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第三議題 回答



「事件の日、君は谷嶋くんと喧嘩して、会う予定はほぼ白紙になっていた。しかし、バイトに向かう途中で再度電話がかかってきた時、谷嶋くんが彼を殺してしまったと聞き、君は頭の回転が早く、すぐに偽装工作の準備に取りかかった。


まずバイト先についた君は、谷嶋くんに部屋の冷房をつけるように指示して、使い終わった茶葉をラップに包んだものをいくつか用意して冷凍庫に入れてから着替え、普通通りに勤務しながら保管室の整理を休憩時間も使って少しずつ進めていき……。


その後本当は閉店してから行くつもりだったが、店長が早退したことで早い段階で保管庫に出入りできる人間は君だけとなった。


そこで『保管室の整理と在庫の確認してくる』ともう一人のバイトに告げ、保管室の鍵をかけて自転車で谷嶋くんの元に向かったのさ。


現場に着いた君は、谷嶋くんを別の場所に退避させて、バイトが始まる前に冷凍しておいた茶葉のブロックで遺体を冷やそうとした。


その時は死亡推定時刻をずらして谷嶋くんのアリバイができればそれでよかったんだろう、しかし、ここで君は遺体がまだ遺体ではなく気絶している事に気付いたんだ。


予想外の事に君は驚かなかったが、彼に激しい怒りを覚えた君は、まず服を脱いで全裸になってから遺体が履いているスニーカーを脱がせ自分で履き、谷嶋くんの家にあったこの四角い紅茶缶で元々打っていた後頭部の傷に角を合わせて何度も打ち付けて殺害した。


当初の予定通り遺体を冷やし、頭を打った棚の角に遺体の血をつけ、靴を遺体に履かせ、店から持ってきた丸い紅茶缶を足下に転がし…。


返り血がついたまま上から服を着て凶器の四角い紅茶缶を持ってその場を去った。


そして何食わぬ顔をして仕事に戻り、その後自分のアリバイを作るために谷嶋くんと予定通り待ち合わせ、わざと目立って店に居ることを強調させたんだ。


谷嶋くんを近くのファーストフード店に行くよう指示し、次は使ったモノを回収しに戻り、死亡推定時刻を故意に遅らせられていることはいずれわかるだろうと予想した君はあえて低温火傷の痕を残し、死亡推定時刻を完全にあやふやにした。


谷嶋くんに通報する前に鍵を壊すように電話で指示してから家に帰り、紅茶缶の血を落とし、衣服を洗濯し、次の日に紅茶缶を店に隠したんだ、売り物としてね。



誰か別の関係ない人間に渡れば、捜査の手は届かないからね。


しかし、バレる可能性がある僕の手に渡ることをためらった君は、咄嗟にディンブラは品切れだと嘘をついたんだ。」



依斗は一気に喋ると、最後に咳払いをして腕を組んだ。

春は素晴らしいショーを見た観客のように嬉しそうに口笛を鳴らす。


「ヒュ~!・・・さっすが佐久間さん・・・!九十九点!合格点ッスよ!」

「・・・?何か違うところがあったのかい?」


依斗が苦笑すると、春は切なそうな顔で笑った。





「バレる可能性があったからためらったんじゃないです、あんな汚い血が付いた紅茶を大好きな人達に触らせたくなかった。」






輝には春の本当の表情が見えた気がした。

春の代わりに涙を流す輝を見て、依斗はニット帽を深くかぶる。


「それが君の本当の笑顔か。」

「さぁ、僕の表情なんて全部美琴の受け売りッスから。」

「そうか・・・。」

「佐久間さん。」


春は気付いていない、ちゃんと人の心を持っていることも、自分が泣いていることにも。


「見破ってくれて、ありがとうございます。」


だから依斗は精一杯の無表情という笑顔を貫く。

それが、依斗なりの優しさ。


---------------------------------

   


