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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ニートな俺が世界一になった次の日現実がバグりました

作者: 桜舞

就職に失敗した俺は大学を出たあとただただ怠惰な日常を過ごしていた。

都内のぼろ部屋に必要最低限のものだけ置いて朝から晩までPCに向かう日々。外出すらほとんどしない。

親からの仕送りはとっくに途切れ、貯蓄も心もとない。いい加減バイトくらいはしないと生活が出来なくなるな。と思いつつもその気力が湧かない。


そんな俺、柊涼太の生きがいはと言えば、今界隈で人気のガンアクションシューティングゲーム『Unlimited Gun Shooting』通称UGS。

100人のプレイヤーを1つのフィールドにランダムに配置して1人になるまで戦い続けるサバイバルゲームで、頼りになるのはバトル開始前に選ぶことが出来る一丁の銃のみ。


こういったサバイバル型のゲームは最近は珍しくもないが、1回のバトルで使えるのはたった一つの武器のみ、使えば使い込むだけその武器の熟練度が上がり使いやすくなっていく。つまりやり込めばやり込むだけ強くなれるゲーム性に俺はのめり込んだ。


そして今日はUGSの配信開始1周年を記念した全国大会の決勝だ。

予め行われていた予選を勝ち残った100人の猛者がたった一つの勝利を目指して戦うUGSの頂点を決める大会。

そこに俺も出場する。予選は難なく突破し、事前調整もバッチリだ。

PCの画面には俺の相棒とも呼ぶべき銃のステータスが表示されている。

『UGSO デザートイーグルカスタム』

実際にある拳銃、デザートイーグルをモデルにゲーム用にカスタムされたもので、初期から選べるものの中では1番威力が高い。

UGSでは弾の威力が高いほど弾速が遅くなる仕様だ。威力が最も高いこの銃から打ち出される弾の速度はそれこそ見てから回避余裕なレベル。

モデルの銃の知名度からリリース当初は使う人が多くいたが、その弾速のあまりの遅さから手放す人が続出し、今では俺以外で使ってる人をほとんど見ない。


だが俺はこの銃を使い続け、強化し続けた。

ゲームのチャット仲間には何度も持ち替えを勧められた。初めの頃は全く勝つことが出来なかった。


「…ははは……。」


その頃のことを思い出せば笑えてくる。よくもあんな非効率的なことをやってられたものだ。

勝てる試合を負け続け、一時期は底辺を這いつくばって。

だが、這い上がった。


熟練度MAXのその先。特殊パラメータMAX。

そこまで強化して初めてこの銃は最強になる。


画面に表示されるステータスは全て最大値。

無限かと思われるほどの膨大な強化値全てをカンストさせた俺の相棒。


それを見ると口元が緩む。

しかしまだだ。今日の大会で結果を残して初めて俺は胸を張れる。


ーゲームばっかりして、あんた将来のことどう考えてんの?


