157話 御剣邸にて
その夜、御剣家の大広間では四卿、八旗の将、さらに各旗の上位旗士たちが集まり、張りつめた空気の中で今後の対応を検討していた。
御剣家当主にして剣聖たる御剣式部が敗れた。これだけでも御剣家にとっては天地がひっくり返るほどの一大事であるというのに、倒れた式部が後を託した相手はよりにもよって鬼人族に与したかつての嫡子 御剣空だった。
滅鬼封神の掟を掲げて戦い続けてきた旗士たちにとって、とうてい主君として受け入れられる相手ではない。
幸いと言うべきか、式部の残した言葉を知っているのは居合わせた双璧と一部の将、それに司徒ギルモアだけだった。ギルモアたちはこのことを他の上位旗士に伝えるにとどめ、平旗士や民衆には詳細を伝えなかった。そんなことをすれば、柊都全体が抑えようのない混乱に包まれてしまうことが明白だったからである。
もっとも、式部と空の激闘は鬼ヶ島全体を揺るがすほどに苛烈だったため、詳細を伝えられなかった平旗士も、柊都の住民も、御剣家中で何かが起きていることは察していた。
そのため、日が落ちてからも柊都を包む混乱は静まっておらず、事情を知らない人々は得体の知れない不安と興奮に苛まれながら眠れぬ夜を過ごしている。
当主不在の大広間に集まった者たちも心境としては似たようなものだった。ただ、大広間にいる者たちはより事態を知り、より真実に近い分、自分たちが御剣家三百年の歴史の分岐点に立っていることをまざまざと感じ取っている。
だからこそ、安易に口をひらくことができずにいた。
澱のような沈黙が続く中、最初に口をひらいたのは、やはりと言うべきか司徒ギルモア・ベルヒだった。
「――すでに皆も存じておろうが、改めて伝えておく。御館様はご無事である。いまだ意識を取り戻しておられぬが、命に別状はないとのこと。まずは重畳である」
ギルモアの言葉に旗士たちが一斉にうなずく。
次いで、ギルモアは目に皮肉の色を湛えて式部を発見した功労者を賞した。
「御館様をお救いした司馬の功績は誰もが認めるところ。このギルモアも感服つかまつった」
「臣下として当然のことをしたまででござる」
「さすがは司馬、謹厳たる態度はまさしく臣下の鑑である」
そう言うと、ギルモアは唇の端を吊りあげながら言葉を続けた。
「臣下の鑑たる司馬にこのようなことをうかがうのは失礼千万なれど、事が事なればあえてうかがいたい。鬼人に与し、御館様の命を奪わんとした乱賊を司馬はどのように処されるおつもりかな? 御館様をお救いするのが臣下の務めであるように、主君の仇を討つことも臣下の務めであるはず。司馬たる者、旗士たちの先頭に立って彼の乱賊を討ち取ってしかるべきと愚考するが、司馬の存念は如何?」
相手に問いかける形をとってはいたが、ギルモアの意図が空の傅役であったゴズ・シーマをあげつらうことにあるのは明白だった。
このような時でも政敵の追い落としに勤しむギルモアを見て、辟易した表情をひらめかせた旗士は少なくない。だが、あえて二人のやり取りに口を挟もうとする者はいなかった。
ギルモアの意図はともかく、御剣家の中で最も空に近いゴズがどのように動くつもりなのか、それを知りたいと思う者は多かったのである。
旗士たちの視線を一身に集めたゴズは落ち着いた態度で応じる。
「それがしはまず空殿の話をうかがう所存でござる。なぜ鬼人に与したのか、なぜ御館様と刃を交えたのか。いずれも深い仔細があるはず。空殿を当主として迎えるか否かを決めるのは、それからでも遅くないと存ずる」
「ほう、これは驚いた。仔細があれば鬼人に与してもかまわぬ。仔細があれば実の父を斬っても構わぬ。仔細があれば滅鬼封神の掟を踏みにじって鬼門を開いても構わぬ――司馬はそのようにお考えらしい。失礼ながら、四卿の一人とは思えぬ不見識。忠臣たる司馬がこのように不忠な考えを持っていると知れば御館様もさぞ嘆かれよう。そうは思わぬかな、ゼノン殿?」
