06
「――大丈夫かい?」
身体を揺すられて僕は、アスファルトの上で目を覚ました。
「んぅ……ここは――いっ」
身体を起こすと、全身が悲鳴を上げる。何箇所も骨折しているし、全身打撲であざだらけ。アスファルトに面した肌は火傷でひりついていた。叫びそうなくらい身体は痛むが、心は晴れやかだ。
「酷い怪我だね……救急車とか」
僕を心配そうに見る見知らぬ老人。いじめっ子たちも彼もそこには居ない。あるのは起き上がった僕を見つめるように置かれた僕のフィギュアだけだった。
「いや、大丈夫です」
僕は竹を踏み締めたような音を鳴らす足を無理矢理に立たせて、フィギュアを大切に抱えてその場を後にした。
後日、自分の足で病院に向かうと、すぐに検査からの入院となった。全治三ヶ月とのことだ。胸も足も腕も所々骨折していたらしく、お医者さんからはどうして歩いてられるのか、どうやったらこんな怪我を出来るのか驚かれて、今度からはすぐに救急車を呼ぶようにと怒られた。
学校に登校できるようになったのは、夏休みがとっくに終わった頃だった。
久しぶりに行く学校は、夏休み前とはどこか違って、僕は変な高揚感を感じていた。
教室に着くと、僕をいじめていたあの三人のリーダーである金髪の男と目が合った。しかしその視線は僕からすぐに逸らされた。
昼休みになっても、放課後になっても、あの三人はまるで僕に興味を持たずに、早々に帰ってしまった。
「もう、いじめられない……?」
そう口にした瞬間。僕の中で張っていた糸のようなものが切れる。下駄箱を出たところで僕はぺたりと尻餅をついて、馬鹿みたいに大声を出して泣きじゃくった。
心の中に溜まったものが全て目から流れ落ちていく。
人目も気にせず、ただひたすらに泣いて泣いて、泣き疲れてきた頃、僕が帰ろうと正門に向かうと、人集りができていた。
「す、すみません、通ります」
僕がどうにか人集りを抜けて外に出ると、そこには彼がいた。
僕の方を見つめながら、ただ無表情で腕を組んで立っていた。
「どうして、ここに?」
「修行……するぞ」
彼はそれだけ言って歩き出した。
「えっあっはい! 待って下さい!」
ざわつく校門を横目に、僕は素早い足取りで進む彼を急いで追いかけた。
今の僕なら不良の軍団……は無理でも、多少の無茶なら逃げ出さない。その覚悟と自信があった。




