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元天下無双の剣豪は後悔の末に温泉に浸かる  作者: ミレニアムアンドレア=影勝3世=ボンジョビ@小便漏れそうになりながら作者名考えてる
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温泉侍ー道中のいち

ゴム頭ポン太郎ぐらいおもろいので読んでください。ぐりとぐらには劣るかもしれません。



天下分け目戦いから早十数年。温泉が重宝される時代。戦とは縁遠くなった人々は各地の温泉を巡り日の本の国を彷徨い歩き続ける、そんな時代。そこには己の快楽、娯楽のため以上の意味があった。


 陸奥の国ー「大温泉ー陸奥だいおんせんーむつ」    

 

 弥生の国ー「秘泉ー大和ひせんーやまと


 肥前の国ー「極泉ー我割唐道真きょくせんーがかつとうみちざね


 伊賀の国ー「油泉ー蝦蟇口ゆせんーがまくち


 越後の国ー「超泉ー的ナ渡来ちょうせんてきなトライ


 関ヶ原ー「戦泉ー布告せんせんふこく


 道後の国ー「亜泉ーあせんーすい


 江戸ー「大衆泉ー家所康所たいしゅうせんいえどころやすところ

       

この天下の八泉全てに浸かることが出来れば、農民は一生収穫に困らす、武士は高い地位を手に入れられ、商人は莫大な富を生み出し、そして将軍は永遠に国を治められるとされた。そんな時代のお話。


ーとある温泉街

ここは天下の八泉でもないただの温泉街だが、一年中客足の途絶えることのない名所ときく。どおりで人が多い。


播磨はりま温泉名物おんせんまんじゅう、是非御賞味あれ。おにいさん、ひとつどうだい?」


十六七ばかりの少女がまんじゅうをさしだす。

「どうです?おいしいでしょう?」


「ああ。なかなか美味しい」


「でしょう!そうでしょう、なかなか美味しいでしょう?でもうれないんですよねー。困っちゃうな。やっぱ今のご時世、天下の温泉の運も味方につけないと商い(あきない)もうまくいかないってもんなのかなぁ」


困った顔をしながら少女は笑った。なかなか苦労をしているのだろう。


「お兄さんはお侍さん?」


「いや、そんな立派な御身分じゃないよ。ただの旅人かな」


「じゃあ、剣客?腰に下げてる刀で天下をとろうと?」


「まあそんなとこかな。天下をとろうとしてるわけじゃないけどね」


「町子ぉ、無駄話してないでこっちも手伝っておくれ」

「はーい。じゃあね旅人さん。播磨温泉街を楽しんで!それと播磨まんじゅうもよろしく!」


そういって少女は走り去っていった。


そもそも天下の八泉というのは、伝説の侍「佐々木小次郎」が掘り当てたとされる温泉の中でも、剣豪宮本武蔵との決戦に備えて入ったとされる八つで、彼はその他にも多くの温泉を掘り当てている。(彼は無類の温泉好きで有名だった)


ここ播磨の国の温泉はその中の一つだった。それにここは、江戸から弥生の国の秘泉へ行くのに通る道中でもあり、人気があるのはうなずける。


この町では、温泉巡りをしている旅人は昼に入り夜に宿で疲れを癒すというのが定石らしい。

しかしごった返した湯のなかで芋洗いのような気分にさせられるのは気が引けるので夕時までは街の散策をすることにしたのだ。


まんじゅうはさほど旨くはなかったが、まだ商売を続けられているのは彼女の人柄の良さが一役かっていること間違いないだろう。

 


日も傾き始め、日中にくらべ町は少し落ち着いてきたように思われた。


「そろそろ入ろうかな」

そう呟くと僕は重いこしをあげた。





なかなかどおして素晴らしい温泉だった。

気持ち良すぎて失禁しそうになった。(正直少し、ほんの少しちびった)

あまりの心地に小便を漏らすというのは世間では常識だったが、それを口に出すのはタブーとされている。

多くの人が入る江戸の天下八泉、大衆泉では全員がそんなことをしたらたまったもんじゃないとひとり30秒までしなつかれないというのはあまりにも有名である。


「どうだ兄ちゃん。ここの温泉は気持ちいいだろう。毎日こんな気持ちいおもいが出来るのも小次郎様のおかげだ。たとえ負けたとしても俺らの誇りだよ」


となりで浸かっていたジジイが話しかけてくる。どうやらこの街にすんでいるらしい。


「そうですね。まいにちこんないい温泉に入れるなんて、羨ましいですよ」


笑いながら返すが、正直早く切り上げてしまいたい。入浴中に話掛けるのは本当に良くないと思う。温泉は誰かと共有するものじゃなく、自分との会話なのだ。


「だからね、俺は宮本武蔵が許せない。国の英雄を殺した奴なんて、絶対許せないんだ。決闘だか何だか知らないがね」


「そうですね、もう大罪人あつかいですもんね。もういっそ誰かに殺されてるんじゃないですかねぇ」


「ガハハ。そうだといいんだけどな。兄ちゃんも剣客やってんなら、小次郎様を目指せよ。間違っても宮本武蔵みたいになっちゃあならねぇ。侍ってもんは、人の幸せを守るために剣を振るうもんだ。そんななよっちい顔してたらいつまでもなれないぞ、ガハハ!」


