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第二議題 後編

【富裕層強盗殺人事件 後編】




「はーい…………輝ちゃん!」


翌朝、依斗の自宅を訪問すると里日が驚きつつも歓喜の表情で出迎えた。


「ぁ、あのぅ…おはようございます!」

「おはよう…!もう来てくれないかと思ったわ!…昨日あんなことがあったから…。」

「昨日のは大変でしたけど……ここで辞めたら、…私なんか…しばらく就職できそうに無いですし…。」



モジモジとスーツの裾を弄りながら呟く輝に、里日は申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが要り混ざった様な複雑な表情をする。

出来る限りなんと答えようかと言葉を探す努力はしたが、気のきいた言葉は見つからず、里日は、


「そっか、ありがとう。」


と、こんな一言しか言えなかった。

「私なんか」と自嘲気味に笑う輝にそれ以上の言葉はかけられなかったのだ。


「里日く~ん、ダージリンを蒸らしすぎて激苦だ!これでは飲めないぞ。」


苦い空気が流れる中、気の抜けた声が響いた。

キングオブ空気が読めない男が皮肉にもその空気を破る。


依斗は輝を見つけると眉を軽く上げ、相変わらず張り付けた様な笑顔を輝に向けた。



「おや、飯塚くんじゃないか、おはよう!」

「あ、お、おはようございます!」

「相変わらず髪跳ねているね。」

「ぇっ…うそ……!?」

「ふふ…先生は相変わらず空気が読めないですね、まぁ、今はありがとうございます。」


慌てて自分の髪を押さえる輝をよそに、里日は軽くお辞儀をすると輝に向かって微笑んで室内に入った。


輝も建物に入ろうとすると依斗が輝の腕を掴む。



「行くよ。」

「え?…ど、どこへですか…?」

「どこって……病院さ。」



依斗はサンダルを履くと、輝の腕を引っ張りわが道を突き進んでいく。


せっかく室内に上がればヒールを脱げると思ってホッとしていた輝だったが、こうなっては仕方なく病院へ向かうことになった。




「病院って……もしかして、昨日の被害者の方にお話を聞くとかですか???」

「それ以外に何をするの?」

「先生かなり無神経ですから、あまり傷をえぐるような事を言わないで下さいね!?」

「善処しよう。」


病院に着くと、依斗は事前に知らされていた病室に迷わずつかつかと早足で向かう。その後ろを輝が追いかけるようについていった。廊下を歩き、うわ言の様に輝の質問に答えながら依斗は顎に手をやって考えていた。


何故、確実に殺さずに押し込めたのか…と。


しかし隣で、妙にそわそわしている輝が気になって依斗の思考は害される。


「どうしたんだい、気が散るんだけれど。」

「す、すみません…!こういうの…刑事ドラマみたいでなんだかドキドキしてしまいまして……。」

「…気持ちはわからなくもない。」


病室前には警官が立っており、警察が出入りしていた。


「お、お疲れ様ですっ!」


輝がお辞儀をすると、警官は笑顔で会釈した。


礼儀正しい子だ、と感心しながら依斗も珍しく会釈する。


「おつかれさまです。」

「すみません。」


しかし、警官に止められ、笑顔で首をかしげる依斗。


「え、何故…?」

「怪しい者は病室に入れるなとの事で…お引き取りを。」

「いやいやいや………え、仁くんから聞いてない?私が来るって。」

「存じておりません。」


警官と依斗のやり取りを横目に輝は被害者である女性に会釈した。


「初めまして、飯塚輝と申します。」

「は、初めまして……望月 雪です。」


不思議そうな顔で輝を見る雪に輝はなるべく笑顔を浮かべながら椅子に座った。


「怖かったですよね…命に別状がなく安心しました。」

「ありがとう……もう大丈夫…警官の方がずっと居てくださるし…夫も付きっきりで見てくれるから…。」

「それは…良かったですね。」

「えぇ、最近夫とは少し距離を感じてたから…ある意味、良かったのかもしれない。」



雪は表情を少しだけ綻ばせたが、輝は雪が疲れきっているのを自然に感じ取れた。


「少し…疲れてますよね…横になって下さい。」

「…ありがとう、あなた優しいね、このままで大丈夫よ。」

「ど、どうも…あの、失礼かと思いますが…当時の事をお話していただけませんか!」



雪は包帯でぐるぐる巻きの腕を眺めて独り言の様に、その時の事を話し始めた。


「結婚記念日だったから、昨日の朝……夫を仕事に送り出して……ウキウキした気分で自分の朝ごはんの支度をしてた……そしたら突然、窓ガラスが割られて……ビックリして包丁持ったまま行っちゃって……。」