先日母親に言われた言葉だ。

わかっている。こんなことで何も変わらないことは。

それでも、俺はここで結果を残せないと前に進めないのだ。いや、結果を残せばきっと前に進めるのだ。


バトル開始まであと1分。


深呼吸をして雑念を振り払う。


あと30秒。


目を瞑り、意識を集中させる。


あと10秒。


目を開いてマウスとキーボードに手を添える。


「さぁ、全員撃ち抜いてやる。」


バトル開始。


スタートと同時に俺はアバターを走らせる。

止まったら死ぬ。動きを止めれば遠距離から撃ち抜かれる。

走って、走って。見つけた敵を片っ端から撃ち殺す。


走って。撃って。走って、走って。撃って。


ひたすらにそれだけに意識を集中させる。



向けられる銃口から弾道を予測して避ける。

銃声が聞こえる前に回避し着実に距離を詰めていく。

向けられているのは『UGSO H&K G41C』。

射程と弾速、威力全てバランスよく高いイベント入手の銃で、現在のTier1の実質最強銃。


「くそっこいつ遠距離からちまちまと!」


HPバーは半分少ししか残っていない。一撃耐えきれるか微妙なラインだ。

こちらの射程まではあと少しだが、なかなか近づけない。


次弾が照準され、弾道予測から回避を入力する。

これは完全にPSだが、俺はこの技術には自信がある。

が、


バチッ


予測した場所とは反対の場所に着弾する。

HPはギリギリミリ残った。

残ったプレイヤーは2人だけなので伏兵の可能性は考えられない。

予測が外れたとしてもここまで大きく変わることは無い。

だとすれば後考えられるのは、


「くそっなんだコイツチートでも使ってんのかよ!」


弾が曲がることはゲーム内ではありえない。つまりはゲーム外要素であるチートの使用だろう。


「ちっ!大会が終わったらBANされやがれ!でもな、」


画面にサークルが表示される。つまり、射程圏内に入った。

俺はアバターを射撃体制にする。

相手はゆうゆうと次弾を装填する。

恐らくはこちらの弾速を予想してのことだろう。


「悪いな。これで、」


現在UGSに存在する銃の中で初期値の弾速が1番早いもので314。単位は知らないが、この数値が大きければ大きいほど弾速が早くなる。

デザートイーグルの初期値は62。最低値だ。

だが俺の相棒は


「終わりだ!」


弾速1068。撃ち出された弾は一瞬で相手に到達しその眉間を撃ち抜く。

そして一撃でHPを全て刈り取り、そのアバターを光の粒子に変換させた。


「はは…やった、やったぞ……」


鳴り響くファンファーレ。そして画面に映る『You are WINNER』の文字。


その画面を眺めて急激な脱力感と達成感、満足感に包まれながら。おれは椅子の背もたれに身を預け、そのまま寝落ちした。





ーね……い




ー…うか…………しを




ー私を、助けて。







椅子の上で目を覚ました俺は目の前の違和感にすぐ気がついた。

PCのモニターがあるはずの場所に1つの箱が置かれないる。


「あれ、俺のPCは…?」


とりあえず寝ぼけた目を擦ってその箱を手に取る。片手で持てるサイズの平たい箱だ。通販サイトとかで買い物するとよく送ってくる感じの。


「おわ、重た…」


だが目算より随分と重たかった。

とりあえず開けてみる。


中に入っていたのは紙ともう1つ。

画面で何度も見た俺の相棒。『UGSO デザートイーグルカスタム』が入っていた。


「は?…嘘だろ?」


とりあえず入っている紙の方を手に取ってみる。



ようこそ!柊涼太様!

あなたはUGSにおいて大変優秀な成績を残されましたので、私の世界にご招待致しました!

この世界にはありとあらゆるゲームの頂点のみが集まりその腕を高めております!

どうか涼太様もこの世界で存分に生き抜いてくださいませ!



以上。紙に書いてあった内容より。

意味がわからない。夢でも見ているのかとほっぺをつねってみるがちゃんと痛かった。


「夢じゃねーのか?なら一体…」


バンバンバン


不意にベランダに通じる大窓が叩かれる。

ビクッと飛び上がりそちらをみる。


そこには、ゴブリンがいた。


いや、実際にゴブリンかどうかは知らないが、とにかく最近アニメで見た感じの不細工なかおをした生物が大窓をバンバンと叩いていた。


「え、いや、ちょ、まてよ、なんだコイツ…?」


バンバンバン


バンバンビシッ


窓にヒビが入る。そして


バキッ


と窓が破壊される。


「ギャギャギャギャ!」


奇妙な笑い声を上げながらゴブリンのようなそれが部屋に侵入してくる。


「うわっちょっと待てって!」


咄嗟にデザートイーグルを箱から取り出してそれに向ける。

するとこれまた見なれたサークルが視界に映り込んできた。


「は?これって…」

「ギャギャ!」


困惑する俺を置いてそれは飛びかかってくる。

よく見ればそれは曲がった短剣のようなものを持っている。


「うわ!だから待てって!」


慌てて銃の引き金を引く。ゲームで見に染み付いたようにサークルに合わせて狙いを定める。


ダンッ


と腕に衝撃が走り尻もちをつく。


「いてて…」


おしりを擦りながら起き上がり目の前を見ると

ゴブリンのようなそれが倒れていた。

眉間に大穴が空いているのが見て取れる。


「えっと、倒した?のか?」


ピコン


と電子音のようなものが鳴り、視界の端に『EXP+3』という文字が浮かぶ。

そしてパパーっとファンファーレのようなものがなり、『Level1→2』と続けて表示された。


「なんだこれ、まるでゲームみたいな…」


パキン


と今度は何か割れるような音がして目の前似合った死体?が光の粒になって消えていく。


「なにがどうなってんだ……」


困惑しながらとりあえず外を見てみる。

そして知った。


空には大きなトカゲのようなものが飛びさっていた。それはよくファンタジーとかで見るドラゴンのような姿だ。

空は快晴。雲ひとつなく、2つの太陽が世界を照らしている。

街並みはいつも通り。しかしそこにいるのは人間ではなく様々な形をした化け物共だ。


「ああ、なるほど。UGSで優勝すれば何かが変わると思っていたんだが。」


1人頷きながら。


「どうやら俺の世界はバグっちまったみたいだ。」


1人、絶望した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がオンラインゲームで世界一になって寝落ちしていたら、異世界へという世界観に引きこまれました! どこか現実味のある異世界ものなのかな、と期待して次の展開が気になって待ち遠しいですね! …
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