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廃校

作者: ミゼン

怨念。


相手から一方的な酷い仕打ちなどを受け、

機会あらば復讐しようとする感情の事を言う。


その怨念は、例え生きているうちに

復讐を果たせなかったとしても。

霊として現世に残り、

復讐を成し遂げようとする事も少なくはない。

2019年、大阪。


「いやや、ほんまに行きたない……」

「大丈夫やって、未樹ちゃん。

霊なんて絶対出ぇへんから、ただの肝試しや」

「いやっ、私こういうのほんまに

苦手やって知ってますよね!?

ただ夏の星空を見に行くって

話やったのに、うぅ……」


大阪の郊外の山の中にある、40年前に廃校となった

「五明中学校」という廃校の、電灯が一つ程しかなく

辺りが薄暗い校門前に軽自動車が駐車され、

3人の男女が懐中電灯を持って立っていた。

時刻は夜の10時を回り、ただえさえ怖さを増した不気味な廃校を前に恐怖を感じていた一人の女子高生、坂田未樹。彼女は1歳年上の異性の先輩の張本翔人に夏の星空を見に行くといういわゆるデートっぽい誘いを受けた。別に未樹は翔人に何か特別な感情を持っていた訳ではないが、そろそろお盆休みで部活も無く暇だったのでそれくらい良いかと思い、誘いを受け入れた。しかしその誘い、それはちょっとした嘘で、実は怖がりな未樹と一緒にどうにかして肝試しできないかという、ドッキリじみた物だった。

その大学生の兄の張本翔一は車の運転手、

そしてそのドッキリじみた悪戯の共犯者だった。


「まぁまぁ、夜空なら校庭でも見れるやん。

ほら、めっちゃ綺麗やで?」

「いや翔一さん、そういう問題やないんですって!!

あぁ、騙されたぁ……

うぅ、最悪や、もう帰りたいっ……!」

「ほんまに未樹ちゃんは怖がりやな、

絶対に霊なんて出ぇへんから、大丈夫やって」

「いや先輩……っ、翔人先輩がこんな、

人を騙すような酷い人やなんて……」

「うっ……心に刺さる……」


そうやって恐怖で怯える未樹を丸め込んだ翔人と翔一は校庭を歩き廃校の昇降口前に立った。『この先立ち入り禁止』というテープを潜り抜け、中に入る。一番前に翔一、その後ろに翔人、その隣に未樹という人列で前へと進む。途中、雑談もしながら

目的地へと歩いていた。


「うわぁ、やっぱ噂通り不気味やな……

兄貴、そういやこの学校が廃校になった理由ってなんやったっけ?」

「あぁ、確か……あっ、

……そう。あれは確か、40年前の話や……この」

「いや怪談っぽく言い直す必要なかったですよね!?

こんなただえさえ幽霊が出そうな場所やのに

そんな口調で話さんといて下さいよ……!!」

「あぁ、ごめんごめん……

確か40年前の話なんやけど、この学校で酷いいじめを受けていた一人の女の子がおったそうや。関東の方から引っ越してきたらしいんやけど、「貧乏」っていうだけで5人ぐらいの男女のグループを中心にいじめられていたらしいんや。殴られたり蹴られたり、弁当を捨てられたり芋虫とか蜘蛛とかを無理矢理食わされたり、便所で便器にモップで顔を押し込まれたり、男子の前で服を脱がされて写真を撮られた事もあったらしいんや……酷い話やろ?」

「うっわ……酷過ぎるやろ……」

「……何ですか、それ……可哀想……」


あまりにも可哀想で酷すぎる話に二人は困惑した。


「まあ、こっからや。その女の子は周囲の人達……まあ、グループから脅されてたから仕方なかったんやろうけど、クラスの全員から無視されたりして、先生にさえもいじめられてたみたいで友達も一人もおらんかったらしいんや。そして遂にな、女の子は教室の中で首吊り自殺してもうてん。教卓の上に『呪う』という遺言状とナイフが置かれてあって、グループの全員の名前が一つずつ書かれた藁人形が、それぞれの名前の人の机の上に釘を打たれとってたんや。それから数日後、世にも恐ろしい事が起こるんや……!」


