表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のぞき窓  作者: 天空 浮世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/31

出勤

「行ってきます」


 朝露もまだ残る早朝。少し湿った空気と共に男は家を出た。


 紺色のスーツに黒くて四角い鞄。これから仕事に向かうのだろう。


 建築途中の一軒家。耕された畑。白い車の横を歩いていく。男にとっては普段と同じ風景なのだろう。とくに見向きもせず歩いていく。


 男がふと道の途中で止まった。


 猫だ。白い猫が塀の上で寛いでいる。


 男はチッチッチッと音を立ててゆっくり猫に近づく。あと少しで触れられるというところで、猫は塀から降りてどこかへ行ってしまった。


 行き場を失った男の手は少し猫のいた空間を掠めると、スーツのポケットに戻って行った。


 心なしか男の眉が下がっている。よっぽど猫が触りたかったのだろうか。


 暫く男が歩くと、横断歩道に出た。信号機は無い。


 男はただ前を見たまま歩く。


 すると、横からパーッと大きな音でクラクションが鳴り響く。


「っぶねぇだろ! ちゃんと確認しろ!」


 黒い車。窓から顔を乗り出したのは少し強面のお兄さん。


「すみません」


 そこで男は初めて顔を横に向けて軽く会釈をした。


「ったく、気を付けろよ!」


 強面はそう言うと男の歩いた道の方へ車を走らせた。


 男は横断歩道を渡り切ると駅へと入っていく。


 改札を通り、ホームの線の前に立つ。


 男は懐の携帯を取り出す。画面にはチャットアプリが開かれていた。


『今度カラオケ行こうぜ』と昨日送った男に対して『いつ行く?』と相手から返事が来ていた。


『まもなく、1番線に電車が参ります。黄色い点字ブロックの内側でお待ち下さい』


 アナウンスがホームに響く。


『すまん。行けなくなった』


 男は少し笑いながらそう送ると、足を数歩踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