突然シーツをぐしゃりと握りしめて、震えながらひとつひとつ言葉を捻り出す雪。


輝は雪の背中をさすりながら静かに次の言葉を待つ。



「黒い服で顔も隠してた…背の高い…男の人が………私を見つけて……すごい力で殴打してきたの…それで、最後に…。」

「……貴女の持っていた包丁で…お腹を。」

「…うん、その後の事は…うっすらと暗闇の中に居たことはなんとなく覚えてるけど………気がついたら、此処で寝てたの。」



輝は雪の感覚に同調してしまい、お腹に鈍く痛みを感じながらも、顔に出さないようにして雪の話を聞いていた。



「結婚記念日じゃなかったら…夫は早く帰ってきてなかったし…私は、死んでいたかもしれない。」

「…そんな…。」

「君は昨日の朝から夕方まで、ずっと押し入れの中に居たのかい?」

「そ、そうですけど……貴方は?」



やっと病室に入れてもらえた依斗が話に割り込んできた、雪は依斗を不審がりながら輝を見る。


輝はため息をつきながらも、雪を安心させようと笑いかける。


「大丈夫です、この人は怪しい人物ではありませんから。」

「……そう…。」


雪は安心したように緊張をほどいた。

依斗は続ける。


「旦那さんはどちらへ?」

「…売店に行くと言ってたから…もうすぐ帰ってくると思う…。」


しばらく三人で、関係のない雑談をしながら待っていると病室に雪の夫である望月剛が現れた。




「望月剛です…どちら様ですか…?」

「わ、私達は…そのっ。」

「警察関係者だよ、旦那さんにもお話聞かせて欲しいのだけれど、良いかい?」

「わかりました。」



剛は、雪のベッドの隣の椅子に腰かけて依斗と輝にも座る様に促すと、二人とも浅く礼をしてから椅子に腰かけた。


「では…失礼します。」

「どーも、さっそく本題に入るよ?昨日、剛さんが雪さんを発見したときの状況を教えてくれないかな。」


依斗の問いかけに剛は雪を気遣いながら説明し始める。


「昨日は結婚記念日だったので、いつもより早く会社を出て、その……妻に渡すプレゼントを買ってから家に帰りました。」

「ちなみにプレゼント…っていうのは?」

「ネックレスです、去年は…腕時計でしたけど。」

「……なるほど?」


依斗は剛が話始める際に輝にメモするように指示したが、輝は首をかしげるばかりで一向にメモをとる気配がなく、依斗は度々輝を見てため息をついた。


しかし、突如ハッとしたように片眉を上げ、視線を剛に戻す。



「…続けて。」

「そしたら、家は真っ暗で…物音一つしなくて……電気を付けてから、雪の名前を呼んで探し回っていたら…押し入れに閉じ込められてるのを発見して…ぐったりしてて息も荒くて、慌てて救急車を呼びました。」

