キミの思うキミであれⅡ
そういったことを学ぶための柚月さんとの打ち合わせなのだが、それを今日の十時あたりから始めるため、それまでの時間に自分がしなければいけないことは大体済ませておこうと思ったわけだ。
俺はパソコンを立ち上げる。
柚月さんの勧めで買ったこのパソコンだが、それぞれのパーツから買って組み立てるのに少し苦労はしたもののかなりの高性能なのが嫌でもわかった。
前はノートパソコン、これでも結構お高めのものを買っていろんなことに使っていたわけだが、それの一切を断ち切るように全てにおいて性能が高かった。
起動から立ち上げまでにかかる時間もとても短い。
そして俺は数少ないデスクトップのアイコンからツイッターを開く。
基本ツイッターは毎日動かすこと。
なんでもいいからツイートをしておくとそういう細かなところから、視聴者は人となりを想像してくれるらしい。
とはいっても、一昨日昨日と動かしていなかったわけで、ツイッターを始めてもう三日と経っているのにツイートが一件という事態に陥っているわけだが。
そして俺はその一件のツイートのリプライ欄を覗く。
そこには先輩方からの熱いメッセージが送られてきていた。
これも柚月さんに言われていたことで、箱の中のライバーは結構そこの中を身内と意識されることが多いため、新人などが出るとこういうメッセージが送られることが多いらしい。
その中には実際にあった響也とエリカの姿もあって、本当に俺は彼らと会ったんだなぁ、と今更ながらに感動していた。
それの一件一件にありがとうございますと、これからよろしくお願いしますという意味を込めた言葉を送らせてもらった。
そして彼らをフォローしておくのを忘れないようにする。また、リプライにはいろんな人がいろんなことを書き込んでいるのが見えた。
一つはよろしく、だったりそういう意味を込めたリプライがあるのだが、もう一方ではカッケェとか、やっぱすげぇ完成度といった俺の容姿を推し量るもの。
そしてここ二日間ツイートしていなかったことから死んだ?と揶揄されていたりもした。
それを眺めているだけでなんだか笑みが溢れてくるようで、俺は本当にバーチャルライバーになったんだな、という実感が湧いてくる。
俺はどうせだから少し時間も早いがとりあえずツイートをしようと思いその内容を考える。
まだ声も聞いていない俺の人となりを判断される機会でもあるから、とりあえず当たり障りもないことをツイートすればいいか。
そう思って俺が周囲を見渡そうと後ろを振り向いた時、そこにぴったりと張り付くようにして先輩がディスプレイを覗いていたのを見てしまった。
「うわっ、びっくりした。どうしたんですか先輩」
何しろ先輩はエプロンをしたまま俺の背後に立っていたのだから。音も立たせないでくるものだからびっくりする。
「雫君がなんかゴツいパソコンと睨めっこしてたから気になって?それになんかこの一角だけなんか高そうなものが並んでて入った時から気になったのも相まってかな」
それもそうだ。ここらは有り金を叩いて買い集めたものだし、結構高性能なものばかりだ。少し小汚さを感じるこのアパートには似つかわしくないだろう。
「あーこれは……」
そこまで言いかけた時、そういえばどう説明すればいいのか考えていないことに気がついた。
柚月さんもいっていたが、自分からバーチャルライバーだとバラすことなどリスクしかないし、自分を露出させないリテラシーが必要だと言っていた。
どうせ先輩は嘘については敏感だから嘘はつかない範囲で事実を隠せばいい。
「新しいバイトに必要な機材なんです」
「ふーん、なるほどねぇ。このマイクも?」
「はい」
「この一番新しい機種らしきスマホも?」
「はい」
「このツイッターも?」
「……はい」
なんだか誘導尋問されているような感じがするが、多分嘘は着いちゃいけない。そんな気がしていた。
「ふ〜ん、そっか。こういうのを必要とするバイトをしてるんだね」
どこか先輩の声がさっきより明るくなったように感じた。