馬鹿でかい笑い声を後ろに聞きながら外にでる。





巌流島で決闘に勝利した僕は、もはや天下の大悪党と同等の扱いをうけている。名前を出していい顔をする者は、この街には誰もいないだろう。


佐々木小次郎との戦いは壮絶というよりも余りにもあっけなかった。あっけなかったというか、一瞬のことだったので、正直彼がどのくらい強かったのか今でもわからない。

僕らは生涯一度として言葉を交わす事は無く、ただ一度の決闘の場で対峙しただけだ。

だから今までは本当に何もしらなかったのだ。彼がどんなことをしてきたか。どんなに人を幸せにしてきたか。僕はどんな人を殺してしまったのか。


「天下八泉を巡りなさい。そうすれば自ずと答えは見えてくる」

そう告げられた僕は、温泉旅を始めたわけだ。


多くの人が江戸から始める温泉旅だが、誰しも全てを制覇出来るわけではない。

江戸ー大衆泉のように開放されているとのもあれば、見つけるのが困難なもの、村人が恩恵を独占しようと排他的である所、浸かるのさえ困難な非常に強い効能を持つもの、皮膚がただれるほどの熱湯であるものなど一筋縄ではいかない。

三泉以上回ったと言えば立派なものである。

かの大泥棒、石川五右衛門は釜茹での刑に処されたとされているが、じつのところ、伊賀の国の油泉で大火傷を負った後に死亡したという噂はこの播磨の国にも既に伝わっていた。



夜の道を歩いていると何やら辺りが騒がしい。喧嘩だろうか?


「やっ、やめてぇ!その子だけは、町子だけはやめて!」


「お前らがいつまでも借金返さないからこうなるんだ。この娘は私が頂戴する。来月までは返済を待ってやるよ」


そう言うと取り巻きと共に笑い出す。

何やら地主とまんじゅうやがもめてるらしい。


「お願いしますっ。このとおりです。店はたたみますし借金も私達が一生働いて返すので、どうか、どうかその娘だけは勘弁してくださいっっっ!」


権力を持った地主や領主が娘をさらっていくのはよくある話だ。

勿論良くないことには変わりないが、自分達の頭にはだれも文句は付けられない。

今も誰も言わず、周りを取り囲んで見物しているだけだった。


「お母さん、お父さん。私は大丈夫だから。ね?」


涙ぐみながら町子が言う。


「(小次郎様、どうか私達家族をお導き下さい。どうか、どうかっ!)」


主人が祈るように唱えている。

こんな時、小次郎ならばどうしただろう?

間違えなく助けに入ったに決まっている。そう、間違いなくだ。

こういう時はいつも胸が掴まれるような気になる。

呼吸が荒くなる。手が震え、冷や汗がでてくる。

こうなるのは今に始まったことじゃない。彼が残した物の大きさを知れば知るほど、斬った者の大きさを知れば知るほどそれは重くのしかかり、時には目をくらませ、行く足をとった。


僕の剣の道は間違っていたのか?純粋に強さを求めて歩んできた今までは、全てを犠牲にして天下一の剣豪の座を掴むことは間違いだったのか?

色々な考えが頭をめぐる。



前足をふみだし、刀に手をかける。


「おっとお兄さん。これは私たちの問題なんでね。邪魔しないでくれ」


そんな考えは断ち切らなければならない。

確かに僕は殺してしまったのだ。

後悔に意味はない。



「ふーーっ」

深く息を吐き出す。呼吸を整える。


「その子を放せ。さもなくば佐々木小次郎に変わって僕が切る」


取り巻きの連中が各々剣を抜き始める。それに呼応し、僕もまた刀身を露わにする。





 斬りかかられると同時に体を左にかわす、と同時に捻りながら腕を振り下ろす。


「っっっ!」 


顔に大量の返り血を感じながらも二人目の刃を右手で抜いた身の丈程もある太刀で受け流し、そのまま胴を切り裂く。


「この小僧っっ!」


踏み込んできた三人目の懐に入り込み小太刀で腹を裂き、太刀で右手を切り落とした。


まさに一瞬のことだった。



声を発する者はひとりとしていなく、だれもが唾をのんだ。音を立てる事が愚かにさえ思えたからだ。そのくらいのそれだった。


立ち去る武蔵に声をかける者はその場にはいない。呆気にとられていた。(失禁している者もいた)






「あっあのっ、有難うございました。何かお礼をさせて下さい」


街はずれで町子が呼び止める。少し顔を赤らめながらもじもじしている。


「おまんじゅう、いりますか?なんて、あははは」


照れ笑いをしながら誤魔化すように頬をかいた。

「えっ、えっと、、」


「僕は宮本武蔵。天下一の剣豪、宮本武蔵だ」


町子は黙る。下を向き、次の言葉を待っている。

「佐々木小次郎も斬り捨てた。今日みたいに。僕は英雄斬りの人殺しだ、感謝なんかされる筋合いはないよ」


口を固く結んで、町子は下を向いたまま顔を上げない。


「饅頭はいいよ。たくさん食べたし。なんかごめんね、いやなもの見せちゃったかな」


「あっ、あのっ、、、、」


「じゃあ。げんきで」


被せるように言い素早く背を向けた。

怖かったのだ。何と言われるか。


天下無双の剣豪の成れの果てがこれだ。一少女にさえ怯える始末に呆れを通り越して笑いが出る。


きっと旅を続けるほどこの痛みを患うだろう。

彼の足跡を辿れなんて言った彼女はなんてひどいお人なのだろうか。


まだ肉を切った感触が手に残っている。

それを振り解くように足を進めた。






東の空が白くなっていく。弥生の国まではあと数里程度だろうか。
























西尾維新の刀語と、吉岡英治の宮本武蔵を参考にさせていただきました。温泉は行きたかったので取り入れました。

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