主人公になる勇気01
子供のころ、ヒーローに憧れていた。
人の助けを呼ぶ声を聞きつけて、颯爽と現れて悪を倒すヒーローになりたかった。
特にあこがれたのは戦隊ヒーローだ。普段は普通の生活をしているのに、一度助けを呼ぶ声が聞こえたら変身して戦うのだ。
その姿に、子供のころはブラウン管にキスするほどに食いついていた。
小学生のころは、そんな風に純粋に楽しめた。
ブラウン管が液晶へと変わるころ、漠然としたなにかになりたかった。
特にこれというものがあるわけではなかった。すごいなにか。そんな漠然としたものになりたかった。
ガラケーが普及して、テレビを観なくなっても、戦隊ヒーローだけは観ていた。
俺の中のあこがれは、子供のころからずっと、変身して町を、人を守る彼らだった。
俺は、ヒーローになりたかった。
警察でも、消防でも、役者でもない。
腰にベルトを巻いて、バックルを着け、全身ライダースーツに身を包んだヒーローになりたかった。
でも、現実にヒーローなんていない。
実は隠された才能が、謎の虫に噛まれて超能力が、実はすごい人の子孫で、謎の生き物に契約を持ちかけられて、
本当は凄いんだ。なにかきっかけがあれば。
いつか、なにか。そんなイベントが起きると思っていた。思いたかった。
けど、現実は無常で、俺の前にはなにも現れなかった。
教室を襲うテロリストも、巨大怪獣も、宇宙から襲来する未確認生命体も現れなかった。
いたって平凡でつまらない、何処にでもある人生。
俺はスマートフォンを片手に、公園のベンチに座っていた。
仕事をしているとふと思う。今の平凡なサラリーマンになった俺を、子供のころの俺はどう思うかと。
人生の主人公は自分だとよく言うが、俺の人生はきっと、駄作以前。世界に認知すらされない。
俺が主人公の作品を子供の俺が見たら、つまらなくてすぐにチャンネルを変えるだろう。
なにかしたい。そういう漠然とした気持ちは今も変わらない。だが、結局。俺にそんな勇気も才能もなかった。
このサラリーマンという姿から変身する勇気は、生憎持ち合わせていなかったんだ。
公園に子供たちがやって来た。スマホを見ると、今日は土曜日。そうか、学校は休みか。
いつの時代も、子供たちは人生の不安なんてなんにもなさそうで、きっと彼らは今を楽しく生きているんだろう。
未来が輝かしいばかりで、そこには主人公になった自分の姿があるのだろう。
そう考えると、ひどく羨ましくて、胸が締め付けられた。
それでも、俺はそんな風景をほほえましく思うだけの感性は残っていた。
背もたれによりかかって、子供たちが楽しそうに遊んでいる姿をしばらく見ていた。