ここで突っ込んで聞いてこないところを見ると、多分察しつつあるのだろう。
先輩が見ているせいで何故か硬直している俺は、ツイートの下書きの場面で止まっているおかげで、その大部分の画面を隠せている。つまりまだ何か疑わしく思われても、バーチャルライバーとは疑われまい。
そして先輩がそのまま話を続けようとするところを見て俺は話題を変えた。
「と、ところで、おかゆの方はどうなんですか?」
「ん……今炊いてるところ。あと三十分くらいはかかるって」
そうして先輩は後ろで結った紐をほどきエプロンを外し、料理の邪魔にならないように結っていた髪の毛も同じように外した。
「な、なるほど。そうなんですね」
俺自身まだ自炊を始めて二ヶ月。おかゆの作り方なんて知るはずもないからただ単に肯首した。
「そういえば、まだ昨日一昨日とたまった服を洗濯できていないんですよね。ちょっとそろそろ回してこようかな……」
「そうかい?じゃあ私はここで大人しく待っていようか」
どこか妖艶な雰囲気を感じてそれと同時に悪寒を察知していた。
「いやぁ、やっぱりまだ大丈夫だったかもしれないです」
「そうなのかい?ならちょっと……聞いて、」
「そういえば、掃除でもしたいかなぁ……と思ったり」
と言ってみたりしたのだが、いつのまにか先輩はどこか難色を示した顔をしていた。
「はぁ、いつもの君らしくもない。風邪で頭までやられちゃったかな?」
「すごい罵倒……!そこまで言わなくても良くないですか……」
「別に私もどうせだから世話をしてやろうという甲斐性を発揮したんだ。掃除でもなんでも手伝ってあげてもいいんだけどね」
少し苦笑いをする先輩。
「君、ちょっと私のこと避けてないかい?」
「い、いえ?そんなことないですよ。えぇ」
なんとなくだが話題を逸らしていたのがそう映ってしまったのだろうか。
「いやそれともこないだのこと、負い目にでも感じているのかな?」
……。
先輩に対して負い目を感じているかどうかでいえば感じていないとはいえないだろう。
寄り添ってくれようとした先輩に応えてあげられなかった時点でそう思っていたのかもしれない。
それなのに今日会ってみれば先輩はどこ吹く風、と言ったように飄々としていた。
その態度に俺はさらにそう感じてしまっていたのだろうか。
「ーーなんのことですか?別にそんなこと感じてませんよ?」
でも俺の口はそう言葉にしていた。まるで本当になんでもないかのように。
「いや、負い目を感じていたら尚更私を避けるようなマネはしないか」
「そうですよ。なんでわざわざ負い目を感じている人に適当な話題で話を遮ろうっていうんですか」
そこまで言って先輩がそのクールな瞳をジト目にさせて睨んできた。
「なんだ、話を遮ってた自覚はあったんだね」
その言葉で俺は血の気が引いたように動揺する。
今の俺の発言では、まるで俺が先輩の話そうとする話題をわざわざ避けようとしていると認めてしまったようなものではないか。
「いや、別に俺が話したくないってわけじゃなくて、契約上仕方なく……」
「……ん?」
「ん?」
先輩は心底疑問と思ったように声を漏らしてみせた。それに俺も声を漏らす。
「もしかして君、まだバイトの話をしようと思ってるのかい?」
「え、違うんですか……?」
「はぁ、いつから君はそんな鈍感キャラになったんだか。君と私の仲なら察せる域まで届いてると思っていたんだがね」
「それはそれで凄い過大評価ですね」
「あながちそういうわけでもなかったんだけどね」
彼女がそう呟くとそろそろ話してもいいかい、という前置きを挟んで言葉にしていた。
「まぁ本当は君の家まで来る予定ではなかったんだからどうしようかとも思ったんだけどね。そこらへんのベンチで話せればいいかなって思ってたんだ」
すると先輩は後ろに構えてある俺のベッドにさも当然かのように座ってみせた。
俺も椅子から腰を上げて、彼女とちゃぶ台を介すようにして座り込む。
「実は君の知り合いだって人に話を聞いたんだ」
あと二回続きます!
続きがまだ書けてないんでご容赦を