「…その時に警察には?」

「すぐには考えつかなくて…その時は雪の命が危うかったので…。」



一通り聞くと、依斗は納得した様に顎に手をやり考える。


その様子を横目に、今度は輝が質問をした。


「お二人とも、いつもは何時に就寝ですか?」

「んー…基本的には十時か…遅くても十一時には寝ています。」

「ちなみに…何が盗まれたか、とかわかりますか?」


輝が質問しているのを眺めながら、依斗はじっ、と剛を見ている。

剛は依斗の怪しむ様な心地悪い視線に気づきながらも、輝の方を向いて返答した。


「去年贈った時計と…あと、アクセサリーと鞄が持ち去られてました…。」

「なるほど…わかりました。」

「これくらいで十分さ、飯塚くん。」

「そうですね…雪さんもお疲れの様ですし…。」


依斗と輝は軽くお辞儀をして病室を出た。

しばらく廊下を歩いていると、病室から剛が二人の後を追ってきた。


「あ、あのっ!」

「どうしたんだい?」

「……実は、警察の方や雪の前では言いにくくて。」


剛は落ち着きのない様子で目をそらしながら、小さな声で言った。



「去年、贈った腕時計には、小型のGPSが組み込まれていまして……その…雪の浮気防止の為に…。」

「ほう。」

「雪には黙っていてもらえませんか…!」

「……わかったよ、これで犯人の場所がわかるかもしれない、ありがとう。」



剛は泣きそうな顔で唇を噛み締めて深々とお辞儀をした。

依斗は軽くひらひらと手を振って廊下を歩き、輝に小声で


「仁くんに連絡しよう、彼から聞いたのは内緒にして。」


と呟いた。




帰りのタクシーの中、流れる景色をぼんやり見つめながら輝と依斗は雑談をしていた。



「夫の剛が何か隠し事をしている様だと見ていたけど、まさかGPSの事を隠していたなんてねぇ……。」

「それであんなに剛さんの事を見てたんですねー、てっきりタイプなのかと思っちゃいました。」


輝が笑いながらそう言うと、依斗があきれたように腕を組む。


「そんなわけないだろう…私はたしかに女性に興味は無いが……男性にも興味は無い。」

「たしかそんなこと言ってましたね、覚えてます、私の顔にも貧相な胸にも、この美脚にも興味無いんですもんね~。」


からかう様に足を見せる輝に、依斗は驚きを隠せなかった。

もちろん、足を見せられたからではないし、正直今の会話はあまり聞いていない。


依斗の中で輝は、知識の使い方を知らない愚か者であるのだが、一つだけ認めざる負えないものが疑惑から確信に変わったからだった。



「…あの日、痴漢騒ぎの時に私は遠くから君たちの立ち位置や行動を観察していたが、君は一瞬見ただけで、立ち位置、客の特徴、向き、行動を正確に駅員に伝えていた。」

「…先生…急になんですか。」

「おそらく、さっきの話も、メモなんてとらなくても、彼らの仕草から表情、言葉一言一句すべて覚えている……違うか?」


輝の顔から少しだけ表情が消えた。


「……。」


依斗は微笑を浮かべながら輝の顔を見つめる。


「飯塚くん、君には異常なまでに記憶力が備わっている……そうだろう?」

「……。」

「そんな才能があるのに、何故普通を装っているのか…私は不思議でたまらない、もっとその才能を活かせる場所があるんじゃないかい?」

「……私は、人と違うのが、怖いんです。」



輝は依斗から目を反らして俯きながら声のトーンを落として消え入りそうな声で呟いた。



「昔は…褒められました…人より記憶力が良くて…テストはいつも100点とれたし、聴いた音楽は簡単に再現できました…でも、大きくなるにつれて…普通じゃない事は悪いこと…って…。」

「…だから、普通になりたかった?」

「はい…皆と、同じになりたかったんです。」


輝は朝来た時のように、また自嘲気味に笑った。


「まぁ、それすらできなかったんですけどね、私なんて、結局何処に行ってもダメで…社会人になってから…化粧の仕方もわからなくて、髪型もご指摘の通り、こんなので…そのくせ正義感だけは無駄に強くて…だからいつも浮いちゃうのかな…だからいつも煙たがられるのかな。」

「……君は誰になりたいんだい?」



依斗はキョトンとした顔で首をかしげた。

あまりにもストレートで突き刺さる質問に表情が歪みそうになるが、輝は笑顔で取り繕う。


「はは…どういう意味ですか?」

「君は、自分の特徴や特技を無くして、普通になろうとして…『誰でもなれる誰か』になろうとしてるんだろう?」

「…。」

「記憶力も正義感も飾らない所もすべて含めて君なんだろう?誰でも良い人間ではなく……代用なんて立てられない唯一の人間、私はそうなりたいと思うんだがね。」


依斗は、只でさえボサボサの輝の髪の毛をさらにぐしゃぐしゃにかき回した。


「なっ、なにするんですか!?」

「全て…君の個性じゃないか、君が最初に認めてやりたまえよ。」

「……先生。」

「君が君を一番信じてあげなければ、君自身が可哀想じゃないか。」


無邪気に笑う依斗の顔を見て、輝は自分の心を縛り付けていた鎖のようなものが切れた気がした。


その余韻を感じる暇もなく、タクシーの中にスマホの音楽が鳴り響いた。


「電話です…もしもし?」

「誰からだい?」

「仁さんからです…!GPSを解析したところ、盗品の場所がわかったそうです!場所は……先生の家の、最寄り駅です!」


依斗はタクシーの運転手に、その駅に向かうように指示を出した。

         