春は殺人の容疑で逮捕され、美琴は事情聴取を受けることになった。



美琴は終始、自分も加担したと主張していたが、春はそれを否定、偽装工作についても美琴は何も答えられなかったため、何の罪にも問われなかった。


数日後、再び依斗と輝は紅茶の店にやってきた。

春は未成年であるため、実名では報道されなかったが、店長はもちろん知っていたのだ。


「やぁ、店長。」

「おぉ、佐久間さん・・・来てくれましたか。」


店長は従業員に春の事について真実を言わなかった『シュンくんは実家の都合で一旦地元に帰るんだ』と伝えたらしい。



「今日は他の従業員はいないんだねぇ。」

「この時間帯はいつもシュンくんが入ってたからなぁ・・・鍵も預かっとかなきゃ、今日から新しい人が来てくれるから、一人なのは今日だけだけど。」


店長と依斗の会話を暗い表情で聞いていた輝に気付き、依斗は気遣いなのか只空気が読めないのか、茶化した。


「飯塚くん、随分と暗い顔をしているけど・・・お腹でも痛いのかい?」

「先生は辛くないんですか?・・・私は辛いです、せっかく仲良くなれると思ったのに・・・こんな事になるなんて。」


冗談に突っ込むことなく、輝は悲しそうに呟く。

依斗は真面目に返されたことに苦笑いする。


「シュンくんとはもう関わりたくない?」

「・・・え?」

「私も、店長も・・・シュンくんが戻ってくるのを待つつもりだよ、面会に行けばまた会えるんだし。」

「・・・!」


輝は少し恥ずかしくなった。


皆、春との縁を切るつもりなんてなかったのだ。

里日も依斗も、そのつもりだったから落ち込んだりしていなかったのだ。


「いくら今までの関係が作り物の様に嘘で固められていたとしても、そうまでして関係を作ってくれていた事に私は敬意を払いたい。」

「敬意・・・ですか・・・?」

「これから本当のシュンくんと向き合って新しい関係を築いていくこと・・・それが私なりの敬意の表し方だ。」


そう言って輝の寝癖の付いた頭を更にグシャグシャにこねくり回した。


「何するんですか!?女性は髪型に気をつかって居るらしいですから!引かれますよ!」

「気を使うもなにも、元からボサボサじゃないか。」

「私だって好きでボサボサな訳じゃ無いです。」


店長がそんな二人のやりとりを見て、懐かしそうに呟いた。


「そうか・・・女性の頭って、あんまり撫でない方が良いのか・・・。」

「店長さんもやったことあるんですか?」

「二人で店に立ってたときにね・・・随分暇だったから、雑談していたんだよ、過去の話をしたときに・・・シュンくんが急に寂しそうに見えたんだ。」


店長にとって、春は娘のような存在だったのだろう。


「頭を撫でたらね、驚いた顔をしたんだよ・・・その後顔を隠したから、嫌だったのかなぁ。」

「中年の男性に頭撫でられたら、そりゃあ驚きます。」


しかし、依斗も輝も春がどんな表情をしたのか想像ができた、嫌だったんじゃない。


きっと……。


「嬉しかったんだと思います。」


店の入り口から女性の声が聞こえ、皆が振り返るとそこには、美琴が立っていた。


「あれ、谷嶋くんその格好・・・。」

「気付きましたか?私ここで働くんです・・・!前の会社やめちゃったので。」

「そうなんだね・・・。」


美琴は自分のエプロンのポケットを両手で無邪気にパタパタとたたき、恋する乙女のように笑顔を浮かべた。


「私も、ここで春ちゃんを待っていたいんです。」



輝はなんとなく、春はもう一人では無いと感じた。

こんなにも沢山の人に帰りを待たれてる、何より自分も待っていたい。もう一度友人になりたいと。


グシャグシャの髪の毛を整えながら頬を緩めた。



--------------------------------------------

         



