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†第1話†

 時刻は午後11時。今宵は満月(フルムーン)であった。


 ラフな格好をした一人の少年……桐生朱雀(きりゅうすざく)は、閑静な住宅街にある公園で佇んでいた。


 公園と言っても、置いてあるのは木製のベンチと錆びついた滑り台だけである。彼はベンチに腰掛け、夜空の中で一際輝く満月(フルムーン)を見上げながらボソリと呟いた。


「お前も、孤独(ロンリネス)なんだな……」


 朱雀は、この町で何不自由なく暮らす、ごく普通の中学2年生……“だった”。


 しかし数か月前、とある騒動に巻き込まれた彼は、“力”を手に入れたのである。“闇の力”だ。


 何故彼が“力”を手に入れたのか? そして、これを使って一体何をしなければならないのか?


 闇に魅入られた読者諸君がそんな疑問を持つのも当然の事だ。しかし、その話は後にしよう。


「さて、仕事だ……」


 朱雀がそう呟いた丁度その時、一人のサラリーマンが公園の前を通り過ぎようとしていた。よれよれのスーツを着て、顔には眼鏡をかけている、気の弱そうな男だ。あちらはまだ、朱雀の存在には気が付いていないらしい。


 彼はゆっくりと立ち上がり、数十メートル先にいる男に声をかけた。


「待ちな……」


 次の瞬間、そのサラリーマンがピタリと足を止めて朱雀の方に顔を向ける。


「……? な、なんでしょうか……?」


 若干びくつきながら言うサラリーマン。朱雀はジーパンのポケットに手を突っ込みながら、彼の方へ向かって歩み寄っていく。


「少し、アンタに用があるんだよ……」


 何も知らない者がこの光景を見れば、今からおやじ狩りが行われるのではないかと勘違いするだろう。しかし、それは大きな間違いだ。


 否──“狩り”であることには変わりないのだが。


「アンタ……“天使”だな?」


「……!」


 朱雀がそう言った瞬間、サラリーマンの顔つきが変わった。気弱なサラリーマンの中年男性から、一瞬にして歴戦の猛者のそれへと変貌したのだ。


「貴様……何者だ?」


 先程とは打って変わって、高圧的な口調で言う男。対する朱雀は、彼に歩み寄りながら堂々と名乗った。


「俺の名は桐生朱雀(きりゅうすざく)。悪魔の力を借りた者……すなわち、†悪魔の適合者─デビルズ─†だ」


 次の瞬間。


 朱雀の右目が、赤く光った。


 それを見た相手が、ニヤリと口角を上げて口を開く。


「なるほど。貴様が噂に聞く、悪魔から“力”を貰ったという人間、†悪魔の適合者─デビルズ─†か。それで、用件とは一体何だね?」


「決まってるだろ。あんたを狩る」


 これは、おやじ狩りではない。


 ──そう、“天使狩り”だ。


「はぁっっ‼」


 朱雀は相手まであと10メートルというところで足を止めると、短く叫んだ。深紅の右目が、赤い光をまばゆく放つ。


「……! こ、これが†悪魔の適合者─デビルズ─†の力か……! 予想以上だな!」


「さあ、(ダンス)ろうぜ……(暗黒微笑)」


 朱雀はそう言って、右手に武器を出現させた。この武器(相棒)の名は†黄昏の剣─トワイライト・カリバー─†。そう、剣である。


 刃渡りはなんと1.5メートル。長大で細長い、銀色の剣だ。


 並の人間であれば、この剣を持ち上げる事すらかなわない。しかし悪魔に力を分け与えられた者──†悪魔の適合者─デビルズ─†であれば可能である。


「なるほど……では、こちらも本気でいかせてもらおうか」


 するとサラリーマンの男は、おもむろに眼鏡をとった。次の瞬間、彼の背中に半透明の白い翼が出現する。


 この翼こそ、天使の証。


「始める前に……アンタの名前を聞いておこうか」


 朱雀はそう言いながら、†黄昏の剣─トワイライト・カリバー─†を構えた。


「私の名はユーサネイジア四世。断言させてもらうが……貴様なんぞに、負けるつもりはない‼」


 そう言って彼──ユーサネイジア四世は、スーツの裏ポケットから“何か”を取り出した。それは、一枚のトランプのカードであった。


「はあぁああっ‼」


 鋭く叫びながら、カードを投げるユーサネイジア四世。朱雀は素早く†黄昏の剣─トワイライト・カリバー─†を振って、自らに迫るカードを弾いた。






 ガキィィィンッッ!!