ギルモアが名前を呼んだのは三旗の旗将であるゼノン・クィントスだった。
先に息子ルキウス、御剣ラグナと共に空に挑んで退けられたゼノンは、先刻からむっつりと押し黙ったまま旗将の席に座っている。
ベルヒ家とクィントス家は共にラグナを次期当主に据えようとしている間柄。それでなくても鬼人に屈した空に敗れたことで、旗将としてのゼノンの声望は下落している。この上、もし空が当主になろうものならクィントス家の凋落は避けられない。
それゆえ、ゼノンは間違いなく自分に同調するはず、とギルモアは考えていた。
だが。
「司徒殿。今はそのような些末事を論じている場合ではあるまい」
「……なんじゃと?」
ゼノンの返答はベルヒ家との誼など微塵も感じさせない乾いたものだった。
ギルモアが眉根を寄せて問い返すと、ゼノンは淡々と言葉を続ける。
「率直に言うが、今御剣家は存亡の淵に立っているとそれがしは考える。剣聖たる御館様が倒れ、御館様を倒した者が鬼人に与している状況は極めて危険である」
「そのようなこと、貴公に言われずとも承知しておる。だからこそ、乱賊に与する可能性がある者を詮議しているのではないか。すべては彼の乱賊を討ち果たすためである」
「それが些末事だと言っている。そんなことをする前にこの場で明らかにしておくことがあろう」
ゼノンの言葉を聞いたギルモアが不快そうに顔をしかめた。
「この期に及んで乱賊を討つことよりも優先すべきものがあるとは思えぬが、試みに問おうではないか。ゼノン殿が言う『この場で明らかにしておくこと』とはいったい何のことだ?」
「知れたこと。御館様がいつディアルト殿に書状を託されたのかを明らかにすることだ」
ゼノンは言う。
式部は己の意思を記した書状を筒に入れ、これに厳重に封をしてディアルトに託した。一方で開封の役目はディアルトではなく淑夜に任せ、筒に異常がないことを確認させてから書状の内容を発表させた。
式部は書状の開示を双璧に任せることで、記した内容が何者の改竄も受けていないことを周囲に示したのである。
このことからも、書状に記された『己を倒した者に当主の座を譲る』という言葉が、式部自身の意思であることは間違いないと判断できる。ゼノンもそこは疑っていない。
問題は、式部がディアルトに書状を託したタイミングが、空が鬼人に与したことを知る前なのか、それとも後なのかという点である。
式部が空のことを知る前に書状を託したのであれば「御館様は鬼人に与する空に当主の座を譲るつもりはなかった」という解釈も成り立つ。空を乱賊として討つというギルモアの主張はこの解釈を前提としている。
だが、式部が空のことを知った後に書状を託したのであれば、その解釈は成り立たない。空が剣聖を倒す実力さえ持っていれば、たとえ鬼人に与していたとしても御剣家当主となることに不都合はない――式部はそう判断したことになるからである。
「約めて言えば、この衆議で決するべきは我ら家臣が空殿を当主として容れるのか否かである。その判断を下すためには御館様のお考えをよりくわしく知る必要がある。御館様がすべてをご承知の上で『自分を倒した者に当主の座を譲る』と言い残されたのであれば、鬼人に与したことを理由に空殿を否定することは御館様のご意思を否定することと同じであろう」
それを聞いたギルモアは驚いたように目を剥いた。
痛いところを突かれたから――ではない。ギルモアは痛いところを突かれたのではなく、意表を突かれたのだ。
我に返ったギルモアは心底あきれた顔でゼノンを見た。
「なにをたわけたことを……御館様は滅鬼封神の体現者たる御剣家の当主であるぞ。その御館様が鬼人に与した者を当主として認めるはずがあるまいが。そのような可能性を論ずること自体が御館様への侮辱であろう!」