依斗の家の最寄り駅に到着すると駅の入り口のわかりやすい場所で葉月が待っていた。依斗を見つけると葉月は軽くお辞儀をする。



「お疲れ様です。」

「やぁ岩倉くん、仁くんは?」

「こちらです。」



依斗と輝は葉月に案内され、仁の元に向かう。


仁は、駅に備え付けてあるロッカーの前に立っていた。依斗は辺りを見渡しながら仁に質問する。


「このロッカーに盗品が入っていたのかい?」

「あぁ、無くなっていた盗品すべて、このロッカーの中に入っていた、カギは落とし物として駅員が保管してた。」

「…監視カメラは?」

「お前が来てから確認するところだった。」

「そうか、よし、行こう。」


駅員の後に続いて、事務室の監視カメラの映像を確認するとそこには黒いニット帽に顔を隠した黒服の人物が、ロッカーに盗品を入れている姿が映っていた。


「背丈的に…男だな。」

「…そういえば、この前確認させた山木俊哉と東谷、北田の関係は調べてくれたかい?」

「あ、はい!……俊哉と二人は、それぞれ不倫関係にあったようです…。」

「なるほどねぇ……動機はあるみたいだ、資料見せてもらえる?」


黒服の人物はロッカーに盗品を入れた後、辺りを見渡してから小走りでその場を去って行く。


その様子をリピート再生させながら、葉月から受け取った資料と監視カメラの映像を見比べた。


「身長172…へぇ…個人の口座から一定の額が時々引き出されている所を見ると…もしかしたら、白石か新田に脅されてたりするかもしれないねぇ…。」

「あ…だったら…新田の可能性が高いかもしれません!…新田は同級生の弱味を握っては、口止め料として金銭を要求してきていたそうです…!新田の家に出入りしていた数人から証言がとれています!」

「白石には個人的な怨みか…それとも捜査を撹乱させるためにランダムで襲ったのか…証言を聞かない事にはわからないな。」


監視カメラに映っている黒服の人物は、上から二段目のロッカーと同じくらいの背丈。


「…ってことは、山木の可能性が高いってわけか…おい、岩倉!山木俊哉を任意で引っ張ってこい。」

「はい!」


葉月が走り去っていき、依斗は仁にさらなる情報を求めた。


「仁くん、望月雪は本当に犯人に縛られたの?」

「間違いないと思うぜ、ロープからは例の手袋の繊維が検出されたし、包丁からも同じのが検出された。」

「…そっか…わかった。」



依斗は資料を仁に返すと輝の手を引っ張って事務室を出る。



「先生…?もうほぼ解決したようなものです!…背丈も映像と資料、ほとんど一致してたじゃないですか!」

「なんだか、モヤモヤするけれどね…。」

「…とにかく、今日はもう里日さんの所に帰りましょう!」


依斗は頭に引っ掛かる違和感を感じながら、今度は輝に引っ張っられる様に自宅へ戻った。

      


