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いつかの夢見る自分Ⅶ



「まじでやばい新人現る!!#紫オンライブ」


「このブイチューバーの物真似が本人な件#紫オンライブ」


「スパイシュミレーター、忍びの里ステージ初級から鬼級クリアのRTA最速記録か!?#紫オンライブ」


「期待の新人、期待をやばい意味で裏切る!#紫オンライブ」


「ユナイト所属の七々扇紫音。チャンネル開設から約一日。登録者数五万人達成。#紫オンライブ」


「ツイッターのフォロワー数が七万人を超えた模様。まだまだとどまるところを知らない!#紫オンライブ」


「独自のゲームシステムや、ユナイトプロジェクトチームの技術力の結晶か!?#紫オンライブ」


 初配信が幕を閉じた頃、ツイッターでは七々扇紫音の配信についての感想が次々と書かれていた。

 そこに付随して生放送の切り抜き動画も貼られることによって、紫オンライブというハッシュタグとともにバーチャルライバー七々扇紫音が浸透していく。


 それこそ一週間前にバズった人としても周知されていたため、トレンドに入った七々扇紫音の話はどんどん拡散されていった。


 曰く七々扇紫音は声優である。


 曰く七々扇紫音は以前体操選手であった。


 曰く七々扇紫音はスタントマンである。


 曰く七々扇紫音は、天才である。


 拡散されていく所々であることないことが囁かれ、やがてその男の存在は天才と称されるようになった。


 あそこまでの演技を見せていた彼は何者なのか?とどこかの有名な監督がその存在を見出し、ここまでの動きができる彼ならアクション起用ができる、とどこかの有名なプロデューサーが反応した。


 一週間前までの期待を感じさせるたった十秒での印象など今日の一時間で塗り替えられてしまったのだ。


 彼は世間が思う彼を優に超えて見せることで、世間にその存在を知らしめてしまった。

 くしくも彼が彼たる世間の声によって。


 


 その声はもちろんとある界隈にも届きうるもので、届くのが必然でもあった。


「あら、カレン。あなたがこんな時間に動画を見てるなんて珍しいこともあるわね」


「そう?でもそう思っているならこれからは珍しくなくなるかも知れないわね」


「なに?好きな動画でも見つけたのかしら?」


「まぁ、そんなところね」


「まったく、あなたも存外多趣味よね?今度は動画でなにを見ているのかしら?」


「……そうね、私と似てるかも知れない人、かしらね」


「カレンと!?カレンがそんなこと言うなんて初めてじゃない?あなたって結構同担拒否みたいな性格してるから……」


「あらそんなことないわよ。でもこれまでの人って本当の意味で私みたいな人ではなかったもの。だから、多分この人とは違う」


「カレンがそこまで言うって……。その人も歌手なの?」


「いいえ?多分私なんかとは一切関わらないだろう人ですよ?」


「それならいいのだけど……あんまり派手なことはしないでね?あなたももう有名人なんですから」


「わかっていますよ。これでも自重しているつもりです」


「本当に?この前のツイートだって私を一回でも通して欲しかったのよ?あなたがツイートしたらどうなるかなんてわかってたんですから」


「その話はもう聞き飽きました。それにいくら時雨さんと言えど、私の私生活については口出しはさせませんから」


「はぁ、わかってるわよ。それでも一言欲しかったって話。いきなり事務所から連絡が入った時は心臓が飛び出るほどだったんだから……」


「一歌手のぼやきなんて無視していればいいものを」


「そうはいかないのが今のあなたなのよ。もうあなたはうちの看板になっているんだからね?」


「はい、はい。分かっていますよ。ではそろそろ帰りましょうか」


「運転するのは私なのよ?……まぁ、そうですね。そろそろ帰りましょう」


 女二人のとある楽屋でのひと時であった。


 女のうちの一人、絢辻カレンの手には、かの男七々扇紫音の姿が映っていることにもう一方の女は気づかない。

 この時彼女が絢辻カレンの様子にもっと注視していたのなら、結末は少し変わっていたのかも知れない。


 絢辻カレンはこの時、またも男に関するツイートをしていたのだから。

 一週間前に気づき、そして彼女が唯一負けたと思わせるほどの才能を感じさせたあの男に対して。


 まるでただの一視聴者であるかのように、フォローのボタンに手をかざしながらツイートしたのだ。


「楽しみに待っています#紫オンライブ」


と。




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