06
「着きました!」
連れて来られたのは、どこにでもありそうな、だけどどこか懐かしさを感じる喫茶店だった。
「喫茶店……?」
「はい! 先輩なら絶対気に入ると思って!」
「その為に、その為だけに午後休を?」
「はい!」
凄い笑顔だ。これが最近の若者の行動力なのか……。
私は喫茶店の扉を開く。カランコロンと懐かしいベルの響きだ。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥で店主が私に向かって礼を――。
「嘘……」
「お待ちしておりました。お客様」
私たちを迎えたのは、カウンターに立つ赤髪の店主だった。
「……コーヒーを」
「はい」
案内されたのは窓際のテーブル席。赤髪の店主は私たちに一礼すると、カウンターに戻った。後輩も私も店主も、誰も話さない。聞こえるのはあのジャズだけだ。
「どうぞ」
「いただきます」
かチャリとカップを手に取り、口へ持っていく。
――あぁ、これだ。
「すみません。サンドイッチ、二人分」
「はい、かしこまりました」
言葉を交わさずとも、このコーヒーを飲めば分かった。言葉は後でいい。今はこの空間を楽しもう。最高のコーヒーの香りと、懐かしの約束と共に。
「ありがとうございました。また、絶対に来て下さいね」
「あぁ、絶対に。そのときは話そう。これまでのことを」
空になったカップと皿。ゆったりとした時間の中で私と赤髪の店主は静かに頷きあった。
閑静な住宅街を後輩と歩く。
「どうでしたか? 先輩。自分お手柄じゃないですか?」
「あぁ、お手柄もお手柄。大手柄だよ」
ウキウキで前を歩く後輩に、私は笑ってその頭をガシガシと撫でた。




