのうち割合で回復するようになったがいいって言ってたっけか。今度詳しく聞いておこう。
そんなことを考えていると、大蛇がこちらに向かって大きく口を開いた。開いた口は180度近くまで広がり、喉の奥が膨れ上がった。そして、吐き出すようにして口内から巨大な火球を飛ばしてきた。
「ぽぽぽ、ポータル!」
慌てて火球の前にポータルを展開し、出口を大蛇に向けて返すように開いた。弾き返した火球はまだ開いている口の中に着弾した。
ゴックン、プシュー
戻ってきた火球をそのまま飲み込んだ大蛇の口からは黒い煙が湧いて出てきた。どうやらダメージにはなっていないようだった。何事もなかったように大蛇はまたぐるぐると溶岩の中を優雅に泳ぎだした。1周ぐるりと回るとまたこちらに口を開け、火球を放つ準備を始めた。
「クーちゃん、エアブラスト準備しといて。」
キュイ!ズゴゴゴゴー!
空気を吸い込み、準備し始める。
「いい?火球が飛んできたら私が返すから、それに合わせて発射してね。」
大蛇の喉の奥がまた膨らみ、絞り出すように吐き出してきた。火球の大きさは先ほどと変わらないくらいだった。
「ポータル!クーちゃん、今!」
飛んできた火球を明後日の方向に向けて返した。そしてクーちゃんの口から巨大な竜巻が放たれる。開いた口に直撃し、大蛇は後ろにのけぞった。ちゃんとダメージが入ったようで、体力バーが半分を切った。
「よしよし、ないす!」
思った通りにうまくいくと気持ちがいいものだ。しかし大蛇は何事もなかったようにまた溶岩の中を泳ぎだした。どうやら今はこの攻撃を凌ぎながら闘うフェーズのようだ。やり方が分かればこっちのものだ、もう一度同じ様に準備する。
「クーちゃん、もう一度準備を。」
さぁ、こい!と心の中で思いながら私も魔法の詠唱をしておく。ぐるりと周回し終えると、またこちらに向かって口を開き出した。そして喉の奥が膨らみだす。なんだかさっきよりも開いた口が小さく感じるが気の所為だろうか。違和感を感じながらも射出される瞬間を見計らう。
バババババッ!
「ちょっ、それは聞いてないって。クーちゃん避けて!」
口から出てきた火球は大きな物ではなく、小さく複数の物が飛んできた。想定を外れた攻撃に対応できずいくつかの球に被弾してしまった。発射し終えた大蛇の顔が少しあざ笑うような表情に見えてしまい、ムッとしてしまった。
「社員さん、回復まだできそう?」
社員さんのスタミナを確認すると、スタミナ回復を消費が上回っているようで半分を下回っていた。とりあえず今回の被弾分くらいの回復はできそうだが、これ以上の被弾は間に合わないかもしれない。どうしたものか。火の玉を無効化するには、うーん。そうだ!
「カスミ、おいで。ウォーターウォールって出来る?」
ホウッ!
いい返事と共にカスミが魔法の詠唱をはじめ、大きめな魔法陣が出現した。
ホーッホウ!
詠唱が終わると大きく渦を巻くように水でできた円状の壁ができた。これでさっきの小さな火球を防げればいいのだけれども。
「クーちゃんももう一度準備しておいてね。」
これで小さい火球と大きな火球への対処ができたと思うが、次はどう来るのか。しかし、クーちゃんのスタミナも減ってきている。あと何回エアブラストを撃てるだろうか。そうなるとこちらの攻撃手段が乏しくなってしまう。何か決定打が欲しいが。
クゥーン、ワッフ!
考え込んでいると手持ち無沙汰にしていたレイが体をこすりつけてきた。そしておもむろに風纏いを発動した。何かを伝えたいのか、こちらを見ている。
「急にどうしたの?」
ワンワン!
ンーキュッ!
どうやら何かレイとクーちゃんの間で意思疎通を図っているようだ。ま、2匹にここは任せて見よう。
そうこうしている間に大蛇は周回を終え、またしてもこちらに口を開けて次の攻撃の前動作を始めた。相変わらず喉の奥の部分が急に膨れ上がり、火球を吐き出してくる。今回も小さな火球群を飛ばしてきた。
ジュッ、ジュッ
水の壁に着弾し、蒸発して消えてゆく。ちゃんと防げているようで、まずは一安心だ。すると、急に宙にレイが飛び出した。急な行動に目を丸くしていると、クーちゃんがレイを巻き込むようにしてエアブラストを大蛇に向かって放った。
グオオオオオ!!
大きな風の渦にレイは飲み込まれてしまった。そしてそのまま水の渦をも巻き込んで突き進む。水分を含んだ風の渦は、大蛇の口の中へ直撃した。水を含んだエアブラストを受けた大蛇は真後ろに倒れ込むように仰け反った。
「レ、レイは?!」
しかし、収まった風の中には飛び出したレイの姿はなくなっていた。一体どこに消えてしまったんだ。
|ω・) パンダのパンはパンパンだ!
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