宇宙人と死検
とある宇宙人らが地球へと降り立ち、この星で最も有名な文学家を宇宙船の中に連れ去った。
船内で一体の宇宙人が文学家に問うた。
「この星で最も心打たれる風景を答えてみせよ」
「いいでしょう。そうだなぁ、僕が知っている最高の風景というのは、湖のほとりです。あれはいいですよ。透き通る青の湖に、それだけじゃない、晴れた日には小鳥が美しい旋律を奏でに…………」
「それはどこにある風景なのだ」
宇宙人が興味を持って尋ねると、文学家は自分の頭を指さしておどけてみせた。
「ははぁ、ここですよ。この中に、僕が先ほど説明した絶景が詰まっている」
「なるほど、ではその頭を開けてみれば最高の景色が見られるのだな」
宇宙人は文学家を拘束し、そのまま頭部を丁寧にかち割って中身を確認してみることにした。だがいくら頭の固い骨を開けたところで、ぷにぷにしたものが顔を出すだけだ。絶景とはほど遠い。
「おかしいな。頭の中を見ても、この人間が言っていた湖とやらが全く見えないぞ」
もう一体の宇宙人が休憩から帰ってきた。先にいた宇宙人が現状を説明すると、もう一体の方は
「そういうことじゃないだろう。きみ、今まで食べた中で一番美味しかった食事は何だった? その食事は『今』どこにある? ……まあこういうことさ」と言い、呆気なく死んでしまった文学者に向かって黙祷を捧げた。
「なるほど。つまり自分が先ほどの絶景を楽しみたいと思ったら、本来であれば人間の彼を…………」
宇宙人は使用済みの血に塗れた武器を見ながら考えた。そして、先ほど衝動を以ってはたらいた行為がいかに自分にとっての損失に繋がってしまったかという事を、段々と自覚し始めた。