第三章 首都エルドミトス ~賄賂の裏~
本編のために、勢いで書いてみた審問官視点のお話です。
誤字脱字などあるかも知れませんがご容赦ください。
◇◇◇フレーダー視点◇◇◇
今日も鴨が葱を背負ってきましたって顔でやってきた。
「これより審問を開始する」
くふふ。
ポルクス村なんて田舎の村出身にしては良い身体をしてるじゃないか。
いつもの調子で審問を進めていく。
順調に進まないはずがない。
こちらには看破石があるのだ。
嘘をつこうとする者など居ないだろう。居たとしたら、ただの愚か者だ。
嘘をつかないとしても、愚か者はいる。
例えばこの女だ。自分の出身地を示すものすら持っていないとは、馬鹿なのか?
よりによって見すぼらしい首飾りなど見せおって。
たとえ本人がバカでも、出身村の長が印をもたせるはずだがこの女はそれすら持っていなかった。この国の者なら誰でも知っている。首都に入るには審問が有ると。
そんな常識も知らない者は、本来、街に入る資格なんて無いのだが、私は寛大だ。
誠意を見せられるなら入ることは許してやろう。
もっとも、高くはつくがな。ふふふふふ。
「証明する物が無いのならせめて、別の物で誠意を見せてはどうかね?」
いつものセリフだ。
先程の女にもこう言ってやったら物がないと言ってきた。だが物がないなら他のものを差し出させるだけだ。
あれは実に愉快だった。
しかし、いま目の前に居る女は分不相応の耳飾りを持っているようだ。ふん、気に食わん。
ひとつ奪い取ってみるとしよう。
「なんなら先程から気にしているその耳飾りで手を打ってやっても良いぞ。なかなか精巧な作りじゃないか」
さあ、それをよこすのだ。
「いえいえ、このような田舎娘が身に付けるような粗悪品など……貴方のような高貴な方には」
無礼にも、女は抵抗してきおった。
気に食わんが、私は高貴だからな。話の続きを聞いてやることにした。
「私にとって宝物の剣を持ってきたのでどうかお納めください」
ほう。宝を持ってくるとは殊勝な心がけじゃないか。
その宝とやらと、耳飾り両方とも奪ってやろうじゃないか。
鴨が葱を背負ってきたと思ったが、やはり間違いはなかった。
カチャリ
女は大切そうに一本の剣を机の上においた。
しかしそれは、宝と言うにはあまりにも粗末な作りだった。
どうせろくな剣ではないだろう。
私はそう考えたが、書記官を務めるレナルド殿の意見は違った。
「柄の細工や革の仕上げ方など、細部に私も見たことがない工夫が施されているのです。荒く仕上げているように見えるのは、意図的なものかもしれませんな」
ほう。
レナルド殿の目利きは確かだ。彼が見たことがない作りということは、もしかしたらこの国の物では無いのかも知れない。あまり期待は出来ないが、ただの鉄くずということはなさそうだ。
「まあ、外ばかり見ていても仕方ありませんね。フレーダー殿、すまないが鞘から抜いてもらえますかな?」
私は剣を手に取り、柄からゆっくりと抜くと──
──刀身から溢れた光が眩く弾けた。
「おお……!!!」
そう声を漏らしたのは私ではなく、扉の脇に立つ愚鈍な兵士だった。
確かに、この美しく神々しい光を見て心が動かない者は居ないだろうが、気を抜き過ぎである。
彼を黙らせてから再び剣に向き直り、鞘から刀身を一気に抜き放った。
狭い部屋が神々しい光に満たされる。
「やはり、これは素晴らしい品ですな。フレーダー殿」
そう言ったレナルド殿は目を大きく見開き、尻尾の動きを抑えきれないほど興奮した様子だった。これほど興奮した彼は初めて見たかも知れない。
「鞘は無駄に重かったが、剣自体は軽く、重心のバランスも悪くない。確かに良い品だ。この輝きはやはり魔法か?」
「おそらく」
私の質問に彼は短く答えた。
やはりこの剣は魔法を帯びているようだ。それだけで金貨5枚はするだろうが。
「して、レナルド殿はいくらと見る?」
「少なくとも、金貨7枚はいくでしょうな。付与されている魔法の効果しだいではもっと高値がつくでしょう」
やはりか。
これだから審問官は止められん。
あの馬鹿な男も、たまにやってきては部下を通すために大金を払うし良い金蔓だ。
審問官を始めてから、遊んでも遊んでも金が無くならん。
それにしてもこれ一本で金貨7枚以上とはな。
良い拾い物をした。
しかしこの女はこの剣の価値が全く分かっていないのだろう。馬鹿な女だ。
そう思うと笑いが止まらない。
フレーダー殿も笑いが堪えきれていないようだ。
さて、これ以上笑うのを我慢しているのも身体に毒だ。
この際あの耳飾りなどどうでも良い。
さっさと通してしまうとしよう。
私は宣言した。
「ポルクス村のハル。
この剣を通行税として納めることと引き換えに、街に入ることを許可する」
◇
女が兵士によって奥へと連れて行かれた後。
2人の含み笑いが部屋に響いていた。
「フレーダー殿。今回は中々に良い品ですな」
「ああ、鑑定が楽しみである」
「今夜にも鑑定士に見せるとしましょう」
「おっと、今日は私が払う日でしたな」
私は彼女の通行税となる銀貨1枚を机の上に置いた。
剣のことに気を取られるあまり、通行税の差し替えを忘れるところだった。
「銀貨1枚で金貨7枚が買えるとは愉快ですな」
最初は鴨が葱を背負ってきたと思ったが、まさか鴨が金貨を背負ってくるとは。
「まったくだ。今日は良い日である」
次の審問が始まるまで、2人の含み笑いは続いた。
この後の光る剣の行方が気になりますね。