 火花が散り、甲高い金属音が夜の公園に響き渡る。


「ほう……プラスチック製のトランプカードを武器に出来るのか……中々面白い能力(パワー)だな」


 朱雀は怪しげにほほ笑んだ。


 対するユーサネイジア四世は、苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをした。


「ちっ! この私が一撃で敵を屠れんとは……不覚!」


 と、その刹那。


 彼は力強くコンクリートの地面を蹴ると、翼をはためかせて飛んだ。


「なるほど、制空権をとったか……やるな!」


 悪魔の力を持つ朱雀と言えど、空へ飛ぶことはできない。


「さあ、死になさい!!」


 ユーサネイジア四世はそう言って、懐からトランプの束を取り出した。そして、目にもとまらない速さでビュン!ビュン!と何枚もカードを投げる。


 そのカードの時速、驚異の300キロ。


 闇に魅入られし読者諸君でも、そのトランプを目で捉えることは不可能なはずだ。


 だが──朱雀は、捉えていた。


「フン……」


 彼は鼻で笑うと、まるで社交ダンスでも踊っているかのように、右へ左へと優雅に素早くステップを刻んだ。敵の放ったトランプが、ターゲットに命中することなく公園の地面に刺さっていく。


「ク……っ!」


 宙を飛ぶユーサネイジア四世は、焦りの色をあらわにするように眉間にしわを寄せた。


「何故だ……何故、私の攻撃が貴様に当たらない……!」


「理由を、教えてやる……」


 そして朱雀は、剣を構えながら軽々と天に跳躍した。その高度、実に30メートル。


 そう──ユーサネイジア四世のいる高さまで、瞬時に到達したのだ。


「なん……だと……!」


 朱雀の驚くべき跳躍力に、思わず硬直するユーサネイジア四世。その一瞬の隙を、朱雀は見逃さなかった。


 彼の朱に染まった右目が、ギラリと煌めく。


「アンタは、†本当の闇─トゥルー・ダークネス─†の美しさを理解()らないからさ……」


 決ま(チェックメイト)った──


 ──そして朱雀は、†黄昏の剣─トワイライト・カリバー─†を勢いよく振りかぶると、ユーサネイジア四世を一刀両断した。






 ズバンッッッッッ!!






「ば、馬鹿な……!!」


 そして。


「この私が……負ける、だと……!!」


 斬り付けられたユーサネイジア四世は、空中で光の塵となって消滅した。


任務(ミッション)完了(コンプリート)……」


 スタリと華麗に着地しながら、ボソリと呟く朱雀。


 こうして、深夜の公園で巻き起こった熾烈な争いは、一般人に知られる事もなくひっそりと終焉の時を迎えた。


「さて、連絡するか……」


 †黄昏の剣─トワイライト・カリバー─†を消滅させた朱雀は、そう言って懐からスマホを取り出し、慣れた手つきで“ある人物”に電話をかけた。


「……もしもし、俺だ……ああ……天使を一人仕留めた……ああ……理解(わか)った……」


 そして電話を終え、スマホをしまう朱雀。彼の右目は、いつの間にか赤から普段の黒へと色が戻っていた。


 すると次の瞬間、朱雀の背後に一人の女性が出現した。それは、奇抜なファッションをした美しい女性であった。


 フリルのたくさんついた、ロングスカートの黒いドレス。髪は金のロングヘアーで、頭には青いバラの髪飾り。肌は陶磁のように白く、唇には紫色の口紅。


 そう……†ゴスロリ†、というやつだ。


「来たか、ナイトメア……」


 朱雀はそう言って、後ろを振り返る。


 すると彼女──ナイトメアは、無表情のままコクリと頷いた。


「お疲れ様です、朱雀さん。あなたの闘いを地獄から見つめていましたが……相変わらず、素晴らしい動きでしたよ」


「そいつはどうも。見ていたんなら、手伝ってほしかったがね」


「以前にも申し上げたはずです。天使と悪魔が闘うことは、協定で禁じられていると」


 淡々と語るナイトメア。その顔はフランス人形のように無機質で整っており、何とも美しかった。朱雀は呆れたように肩をすくめ、COOLに髪をかき上げる。


「だから悪魔は、代わりに人間を天使と闘わせるってわけか……何度聞いても、えげつない話だぜ……」


「それはさておき、約束の報酬です」


 そう言って、朱雀に茶色い封筒を差し出してくるナイトメア。それを彼は「どうも」と言いながら受け取った。中には現金で10万円が入っている。


「では、また仕事が来たら電話でお呼びします。いつでも出られるようにしておいてください」


 すると彼女は、黒い影となって姿を消した。公園に一人残された朱雀は、夜空に浮かぶ満月(フルムーン)を見上げ、ボソリと呟く。


「お前も、孤独(ロンリネス)なんだな……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですね。 気恥ずかしさと愉快さが同居する中二病感、たまらないです。
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