ケモ耳メイドは悪役令嬢を盗み見する
猫の獣人さんが主人公なのでねこが好きかというと、どっちかというと犬派です。実家のお犬様には毎日のように体あたりされて満身創痍です。多分ヒエラルキーの最下層なんだろうなぁ〜と思います。
「月華! また逢えるなんて―――」
満面の笑顔で私に抱きつこうとする天敵②をスルリとかわし、スッと頭を深く下げる。
「申し訳ございません、バーンズ卿。ご無礼を承知で名を名乗らせて頂きます」
動揺を幾分か隠せたと思っていましたが、いつもより低い声が出てしまいました。私もまだまだですね。更に精進せねばいけません。
心中穏やかでない私とは真逆に、何故かバーンズ卿の瞳が輝きだしていた。
「その声!! 月華だよねっ 喋り方は……なんか堅いけど、でも」
「私、ボルク公爵家、カルディナ・ファラ・ボルクお嬢様の侍女でノワールと申します」
被せる様に自己紹介をします。
「―――? えっと……」
「魔法を身体に纏い、剣を振るうバーンズ剣術はこの国のみならず近隣諸国でも名を知らぬ者はないとお聞きしております。その様な国の宝でもあるバーンズ伯爵家の後継者たる方に、先に名を名乗る無作法失礼いたしました。………本日は、お嬢様にとってハレの日で、そのお姿をこの目に焼き付けたかったのですが……この様に周囲の視線を集めてしまう行為をしてしまった私がお嬢様のお側におりますのは些か宜しくないのでは…と、暫くの間お部屋にて待機させて頂きます。代わりとしてメイドをお呼びいたします」
途中で息なんて一切せずに一気に言い切った私は、深々と下げていた頭を更に深くし、
「王太子殿下、暫しお嬢様をお願いしても宜しいでしょうか?」
ヤンデレ王太子が断るワケないとは知ってるけどね。
「勿論だ。愛しの婚約者の事なら幾らでも頼んでくれて構わない」
よっし! 王太子が側にいるなら変な輩は近づかまいっ
「―――お嬢様」
「わかってるわ、大丈夫よ。ノワール、私に謝罪はいらないから。それにアスラン様が側にいて下さるから安心して、ね」
私の動揺を理解した上で、気持ちの整理をする時間を下さるお嬢様! やっぱりウチのお嬢様は女神です!!
って、いかんいかん! さっきから本当に周りの視線が刺さってきてるのよね!
獣人が付き人ってだけでも注目浴びてたのに、名声高い家の嫡男でなかなかのイケメン、しかも王太子の側近候補とか、結婚相手としての優良物件が嬉々として抱きつこうとした相手として更に………!!
痛いっっ 女生徒さんの視線がバシバシと私をえぐってるぅっっ
これは一刻も早く逃げねば!
「はい。それでは失礼致します」
若干一名を話には入れずに無視し、私はそそくさと三人の前から下がった。
とはいえ、お嬢様の警護(と、姿を目に焼き付けたい)はしたいので寮に一度戻り、すぐさまメイドのリンにお嬢様の元に行ってもらいました。
私は部屋にいる様に素早く偽装。現在、お嬢様のいる入学式の行われる講堂の天井の影に待機しております。
もちろん気配は消しておりますよ? 護衛の常識です。
さてさて、ここなら人目も無いことですし遠慮なくお嬢様鑑賞……嘘です。仕事致します。
ちょこっとだけ邪なコトを考えただけなのに、王太子の視線が飛んできます……くっっ ホント、あの王子、お嬢様のコトに関しての能力、チートすぎない!?
気を取り直しましょう。―――えぇ〜と、悪役令嬢サマサマはぁ〜っと。
あ、いたいた。すぐ分かったわ、あのいかにも悪役令嬢ですって主張している容姿と佇まい!
学園の入学許可は15歳からなんですよ。
はあぁぁ〜。どうやったら15歳であんな色香が出せるのかしら? 前世で私が死んじゃった年齢より3つは下なのに!
私がお子ちゃまだったのかしら……というか、あの悪役令嬢と向かい合ってる人って―――お嬢様?!?!
ぉおおーーーーいっっ 王子ぃ〜!! 早速エンカウントしてるってどういうコト?!
………一応は穏やかそうな雰囲気?
お嬢様の横には『すみません、ここは公共の場ですよ?』と言いたくなるくらいお嬢様の腰に腕を回して自分に添わせているヤンデレ王太子。
あぁ、そっか。今は悪役令嬢とはいえ、未だお嬢様には何もしてない従姉妹である。
いずれ妻になる(ヤンデレ王太子の中では既に決定事項)お嬢様を、従姉妹様に紹介しているということですね? 余計なコトですけどね。
見て? 表情は笑ってるのに目が血走ってる従姉妹様のお顔。
怖いわ〜、そして、ベタベタできてセンサー壊れた王太子サマ〜、気づいて〜、私よりもヤバい人がそこにいますよ〜!!
読んでいただきありがとうございました。
体は満身創痍ですが、作者の脳も満身創痍なのでわちゃわちゃしたお話ですがよろしくお願いします。