「ならば御館様の怒りはこのゼノンが引き受けよう。あらためてディアルト殿にうかがいたい」
そう言うとゼノンは視線をギルモアからディアルトに移し、真剣な声で問いかけた。
「貴公が御館様から書状を預かったのはいつのことだったのですかな?」
これを聞いたギルモアは苛立たしげに膝を打ってゼノンを睨んだ。
そして、嘲るように言う。
「これはしたり。ゼノン殿はただ一度の敗北で腑抜けになられたとみえる。理屈をこねて主君の仇討ちから逃げようとしておいでだ。ラグナ殿も頼りない傅役をもたれたものよ。ディアルト殿、かまうことはないゆえゼノン殿の蒙を啓いてやるとよい」
鬼人族についた空を式部が認めることなど万に一つもありえない。そう確信しているギルモアは自信に満ちた声で実子であるディアルトをうながす。
ギルモアは内心ですでにゼノンを見限り、式部が目を覚ましたら旗将から降格させて、三旗におけるクィントス家の勢力をベルヒ家のそれに塗り替えてしまおう、などと画策していた。
そのギルモアの耳に淡々としたディアルトの声が響く。
「書状を託されたのは御館様が彼の者と刃を交える直前のことだ。その場にはシモン殿も同席していた」
ディアルトが四卿の一人である司空シモン・ガウスの名前を挙げると、旗士たちの目が一斉にシモンに注がれた。
シモンは戸惑った顔をしながらも、こくりとうなずいてディアルトの言を肯定する。
「確かに御館様が空殿と戦う少し前、書状の入った筒をディアルト殿に渡す場に同席しましたな」
式部が四卿であるシモンを同席させたのは証人にするためであろう。
司徒であるギルモアではディアルトに近すぎる。両者が示し合わせれば、筒を渡したタイミングを偽ることができてしまう。司寇もベルヒ家の人間なので同様。
逆に司馬であるゴズはベルヒ家の政敵と目されているため、司徒や司寇と別の意味で公平性を担保する証人にふさわしくない。
その点、司空であるシモンはベルヒ家と近からず遠からず、その謹厳実直な人となりは多くの旗士が知るところである。間もなく引退する身なので、その意味でも私心の無さは証明されている。証人としてこれ以上ふさわしい人物はいないだろう。
事実、シモンの言葉によって、大広間に集まった旗士たちはディアルトの言葉に偽りがないことを認めた。式部は空が鬼人に与したことを知った上であの言葉を残したのだ。
ゼノンの言葉を借りれば「たとえ鬼人に与していたとしても御剣空が当主となることに不都合はない」と式部は判断したのである。
これにより衆議の空気は大きく変わった。
もとよりこの場にいる者たちは空と式部の戦いを目の当たりにした者たちだ。剣聖と真っ向からぶつかり合った末に勝利をもぎとった空の実力を肌で感じ取っている。
もちろん、だからといって空を当主として仰ぐことに不満がないわけではない。むしろ、大半の旗士は不満しかないだろう。心情としてはギルモアの考え方こそが青林旗士の総意に近い。
だが、心情に従って空の当主就任を拒絶すれば戦いは避けられない。剣聖を打ち破った空との戦い。たとえ双璧でも単身で勝つことは難しく、上位旗士が総出でかかることになるだろう。
剣聖の奥伝を立て続けに食らいながら平然と戦い続けていたあの耐久力を思えば、たとえ勝てたとしても被害は無視できないものになる。
その機に乗じて無傷の鬼人たちが攻め寄せて来れば、御剣家は鬼門はおろか柊都さえ失うことになりかねない。
そこまで考えれば、感情にまかせて空の当主就任を拒むのは下策であることがわかる。
多くの上位旗士が「空を当主として迎えることには賛成しかねるが、現在の状況と御館様のご意思を考慮すれば、無闇に反対することもはばかられる」という結論を胸に抱く。