---------------------------------


依斗の家に戻ると疲れきった輝に、と里日がお茶を出した。


「お疲れ様です、先生、輝ちゃん。」

「今日はカモミール…ハーブティーだね。」

「あの…里日さん…ミルクを。」


輝の言葉に、依斗はカモミールティーを溢した。


「ハーブティーにミルク!?冗談も胸だけにしたまえよ…?」

「どういう意味ですか!?私はミルクティが好きなんです!カモミールとミルクは安眠効果があるんですよ!」

「ミルクを入れてしまったらハーブティー特有のスッキリした後味が無くなるだろう!」


真面目な顔で頬を膨らませる輝と自分の考え以外認めない依斗のやりとりに、里日は珍しく声を出して笑った。


「おっかしいわ~二人とも…まだ二日目なのにすっかり仲良くしちゃって…ふふふ。」

「どこがだい!?私と、この愚か者の何処が仲良くしていると!?」

「そうです!私は先生みたいに頑固じゃありません!!もっと臨機応変です!」

「臨機応変なら何故就活に躓いているのか140文字以内で簡潔に答えたまえ。」

「うッ…。」


勝ち誇った様な依斗の笑みに、悔しそうな輝の顔。


しかしそのやりとりには、けなし合いながらも愛情があることに里日も輝も、依斗自身も密かに気付いていた。


里日は微笑みながら輝にミルクを渡すと、隣に座って自分も紅茶を一口飲み、話をきりだした。


「それで…犯人はわかったんですか?」

「はい!監視カメラの特長と動機から考えて…ほぼ特定できましたよね!先生!」


輝は同意を求めたが依斗はぼんやりと一点を見つめていた。


「…先生?」

「…あぁ、いや、やっぱり何か引っ掛かっていてね。」

「何が引っ掛かるんですか?」


依斗はカモミールティーのカップを両手で持ち

ふー、ふー、とふきながら、視線をそのままに言葉を溢した。


「なんだか……不思議な歩き方に見えたのさ。」


ぽそりと呟いた後、依斗は無意識にずずっと熱いハーブティーをすすった。


「あぢっ……。」

「先生、猫舌なんですから…しっかり冷まして下さい、考え事しながら飲むからすぐ舌を火傷するんですよ!」

「あっ…何か冷すものを…!」


慌てて輝と里日が立ち上がる様子を、舌を手であおぎながら見つめる依斗は二人が並ぶ光景に驚き、目をぐぐぐと開いた。


そして、突然立ち上がり、輝の両肩を掴んだ。


「先生…!?どうしたんですか?」

「……そうか。」


かぶっているニット帽を床に叩きつけ、とびきりの笑顔を浮かべる。



「わかったぞ!!!私は答えに辿り着いた!流石、私!!!ひゃっふぅ!!」

「え、え!?」

「仁くんに頼み事をしたい!ここに書いた内容をそのまま電話で伝えてくれ!」


机の上のメモにさらさらと何かを書くと、それを輝に渡し依斗は大喜びで自室にスキップしていった。


何がなんだかよくわかっていない輝は、言われた通りメモの内容を仁に伝えて、その日は帰路についた。


---------------------------------




次の日、二人は再び望月雪が入院している病院へやってきた。


「病院で犯人に会える…って本当ですか?」

「あぁ、まだ証拠があるわけではないが…それは犯人が自分で用意しているさ。」

「…????」


まだよくわかっていない輝であったが、とにかく依斗の後を付いていく。

しばらく廊下を歩くと、雪の病室に着いた。


「犯人が…此処に現れるんですね…!」


輝の言葉に依斗は微笑みで答えた。

雪は二人がやって来た事に気付くと、いつもの優しげな笑顔を浮かべた。



「また来てくれたの?」

「あ…はい!…今日も来ちゃいました。」

「傷口はまだまだ痛いけれど…気分はだいぶ良くなったわ」

「それは良かったです。」


雪は輝に笑顔を向けながらも、何も喋らない依斗を不思議な目で見た。


「どうかされた?」

「あ、傷口が早く治る事を祈っているよ、そうそう、今日は聞きたいことがあるのだ…捜査に協力してもらえるかね?」

「えぇ、構わないわ。」


「貴女が襲われた日、午前中、何処に居た?」


依斗の質問に、雪は首をかしげる。


「やだ、佐久間さんったら…もしかして私の事疑ってるの?閉じ込められてたって言ってるじゃないのー!」

「そうか…では質問を変えよう。」


冗談っぽく笑い飛ばす雪に、依斗は輝の手をつかみながら次の質問をした。


「飯塚くんが痴漢騒ぎに巻き込まれた時に、何故貴女は何の証言もせずにその場を立ち去った?」

「!」


雪の顔が歪む、輝も何がなんだかわからない様な顔をして驚く。


「わ、私見てないですよ…!?雪さんなんて。」

「ほら、輝ちゃんも見てないって…。」

「そりゃあ、飯塚くんには見えてないさ、ずっと微動だにせず、後ろを向いていたんだから。」


雪の返答を待たずに、依斗は輝の手を放し自分の考えを話し始めた。


「私の考えはこうだ、貴女は四日前、偶発的に新田さんを殺害してしまった、しかし、幸いにも新田さんを殺す動機を持っている人物があの家に出入りしていることを、貴女は知っていたんだ、だから、簡単に自分の痕跡だけを消すことができた。」


依斗は輝の鞄から、盗品がリストアップされた紙を取り出す。


「そして、保険をかける意味で物取りの犯行に偽装しようと、金品を持ち去ったのさ、私はこの時点で少しの違和感を覚えた、これ、持ち去られたのはカシオの腕時計…現場にはロレックスが残っていたのでね。」


