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第二次性徴

作者: 雉白書屋

(お題 【猫】【目覚まし時計】【チョコレート】)



 ――ジリリリリリリ


 目覚まし時計の音。一日の始まりを告げる憂鬱な音。

小学生の時から使い続けている文字盤にアニメキャラクターが印刷されている子供っぽい時計だ。

 この前までは何とも思わなかったのに中学生になった途端

見る度にどこか恥ずかしい気持ちになる。

 これも成長なのだろうか。そう、せいちょう……。

 最近、第二次性徴って言葉を知った。いや、何度も誰からも聞かされた。

思春期に体に起きる変化のことだって。

 同級生の何人かが身長が伸び、髭が生えた。

あそこの毛だって生えたって見せてきた奴もいる。

 僕も生えた。


 耳と尻尾が。



「あら、おはよう。まぁ、うふふ、顔を洗っているのね。今日は雨かしらうふふふふ」


「……ああ、うん。おはよう、母さん」


 僕の母さんは少し変わっていると思う。

……けど、そんなの僕が言えたものじゃない。

 ある朝、僕に耳と尻尾が生えた。

いや、正確には初めはイボのようなものだった気がする。

でも、段々と大きく、そして毛が生え始め

今では見ればそれとわかる猫の耳と尻尾になった。

雨上がりの筍みたく、急成長。

ほんの数日でこうなったのだから手の打ちようがなかった。

 僕が女の子だったら喜んでいたかもしれないけど

いや、まあ可愛いとみんなから、特に女子から言われるのは

悪い気分じゃないけど、でも不安だ。

だってさすがにこのままおじさんになったら……。

猫耳おじさん……うう、ゾッとする。

 いや、もっと怖いのはこのままどんどん変化して

僕の体が完全に猫に変わってしまうことだ。でも……。


「ほらぁ、わたしの猫ちゃん。早くご飯食べちゃいなさい」


 と、僕の不安をよそに母さんはこの調子。

元々、猫が飼いたかったけど父さんが猫アレルギーだったから諦めていたそうだ。

 その父さんとも今は別居中。単身赴任だって僕に言っていたけど

仲があまり良くないことは知っている。


「今朝はマグロよぉ!」


 母さんはやたら魚料理を出してくる。

べぇと出した舌は確かにこうして鏡に映してみるとザラザラして猫の舌みたいだけど

別に食の好みは変わっていない。

 変わったことと言えば、運動能力が上がったこと。猫らしく、しなやかで軽やか。

これはいいんだけどでもやっぱりこの耳は……あ、動いた。はぁ……。

 母さんは僕がこのまま猫に変わっても構わないのだろう。

僕が学校に行きたくないって泣きべそかきながら

初めてこの耳と尻尾を見せた時も大喜びしていたもの。

 ああ、僕はどうなってしまうのだろう……。




 ――ジリリリリリリリ


 


「おはよう。ご飯よ」


「にゃーい……」




 あれからまた成長し、変化が起きた。

 髭が生えた。

 体毛が濃くなった

 歯が鋭くなった。

 鼻と口が突き出た。

 瞳孔が縦長になった。

 あそこが大きくなった。

 身長が伸びた。



 でも、一番変わったことと言えば

最近、母がやたらチョコレートを勧めてくるようになったことだ。

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