ただ、当然ながらそれでは納得できない者もいた。
「バカな!? 御館様が鬼人に屈した痴れ者を認めるなどありえぬ!」
ディアルトとシモンの言葉を聞いて愕然としていたギルモアが、我に返ったように怒声を張り上げる。
そして拳を床に叩きつけて周囲を見回した。
「主君に仇なす乱賊を討つことに議論の余地などない! 我が子ディアルトを筆頭に八旗が総力をあげて戦えば、あの痴れ者を討ち果たすことなど造作もあるまい! しかる後、御館様に当主の座に戻っていただけばよいのだ!」
それを聞いたゼノンが顔をしかめながら反論する。
「空殿と戦えば八旗も無事では済まぬ。空殿の背後には無傷の鬼人たちが控えていることを忘れてはなるまい。八旗が弱体化した機に乗じて鬼人が攻め寄せてくれば、鬼門はおろか柊都を失うことさえありえるのだ。思うに、御館様が空殿に後を譲ると言い残されたのは、己を打ち倒した空殿を御剣家に帰参させるための深慮遠謀なのではないか」
「口をつつしめ、惰弱者! 鬼人が攻めてきたのなら討ち払えばよい! それこそ滅鬼封神の掟を掲げる青林旗士の務めであろうが! 仮にも旗将の職にある者が、戦う前から鬼人に負けることを考えて何とする!? それほど空めと戦うことが恐ろしいのなら、さっさと旗将を辞してこの場から去るがよいッ!」
ギルモアが口を極めてゼノンを罵ると、ゼノンの両眼に雷火がきらめいた。
クィントス家の長は自身が敗残の身であることをわきまえており、ここまではギルモアが何を言っても努めて平静を保ってきた。だが、さすがに今の言葉を聞き捨てにすることはできなかったのである。
「それがしが空殿との戦いを恐ろしいと思っていることは否定せぬ。だが、それは今の空殿と戦うことで御剣家が取り返しのつかない傷を負うことを恐れているからだ。これを惰弱と呼ぶのなら、司徒におかれてはこの場で空殿に対する確固たる勝算を示していただきたい」
そう言うと、ゼノンは皮肉っぽく頬を歪めた。
「聞けば、司徒は空殿に対しても数を頼りに凄んだ挙句、吼えてばかりいないで自ら範を示せと言われたそうではないか。そうして心装を出して挑んだ結果、勁砲ひとつで一蹴された。その間、ディアルト殿も淑夜殿も、それ以外の旗士たちもその場を動かなかったと聞く。空殿は数を頼りにして勝てる相手ではない、と皆が理解しているのだ。いまだにそのことを理解していないのはおぬしひとりだけだ、司徒」
「……ッ、ふん、ずいぶんと口がなめらかではないか、ゼノン。おぬしがどれだけ空めの強さを過大に説こうとも、おぬしと息子の敗北を帳消しにすることはできぬのだぞ?」
「ご高説痛み入る。それで、空殿に対する勝算はいつ語っていただけるのかな?」
強い皮肉を織り交ぜたゼノンの言葉に、ギルモアはぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
ちらとディアルトを見たが、息子がギルモアに同調して声をあげることはなかった。そのことにギルモアは強い憤りをおぼえる。
もともとギルモアとディアルトの間に親子の情愛というものは存在しない。ギルモアはディアルトを重んじたが、それは自身の野望を叶えるための駒として重んじたに過ぎず、必要とあらば息子を処断することに何のためらいもなかった。
そのことはディアルトも承知していただろう。
それでもベルヒ家に軋轢が生じなかったのは、ディアルトが粛々と父親の言うことに従ってきたからである。
それはディアルトが第一旗の旗将となってからも変わらず、ベルヒ家の父子は、片や司徒として、片や旗将として、御剣家の文武の柱となって主家を支え、自家の権勢を高めてきた。
今やギルモアの野望にとってディアルトは欠かせぬ存在となっている。
――それを今になって変心するか!