「……ひっ……!?」


「……そのグループの5人が、次々と突然死んでいったんや……!それも5人全員が突然狂ったかのように、道路に飛び出したり高い場所から飛び降りたり、ナイフを自分の急所に刺したりしてな……!」


「だ、だから翔一さん、

怪談口調で話さんといてってさっき……!!」

「何やそれ、まさか……いや、俺は信じひんぞ」


「それからまた数日後、『何も知らない』と一点張りしてる先生が大事な忘れ物をして夜中に学校に取りに行ってたんや。そしたら事件現場の教室の前で急に電気が消えてな……咄嗟に懐中電灯を取り出して明かりを点けたんや。


……そしたら、そこにはな……」


「まっ、まさかっ……?」


「……自殺した筈の女の子が、

そこにおったんや……!

そしてその女の子は腰が抜けて座り込んだ先生に近づいていったんや!よく見たらその女の子はナイフを持っていてな、『なんでお前が生きてるんだ』と先生は女の子に言い放ったんや、やけど女の子は黙って先生に近づいていったんや……先生は後ずさりして逃げようとするんやけど、気がつくと回りこまれてたんや。そして女の子は先生に耳元でこう囁いたんや。


『あなたの事、絶対許さないから。

あの5人のように、地獄に落としてあげる』ってな。


そして女の子はナイフを振り上げ!女の子は狂ったかのように先生を何回も刺して刺して刺しまくったんや!!『やめてくれ』そんな先生の声も女の子には届くわけない!!何回も刺して刺して刺し」

「わっ、分かりましたっ!!もう分かりましたから

もう、これ以上っ、話さんといて……くださっ……

うぅ、ひぐっ……ううっ……」

「あっごめん!しまった、

ちょっと調子乗り過ぎてもうた……」

「あぁ、兄貴……やりすぎやって……」


あまりの怖さに号泣してしまった未樹と

慌てて謝ろうとする翔一。

時刻は10時15分。

3人は暗い廊下を懐中電灯で照らしながら

一歩一歩進んでいた。


「まぁ、な……

さっきのはただの都市伝説なんやけどな……

どちらにせよ先生は死んだんや。結局犯人は分からんくて迷宮入りしてしもうて、こういう都市伝説が生まれたんや。ただな、それ以降この学校じゃ不可解な事か起こるようになってん。ずっと女の子を無視し続けてたクラスメイトが階段から手を滑らせて大怪我をしてしもうたり、理科の時間で突然火が爆発的に燃えて大火傷を負ったり、それだけやなくて何もしてないのに花瓶が木箱のロッカーの上から落ちて割れたり、封鎖され使われなくなった女の子が自殺した教室から『寂しい』って地縛霊かようわからんけど声が聞こえたり……まぁ、ほんまに遺言状通り学校に呪いがかかったかのように不可解なことが起き始めてん。そういうことがずっと続いて、遂にこの学校は廃校となったんや」

「嘘やろ……たまたまちゃうんか?

俺は霊なんて絶対信じひんからな……」

「……うぅ……もう嫌や、ほんまに帰りたい……!」

「まぁまぁ、そろそろ例の教室に着くで」


女の子が自殺した教室。

3人は今その入り口の前に立っている。

一際不気味なオーラを放っており、未樹は身体を震わせた。


「うぅ……」

「よし……入るぞ」

「えっ、まだ私心の準備

出来てないんですけど……!」

「大丈夫や、万が一なんかあっても

俺と兄貴がおるから」

「いや、そういう問題やなくて……!」


3人は教室のドアを開ける。木製で出来ており、

ギギギ……という軋んだ音が鳴り響く。


そのまま教室を一歩一歩、歩いていく。


……チリン。

「き、きゃああっ!?」

「うおおっ!?ちょ、未樹ちゃん!?」


突然、鈴の音が未樹の耳元で聞こえ、悲鳴を上げ

勢いで翔人の腕に抱きついてしまう。


「んっ、何や?」

「いっ、今チリンって鈴の音が耳元で……!」

「耳元って、別に俺達なんもしてへんし

別に鈴の音なんてしてないで?怖すぎて

幻聴でも聞こえたんちゃうか?」

「い、いやっ、そうやとしても……!!」


「なぁ、未樹ちゃん……腕……」

「……はっ!わっ、私……っ、恥ずかしい……

……やけど怖い……離したくない……です……」

「えっ、い、いや俺は別にええけど……」


恥ずかしさで赤面して視線を翔人から逸らすが、それよりも怖すぎて恥ずかしくても翔人の腕を離したくない涙目の未樹と、そんな未樹に腕を抱かれるかのようにぎゅっと密着されて満更でもなさそうな翔人。