「…!カシオよりもロレックスの方が高値です!」

「そう、だからこの時点で私は怨恨の可能性が高いと考えていたのさ。」


雪は、包帯で巻かれた腕に爪を立てながら表情を変えずに話を聞いていた。



「そして、山木さんの事件は計画的な犯行だろう、貴女はきっと夫である俊哉さんが不倫をしていることを知っていた…だから彼に罪を被せる事を思い付いた、そして白石さんは凶器が見つからない様に、片方の手袋に盗品を入れて殴打して撲殺をし、その次の日に自分が襲われた演出をする事で捜査の目を撹乱させたんだ。」


「それで…?」


「貴女は朝ご主人を送り出し、その後盗品と自分の家の腕時計やアクセサリーをバッグにしまい、トートバッグに黒服と黒いニット帽と手袋を入れて最寄り駅に向かった…………そしてトイレで黒服に着替えて盗品が入ったバッグをロッカーに入れて、その鍵を道に落としトイレで元の姿に戻った。」


依斗はリストアップの紙を輝に返し、病室を歩き回った。雪は静かにその様子を見ていた。


「そのまま電車に乗り、トートバッグに入った黒服一式を、別の駅のロッカーに入れて、鍵が見つからない様にしてしまえば、ほとぼりが覚めたときに取りに行って後で処分するつもりだったんだろうが……運悪く、その日貴女は痴漢騒ぎに巻き込まれたんだ。」


そこで雪はとうとう声を荒げた。


「証拠は!」

「…」

「それだけ長々語ってるなら、証拠があって言ってるんでしょ?」


依斗は目を瞑ると、薄ら笑いを浮かべたまま呟いた。



「…荷物の中身を、見せてくれないか。」


--------------------------------------------


「特に怪しいものは無いように見えます…。」

「でしょう?…あるはずないもの」



鞄の中には化粧品ポーチ、スマホ、キーホルダーのついた鍵、イヤホン、財布、ボールペン、ポケットティッシュなどが入っていた。


勝ち誇った様な顔をする雪、輝は心配そうな顔で依斗を見つめる。


「先生…!さすがに無理があります!監視カメラに映っていたのは170前後の背丈があるんですよ?」

「…インヒール。」

「…え?」

「もしも彼女が、私達の思っていた程背が低くなくて、インヒールのブーツを履いていたらどうかね?…足を怪我したわけでも無いのに、夫を売店に行かせたりして…自分の背の高さを錯覚させていたのさ。」



その言葉に雪の顔に焦りが見えた。

依斗はその変化に気づきながらも話を続ける。


「監視カメラの人物の歩き方が気になったのは、おそらく、ヒールを履いた女性特有の歩き方だったから、ヒールの可能性を知った時に女性だとわかった……正直、里日くんの隣に並ぶ飯塚くんを見るまで気づかなかったがね…。」


「でも、それもこれも全部憶測じゃない…!監視カメラに私の顔が映ってる訳でもないのに…!!!」

「…そう、監視カメラには、貴女の顔は映って居ない…これは流石としか言い様がない。」



依斗は静かに拍手をした。

しかし、悲しげな笑みを浮かべて、ゆっくりとキーホルダーのついた鍵を持ち上げながら、雪の腕にぐるぐる巻かれた包帯を指差した。



「でも、この鍵が何の鍵なのか、答えられるかい?」

「……それは…。」

「私は仁くんに昨日調べさせた、あの日、痴漢騒ぎで私たちと貴女が降りた某駅のロッカーの監視カメラを、そこには、貴女の決定的な顔は映ってなかったのだが、どのロッカーなのか、というのがはっきりわかったのさ。」


依斗は鍵をチャラチャラと鳴らしながら、キーホルダーを鍵から取り外した。



「中に入っているものは犯行に使われていた凶器や手袋、変装に使った黒服やニット帽だろう、…そして、私の考えが正しければ、ある筈だよ…雪さんの腕の包帯の中に……本来この鍵についているべきの…。」


雪は観念したように包帯をほどいていく。

依斗はその様子を見ながらハッキリと告げた。


「…ロッカーの…204の青い番号札が。」



言葉が終わると同時に、さみしい音を立てて204番の青い番号札は雪の腕からシーツに滑り落ちた。




      


       


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