不良少年
太陽の光を浴びて輝くように見える金髪に、今日は見慣れない髪飾りが乗っていた。
「この前俺を置き去りにして買いに行ったのはそれか?」
「そーよ、可愛いでしょ。つーか、よく気がついたわね」
「そりゃ毎日会ってるし」
「そう言えばあんたって細かい所によく気がつくわよね。ネイルとかメイクとか。やだ、あんたあたしのこと好きすぎ」
「自意識過剰もここまでくると天晴れだな」
呆れているといつも新葉と合流する地点につく。
「あれ? 新葉いないじゃん。珍しい」
「寝坊でもしたか? ……あぁ、いや」
「あらら、ナンパされてんじゃん」
周囲を見渡してすぐ新葉は見付かった。
複数人の男に囲まれていて身動きが取れないみたいだ。
「ほら、あんたの出番。一般人のクソ雑魚相手にイキり散らかして来なさいよ」
「行くけど、いやな言い方だな」
「魔法禁止よー。一般人なんだから―」
「わかってる」
横断歩道を渡り新葉の元へ。
足を進めるたびに男共の解像度があがり気がつく。
「なんだ、不良の集まりか」
十六か七くらいの柄の悪い不良が新葉に集っていた。
まぁ、世間一般から見れば俺も誤差みたいな歳だけど。
「よう、お待たせ」
「あ、伊織さん」
新葉がこちらに近づくとともに不良たちがこちらを向く。
「椎名が待ってる。行こうぜ」
「はい」
新葉は不良の隙間をすり抜けてこちらにくる。
魔法使いとして訓練を積んでいればそのくらい朝飯前。
そのまま踵を返して横断歩道へと向かう。
すると。
「おい、待てよ」
案の定と言うべきか、すんなり返してはくれなかった。
「なんだ? お兄さんたちになにか用か?」
「上からもの言ってんじゃねぇぞコラ、舐めてんのか? あぁ?」
「用件は?」
「金と女置いてけ!」
随分と直球な要求だった。
「……最近の高校生ってみんなこうなの?」
「地上ではそうなのかも知れませんね」
「世も末だな。先に椎名のところに行っててくれ」
「伊織さんは?」
「雑魚相手にイキり散らかすとするよ」
小首を傾げた新葉から視線を不良に移す。
俺の物言いが気に入らなかったのか、額に青筋を浮かべていた。
「誰が雑魚だ、コラァ! 女みてぇな名前しやがってよォ!」
「あ、言ったな? 割と気にしてたのに」
ちょっとやる気出てきた。
けど、一般人の未成年と喧嘩する訳にはいかない。
「あらよっと」
不良の間をすり抜けて向こう側へ。
「これなーんだ?」
「あ!? 俺の携帯!」
「返して欲しかったら追ってきな」
盗んだ携帯端末を見せびらかしながら逃走。
人気のない路地へと入ると不良たちはまんまと釣られて来た。
「さぁて、適当に撒いて二人と合流するか」
地下で魔法使いをやっている俺に一般人のそれも学生が追い付けるはずもない。
二人からも引き離せたし、ここらで屋根にでも登ろう。
「この辺で――」
不意に背後に気配を感じ、前方へと跳ねながら振り返る。
瞬間、目の前を過ぎったのは鋭いナイフの一振りだった。
着地と同時に突き出される突きを躱し、手首を掴んで捻り上げる。
「がっ!? いッ!」
そのまま壁に押しつけて身動きを封じた。
「へぇ、どういうことかと思ったら」
「離せッ!」
取り押さえた少年の肌からは真っ白な獣の毛が生えていた。
爪が鋭く尖り、牙が生え、若干の獣臭さも感じる。
「この症状は獣化、いや狼化か」
「なんで、そのことッ」
「こちとら専門家なもんでね。誰から何をもらった?」
「ハッ、言うかよ」
すんすんと少年は鼻を鳴らす。
なにを嗅ぎ付けたかは歴然。
「そいつを離せよ、女男」
仲間たちの臭いだ。
「あーあ。本当は嫌なんのにな、俺だって」
取り押さえていた少年を離してやる。
「子供に手を上げるのはさ」
色々と事情が変わった。
狼化について話を聞かないと。
そのためにはまず大人しくなってもらわなきゃならない。
「イキり散らかしやがって。やっちまえ!」
さっき離してやった少年を含め、六人が一斉に迫る。
その誰もが狼化していてオリンピック選手並みの身体能力を誇っていた。
「でも、そんなに毛むくじゃらになっちまったら一般人とは呼べないんだ」
魔力を練り上げる。
「龍ノ突進」
所狭しと路地に現れた魔力の龍に誰もが目を見開く。
「安心しろ。威力控え目だ」
その突進を受け止められるはずもなく、次々に弾き飛ばされて宙を舞う。
自動車に追突されたかのような衝撃のはずだが、狼化しているなら怪我で済む。
「がはッ!?」
舞い上がり固い地面に跳ねる。
一網打尽となった彼らに戦意は残っていなかった。
「さて、じゃあ話を聞かせてもらえるかな」
「く、くそ」
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