思えば、空と対峙している時からディアルトの態度はおかしかった。衆議に先だってそのあたりを問い詰めておくべきだった、と悔やんでももう遅い。
それに、ギルモアは衆議が始まる直前まで司徒として家中の混乱を静めるために奔走していた。衆議の前に息子と話し合う時間を持つことなど初めから不可能だったのである。
――ディアルトの心底は衆議の後に確かめればよい。このままでは本当に空めが当主になってしまう。それだけは何としても阻まなければならぬ!
空が当主になればベルヒ家は終わりだ。それはギルモアの野望が終わることを意味する。
ベルヒ家の当主は憤懣で顔を朱に染めながら、いかにしてこの状況を挽回するかを懸命に考え続けた。
その後、深更に至っても大広間における喧々囂々の議論が止むことはなかった。多くの上位旗士が意見を述べ、他人の言葉に耳を傾け、また口をひらく、そんな行動を繰り返している。
打ち続く議論に飽いて席を外す旗士もいたが、それはごく少数であり、ほとんどの旗士たちは大広間に詰めていた。ただ、そういった者たちも喉の渇きや空腹、厠などで席を外すことはある。
だから、アヤカ・アズライトが席を立って大広間を出ようとしても、格別その行動を気にかけた者はいなかった。
昨日までであれば許嫁の御剣ラグナあたりが気付いたかもしれないが、そのラグナは真剣な表情でゼノンと語り合っており、アヤカの行動に気づいていない。
真剣さの中に何かを吹っ切った清々しさを漂わせている許嫁の横顔を見て、アヤカはそっと顔をほころばせる。
そして、もう顧慮することはないとばかりに軽やかに踵を返すと、そのまま大広間を後にした。
大広間を出たアヤカが向かった先は屋敷の奥、意識を失った式部が休んでいるはずの当主の間である。
かつては空の、現在はラグナの許嫁であるアヤカにとって御剣邸は我が家同然であり、当主の間に向かう足取りには迷いもためらいもなかった。
途中、幾人かの警備の旗士とすれちがったが、アヤカのことを咎める者はいない。皆、一礼して道をあけてアヤカを通した。
そうしてアヤカが当主の間の前まで来ると、そこには数名の旗士と侍女、そして式部の容態の急変に備えて御剣家の典医と法神教の高司祭が待機していた。
彼ら彼女らはいずれも法神教の信徒であるが、そのことを不審がる者は家中にいない。法神教はアドアステラ帝国の国教であり、柊都にも大きな法の神殿がある。当然、御剣家中にも大勢の法神教徒がいる。
この場にいる者が全員法神教徒だとしても、それはただの偶然であり、なんら怪しむべきことではないのである。
この状況で主君の周囲に侍ることを許されたことからもわかるとおり、この場にいる者たちは皆御剣家に仕えて長く、信用もあれば実績もある忠臣たちである。その意味でもここにいる者たちを怪しむ者は存在しなかった。
だが。
アヤカが姿を見せるや、その忠臣たちは音もなく一斉に頭を垂れた。そして、帯刀したまま部屋に入ろうとするアヤカを止める素振りも見せず、無警戒に通してしまう。
「――皆、下がりなさい」
アヤカがささやくような声で告げると、法神教徒たちは迷いなくこれに従い、足音も立てずに静々と当主の間から離れていく。
ひとりになって当主の間に足を踏み入れたアヤカは、部屋の中央に敷かれた布団の上に横たわっている式部に視線を注ぐ。
そして、一歩、二歩と足下を確かめるようにゆっくりとした足取りで、眠っている式部に近づいていった……