第5話 食事を楽しむ1
さて、どこで食事を取ろうか。
「リリー、おすすめの飲食店とかはあるか?」
「そうですね~、ギルドの酒場でも良かったのですが、私の泊まっている宿はどうですか?料理がおいしいと評判なんですよ!」
料理がおいしいと評判なのか、それは期待ができそうだな。なんせこの世界に来てから初めての食事でもあるしな。期待しないわけがない。そんなことを考えながらリリーと宿を目指し歩いていく。
宿を目指して歩いていると、露店がたくさん並んでおり賑わっている事に気付いた。
「普段からこの街はこんなに賑わっているのか?」
「夕方になると討伐された魔物の肉が露店に卸され、こうして調理され販売されるんです」
「そういうことなのか」
たしかに、そこら中からおいしそうな料理の匂いが漂ってくる。
「なにか買って食べていきますか?」
「いや、今は遠慮しておこう。宿でおいしい料理が待っているからな」
「ふふっ、そうですね」
屋台の料理も食べてはみたいが、せっかくの初めての食じだ。どうせなら一番おいしいものを食べたいしな。
そんな会話をしているとようやく宿が見えてきた。
「あそこが私が泊まっている宿『オベルジュ』です」
「なかなか大きいな」
宿は5階建てみたいだ。この世界でもこの大きさの建造物を建てることができるんだな。
「早く入りましょ!」
「ああ、そうだな」
宿へ入ってみると想像とはだいぶ違っていた。てっきり入ってすぐに受付があるとばかり思っていたが違うみたいだ。
「すごいな......、まるでレストランみたいだな」
「そうなんですよ!この宿は1階がレストランになっていて、2階より上が宿になっているんです」
「そんな造りになっているのか」
ちょっと変わった宿なんだな。ただ料理がおいしいというのは、こういうところが所以なのかもしれないな。
「いらっしゃいませにゃ! オベルジュへようこそにゃ! レストランのご利用かにゃ、宿のご利用かにゃ?」
「レストランの利用です、その後宿も利用します」
「かしこまりましたにゃ! それではこちらの席へどうぞにゃー」
リリーが店員に答えると席へと案内された。
「メニューはこちらにゃ、決まったら呼んでくれにゃ!」
そう言って店員はテーブルにメニュー表を置いて接客へと戻っていく。語尾が変わっているが猫耳が生えているところをみると、あの娘も猫人族なのだろう。
「猫人族ではああいう語尾が普通なのか?」
「そんなことはないですよ?」
そうなのか、猫人族特有の語尾というわけではないようだな。それより早くメニューを選ばないとな。ふむ、色々な料理があるな、たくさんメニューがあると迷ってしまうな……。昔からなかなか決めることができなくて、良くお前は優柔不断だなって言われていたな。
「リリー、おすすめのメニューはあるか?」
「私が食べた中ですと、ワイルドボアのライチェ煮込みですかね?」
「ではそれにしよう」
ワイルドボアというとイノシシのことか。前世の世界では下処理をしっかりとしたものであれば豚肉いよりおいしいという話を聞いたことがあるから楽しみだな。
「私も同じのにします!」
リリーが注文を決め店員にアイコンタクトを送る。すると、すぐに先ほどの店員がテーブルへとやってきた。
「ご注文がお決まりですかにゃ?」
「ワイルドボアのライチェ煮込みを2つ頼む」
「かしこまりましたにゃ!」
注文を聞き終えた店員は厨房へと向かっていった。料理ができるまでもう少し時間がかかりそうだな。まあ、食事が終われば今日は後はすることもないしゆっくり待つとしようか。そんなことを考えていると重大なミスを犯していることに気が付いた。お金がない……。今日この世界に来たばかりだから無いのは当然なのだが、そのことをすっかりと失念していた。さてどうしたものだろう……、ここは正直にリリーに話そう。
「リリーすまない、お金を持っていないことに今気づいた。本当にすまない……」
「いえいえ、気にしないでください。宿代も今日は私が払いますよ。明日から依頼を沢山受けて頑張っていきましょ!」
「今日1日リリーに助けられてばっかりだったな」
「そんなことはないですよ、トーマさんは私とパーティーを組んでくれましたし、私、とっても嬉しかったです!」
「俺もパーティーを組んでくれて嬉しかったぞ」
ああ、なんて良い娘なんだ……、リリーのためにも明日から本格的に頑張っていかないとな。そうと決まればしっかりと食事を取って明日へと備えないとな。