「・・・で、友達になりたくてわざわざ面会に来たの?」

「迷惑ですよね・・・ごめんなさい。」

「・・・別に良いけど。」


春は逮捕されて女子少年院に入ってから、無理に笑うことはなくなった。

輝も喋っていて春が無表情であることが多いと感じる。


「最近はやっぱり笑わなくなったんですか?」

「まぁ・・・前みたいに自分が思っても無い表情はしなくなったけど・・・表情の出し方は知ってるから、嬉しい時や楽しい時は笑えると思う。」

「・・・と、思う?」

「今まで自然に表情出したこと無いから・・・まだ意識しないと笑えないかもなぁ。」


春は真顔で少しだけ眉をひそめたが、輝は自然と笑顔が綻んでいた。

本人は気付いていない様だが、春が自然と表情を作れるようになるのはそう遠くない未来であることを輝はよくわかっていたからだ。


「そういえば、美琴さんがあのお店で働く事になったそうです!・・・店長も美琴さんも、皆シュンちゃんの事を待ってます。」

「・・・別に待って無くても良いけど、ありがとう。」

「もちろん私も・・・です。」

「そっか・・・あの、だったらさ。」


春は困った様な、照れたような顔で気まずそうに輝から目を反らす。


「はい?」

「・・・友達になりたいんなら、その・・・敬語やめねぇ?しかも僕、年下だし・・・。」

「・・・は、はいっ!」

「それも敬語だし・・・。」

「ご、ごめん・・・尊敬する人にはつい敬語使ちゃって・・・。」

「尊敬・・・って、少年院に入ってる奴尊敬しちゃダメでしょ。」


春は呆れた顔をするが、輝はいたって真面目であった。

輝にとって年下であるにも関わらず、仕事で輝いていた春の姿は、尊敬に値するものだったからだ。


「シュンちゃんが保管室の鍵を任されたって喜んでた時は・・・本当に演技だった?」

「・・・なんで?」

「私、あの時誇らしそうに保管室の鍵を先生や里日さんに見せびらかしてたのが・・・どうしても演技には思えなかった。」

「・・・そっか。」


春は少し微笑みながら頭を掻く。

他人に心の内を解説されることがむず痒いのだろう、春にとって理解者というのは貴重な存在であった。


「なんか、そうやって僕の事を見破ってくれたのは輝ちゃんで三人目だよ・・・輝ちゃんなら本当に唯一の友達になれそう。」

「美琴ちゃんは・・・?友達じゃないの?」

「・・・輝ちゃん、友達ってのはね、お互いに友情を持ってないと成り立たないんだ。美琴に友情以上の好意を持ってしまった僕は・・・本当の友達にはなれない。」


その時輝には、春は無感情なサイコパスなんかでは無く、本当は只大切な人を守りたかっただけのように見えた。

しかしそれを口に出す前に、大きな疑問が輝の中で大きくなる。


「・・・そういえば、三人って言ってたけど・・・もう一人は?」

「・・・もう一人は、美琴の仲良い先輩で・・・社会人の女だよ・・・まぁ、今はもう連絡取ってないけど。」

「そっか・・・。」

「知らない?・・・そういえば僕ら同じ大学だよね?あの葉月って刑事さんが言ってたから知ってるんだけど・・・。」


葉月が輝のことを喋った事にも驚いたが、同じ大学であることにも驚いた。


「輝ちゃんが四個上で、美琴が二個上・・・あの女性が三個上だったかな・・・。」

「知らなかった・・・!ちなみにその先輩の名前は?知ってたりするかも・・・!」


「石際真由美っていうんだけど・・・。」


「・・・」


輝は虚空を見つめてグルグル頭を回すが、わからない。


「やっぱ知らないかも。」

「だよね、そう思った。」

「もし会ったら、私も仲良くなれるかなぁ・・・。」


輝の言葉に、春の表情が重苦しい真顔になった。


「関わらない方が良いよ、あの人とは。」

「・・・?どういう事?」

「あの人は、僕なんか足下に及ばないくらい頭が良い・・・けど、すごく危ない思想を持ってる。」



春の気迫に押された輝はそれ以上石際に関しての情報を聞くのを止めた。


その後は他愛ない話をしていたが、輝はほとんど聞こえていなかった。

石際真由美とは、どんな人物なんだろう?

危険な思想ってどんな・・・?


輝の思考は、再び依斗の自宅に着くまで止まらなかった。







【紅茶と鉄の香り殺人事件 後編 完】

どうも、水野将人です


今回の真のテーマは『情』

『愛情』『友情』『表情』『感情』これらはすべて無感情であるはずの春が一番口にしていた言葉でしたが、おそらく、自分に無いからこそ欲しかったのでしょう。


春は最後に『友情』の定義について話していました。


春にとって美琴は『愛情』を注ぐ相手、しかし、美琴にとって春は『友情』を育む相手。


二人にとって友情の定義は違えど、たしかな『情』はあるわけです、たとえ輝との間に真の『友情』が芽生えようと。


美琴と春の『情』は、ずっと深くて強い筈なんです。


春がそのことに気付くのは、一体いつになるのか・・・?というのもこれからの見所です。


更に、関係性としては上司と部下である依斗と輝ですが・・・これからどんな『感情』をお互いに持つようになるのでしょうか。


ともかく、これから春はちょくちょくヒント役として登場しますので、シュンくんファンは必見です。


あなたと相手はどんな『情』で繋がっていますか?



また次回のあらすじでもお会いできたら嬉しいです。



ここまで読み進めて頂きありがとうございました。

            

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