コンプリートコンプレックス
それは暑い夏の一日。着慣れない白のワンピースに身を包んで私はベンチに座ってスマホを触っていた。
「ごめん、お待たせ!」
私はスマホから顔を上げた。立っていたのは茶髪に、ピアスを付けた彼。私に初めて出来た彼氏だ。今日でデートは三回目。そろそろお家デートとやらもしたい時期だ。
「じゃあ、行こっか」
「うん!」
すっと差し出された手を取って、私達はレストランへ向かった。
「すみません、二人で」
洒落たレストランではなく、よくあるファミリー向けのレストランだ。値段も安くて財布に優しい。
「何食べようか」
一番奥の席に座る。私がソファ。彼が椅子に座った。
「えっと、じゃあ」
私は一瞬、ハンバーグのページで手を止めるが、スッとページを移してシーフードサラダを指差した。
「毎回思うけど、少食だよね。それで平気なの? お腹すかない?」
「うん。お昼はそんなに……」
私はぐうぐうと鳴りそうなお腹を押さえて、笑って頬をかく。
「そっか、すいませーん!」
彼が手を挙げて店員さんを呼ぶと、「はーい」と赤いエプロンの店員さんがやってきた。
「えっと、ドリンクバー二つに、このシーフードサラダと、ハンバーグセット。あ、ステーキセットも一つ」
「はい! ドリンクバーはセルフでお願いしますね!」
店員さんは注文を復唱すると、パタパタと走っていった。
「二つもって、そんなに食べれるの?」
「まぁまぁ、行けるんじゃないかな」
あははと笑う彼に私は「もぅ」と肩を小突く。
「それじゃ、飲み物取りに行こっか」
ドリンクバーの機械の前に立つと、先客がいた。
「ふへっ、お、お主中々やりますの……」
「せやろ、ワイの美少女戦士ルールラたそ。半月分の給料が飛んだけどな」
メガネをクイクイッと動かす赤いチェックのシャツを着た二人組。ドリンクバーの前で片方がスマホの画面を見せていた。
「いや〜やっぱルーたんは神ですな〜」
「いや、マジで。QOLあがるわぁ」
こちらのことなど気にせず話しながら炭酸飲料を注くと、大声で笑いながら席へ戻っていった。
「あの人たちの話――」
「私あーいう人嫌い」
私はとっさに嫌悪感を全面に出す。
「オタクっていうの? 気持ち悪いよね」
「……まぁ、大声で話すことじゃないよね」
「だいたい、二次元の女の子にお金使うって――」
私はつい、調子に乗って思ってることも思ってないこともペラペラと話してしまったが、彼は全て頷いて聞いてくれていた。やっぱり余裕のある人は違う。
ドリンクバーで紅茶を注いだ私は席に戻った。




