第七エリア
瞬く間に高度が上がりそこから急下降して一気に魔物の群れへと突っ込んだ。
「誰からやる?」
「もちろんあたしからに決まってんでしょ! 派手にいくわよ!」
椎名が唱える魔法は見当がつく。
巻き添えを食わないように距離を離すと魔法が唱えられた。
「獅子ノ勇進!」
椎名を中心に現れる幾つもの獅子が流星となって魔物の群れに降り注ぐ。
着地点で爆ぜるそれらは多くの魔物を吹き飛ばした。
「龍ノ息吹」
流星群の最中を飛行し魔力の龍が火炎を吐く。
吹き付けられる炎が流星から免れた魔物を焼き尽くす。
「降ります」
「オッケ」
流星群と火炎で大幅に数を減らした魔物へのトドメは新葉に任せる。
魔力の龍から飛び降りた新葉は草原の上で深く息を吸い魔法を唱えた。
「蟹ノ諸手」
瞬間、生物的な禍々しい刃の二振りが鋏でモノを切るように通り過ぎた。
新葉の視界に映るすべてのモノが両断されて魔物は愚か草原の草花すら刈り取られる。
あれだけいた魔物の大群はあっという間に壊滅した。
「終わったー?」
「えぇ、殲滅できました」
「歯ごたえなさ過ぎて準備運動にもないって感じねー。まぁ、これでお金が貰えるんだから文句ないけど。伊織、あんた報告行ってきてよ」
「俺一人で?」
「当然でしょ。あたしあいつに会いたくないし、かわいい新葉を近づけたくないし」
「奇遇だな俺も同じ気持ちだ。お前が行け」
「いーやーよ。面倒ごとは沢山、新葉、こっちおいで」
「え、でも」
「いいのいいの。ほら、行くよ。ショッピングに付き合って」
「あ、こら!」
新葉を攫うように連れ去り、椎名は獅子に乗って去って行く。
「報告頼んだわよー」
「あー、もう。貸し一つだからな」
しようなく魔力の龍の背に乗って拠点へと引き返す。
降り立つとやはりと言うべきか彼が待ち構えていた。
「報告。南西部の魔物は殲滅完了」
「……数は」
意外と冷静に話してくれるな。
「ざっと八十から百ってところ」
「わかった。報酬は三等分か?」
「あぁ、そうしておいてくれ」
クリップボードに挟んだ書類にペンが走る。
記録はすぐに書き終わり、ペンが置かれた。
「じゃあもう帰って良いな。お疲れさん」
「待った。まだこっちの話が済んでないよなぁ?」
肩をがっちり掴まれる。
「おいおい、さっきまで冷静に話してたじゃないか」
「俺は公私は分けるタイプの男だ。仕事はいま終わった。次まで時間もある。さぁ、決闘だ。剣を抜け!」
「あのなぁ。決闘決闘って言うけど、仮に俺に勝っても二人は靡かないぞ」
「やってみないとわからないだろ。俺の華麗な勝利を見て惚れるかも知れん」
「随分とまぁポジティブ思考なことで……あ、椎名」
「なに? どこだ? どこにいる!?」
椎名の姿を捜そうと肩から手が離れる。
「嘘だよ。それじゃ」
「なぁ!? 貴様! 卑怯だぞ!」
魔力の龍に乗って飛び立ち、逃げるように帰路につく。
まだ仕事が残っている彼は追ってこられない。
あれだけ大騒ぎしても職務は全うするあたり、追いたくても追えないはず。
ともかく今日の所はこれでなんとかなった。
「そういや、なんて名前なんだ? あいつ……まぁ、いいか」
龍の背に乗って空を舞った。
§
風に揺れる煙、線香の臭い、寒々しい光景。
物言わぬ墓石の下には両親が眠っている。
「十五年か」
思えば時が過ぎるのは早い。
「俺が一人きりになって」
東京地下大空洞に建設された第二東京には黄道十三家と呼ばれる名家がある。
そのうちの一つが蛇塚家、俺が産まれた家だ。
ダンジョンの第十エリアの所有権を持ち、他の十二家に引けを取らない権力を持っていた。
だが、十五年前、蛇塚家は壊滅状態となり事実上の没落となった。
理由は一つ。蛇塚けに悪意や恨みを持った人間に押し入られ、大量の血が流れたからだ。
生き残ったのは俺一人。
現在は椎名と新葉の一族であり黄道十三家でもある仇橋家と桜坂家の保護下にある。
「なんとか上手くやって行けてるよ。蛇塚家の復興はまだまだ遠いけど。なにしろ俺一人だしさ」
濡れた墓石を眺め、両親を思う。
「いや、違うな。幼馴染みが二人もいる。いつかは復興させるから。だから安心して眠っててくれ」
最後に瞼を閉じて手を合わせる。
柄杓の入ったバケツを手に取るとからんと音がした。
「よう、久しぶりだな。伊織」
柄杓とバケツを元に戻すと聞き慣れた声がする。
「村崎さん。来てくれたんですね」
「当然だ。あいつとは今でも親友のつもりだからな」
村崎麻琴。
黄道十三家の一角、美管家に属する一家。
親父の親友であり、俺にとっての恩人。
蛇塚家を壊滅に追い遣った犯人、狭透を捕まえたのもこの人だ。
「親父も喜びます」
「そうだといい。生前はお前の顔なんて見飽きたって言われてばかりだったからな」
「そんなことないですよ……犯人を捕まえてくれた貴方のことを誇りに思っているはずです」
「……そうか。息子のお前がそう言うのならそうだと思うことにしよう」
「はい」
「じゃあ、俺は花を手向けに行くとしよう。しばし親友と長話だ」
「ありがとうございます、それでは」
「あぁ」
擦れ違うようにしてその場を後にする。
墓地の敷居から村崎さんのほうを見ると、墓石の前で手を合わせているのが見えた。
たとえこの世を去ったとしても、関わってきたすべての人の中で息づいている。
そう思えて勇気づけられ、今度こそ墓地を後にした。
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