文字で埋め尽くすこの乾燥無意味な物語の人魚
虚無。
時空の空白。それはとても壮大で、永遠に続くように見えて、
――狭い。
内容のない小説を書くことは得意だ。
ただ人物を動かすだけ。
引き付ける魅力なんてありもしない、文。
ただの文字列とでもいうべきか。
一文読むだけでお腹いっぱい。
おいしくないのだ。
あまりにも味のしない文を書く本人はきっと、自分に酔っているのだろう。
小説を書いている自分の感覚に酔っているのだろう。
自分もそういう者の一人だと思うのだ。
見てるのがつらすぎて、
これは同族嫌悪というものか。
代わりに破ってあげたくなる。
やっぱりわたしは読む側の者なのだ、と思う。
支配者の思惑に流されるのは楽しい。
苦しみの底へ沈むより、浅瀬で作者の思惑に流されていたほうがずっと楽しい。
だが、水面で流されるだけではどこかちがう。
表面しか楽しめていない気がする。
少し潜ってみたい。
その苦しみを、ほんの少しだけでも齧ってみたい。
好奇心とは罪なもの。
猫をも殺すその猛毒に、蝕まれた。
形を見出すことなどできないで、ずっと定まらない故の胸やけ。
形のうまく作れない、液体で胸像を作るような。
掬った水がにげてくような、語彙の乏しさ。
少しだけ潜るだけのつもりがいつしか、深い。
仰げばあった輝きは遥か遠くへ。
前のように、純粋に楽しむことなどできない。
語彙、表現技法、プロット、始まりの描写。
気になることが多すぎて、駄目になる。
味を知りすぎたが故に味がわからなくなるような
舌の機能を疑いはじめる。
わたしは誰なの。
始まりの虚無から世界を作り出すことなど不可能に思えて、
やはり神は尊大なのか。
永遠の空白から始点を付けて、ぐっと広げる。
目の届かないような広さを生成すると、矛盾が生じる。
歪みも少ない。
どうして。
そうして。