その光景を若干にやけながら見ている翔一。


……チリン。チリン。


「きゃあっ!?ほ、ほらっ、またっ!!」

「えっ、今なんか聞こえたか?兄貴」

「いや、全然……ちょっとこれ以上は未樹ちゃんが

可哀想やから、そろそろ戻るか……?」

「……せやな、戻るか」

そういうと、教室から出る為に扉に向かおうとした。

……その瞬間だった。


『……しい……』


「……ひっ!?だっ、誰……!?」

「……んっ?今どっかから声がせんかったか……?」

「確かに、今明らかに

俺達の声じゃなかったやんな……?」


突然、女の子の声が3人の耳に入ってきた。


『……さみ、しい……』


「ひいいっ!?も、もう嫌やっ……!!」

「えっ、ちょっと待ってくれ……これマジ!?」

「女の子の声……間違いない、

ここで自殺した女の子の霊の声や……!」

「ちょっと、もう戻りましょ……!

こんなところ早く抜け出したい……!」


あまりの恐怖に流石の張本兄弟もビビり始め、教室から出ようと扉に早歩きで向かった。


『……うぅ……なんで……にげるの……』


……チリン、チリン。


3人は一目散に教室から出る。

そして来た道を早歩きして戻ろうとする。


……しかし、少し教室から離れた場所で、

後ろから気配を感じ未樹達は立ち止まる。


「……なぁ、後ろに

誰かいる気配がするんやけど……」

「ひっ……!もう怖いからほんまに

冗談抜きでやめてくださいよっ……!」

「いや、冗談なんかちゃうと思うで……

俺も後ろから気配がすごいするんやけど……」


「いっせーの、で振り返ってみるか……?」

「い、いや何言って……!」

「……まぁ、確認だけしてみるか……?

俺達の勘違いかもしれんし……」

「ちょ、翔一さんまで……!」


未樹は息を飲む。彼女は早くここから

抜け出したい気持ちでいっぱいだった。


これ以上、怖い思いなんて

できればもうしたくなかったのに。


「「いっせーの、っ!」」


未樹は覚悟を決め、3人で後ろを振り返る。


……しかし、そこには誰もいなかった。


「……誰もいない……のか?」

「……なんや……気のせいか、

確か地縛霊ってさっき兄貴が言ってたもんな……」


「はぁ……ほんまに怖いからやめて下さ……っ」


安心して目線を体の方向の一致する方向に戻した。

その瞬間だった。


『……わ……わたしは……ただ……』


……目の前に。


血に塗れたナイフを手に持ち。


鈴の髪飾りを付け、

白いワンピースを着た女の子が立っていた。


「「う、うわああああっ!?!?」」


「いっ、いやああああああああああっ!?!!?」



………



その後、未樹達は必死で逃げた。


幽霊という存在を元から苦手としていた未樹は勿論、

張本兄弟も死ぬ気で逃げた。ずっと幽霊を信じなかった翔人はそれ以来、幽霊を信じざるを得なくなってしまった。


未樹はこの事がきっかけでしばらく夜一人で寝れず、

かといって誰かと寝るのも恥ずかしいので、夜更かしを連続でして次に学校に来た時には目の下にクマを作っていた。


彼女にとってこの出来事はトラウマとなるだろう……




……




『わたしは……ただ……


……友達が、欲しかっただけなのに……」


誰もいなくなった、教室で

女の子の霊が一人寂しく呟いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幽霊の動機が「恨み」ではなく「寂しさ」であることに目新しさを感じました。最後が幽霊の独白で終わることで、しんみりとした読後感を味わえました。 [気になる点] 序盤の説明が少々長いように感じ…
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