表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/323

幕間 焦燥

書籍3巻の特典SSとして書いたルナマリア編です。事情(締め切りオーバー)があって特典にはならなかったのですが、抱えておいても仕方ないのでコミカライズ宣伝を兼ねて投下します。

時間軸としては第二部のはじめ、主人公がイシュカを留守にしていた頃になります。


なお本編の続きは明日の夜に投稿予定です。


 ティティスの森はかつてないほどに荒れていた。


 もとより強力な魔獣の多い魔の森として知られる場所であるが、今は輪をかけて危険な場所になっている。


 原因は言うまでもなくヒュドラの出現である。そして、元凶であるヒュドラが討伐されてからも混乱がおさまることはなかった。ヒュドラが残した毒は今なお森を汚染し続けており、これによって棲み処を追われた魔獣たちが至るところで暴れているのだ。


 そのうちの何割かは魔獣暴走スタンピードの際に森の外にあふれでたが、それはティティスの魔獣の総数に比すれば小さい数字でしかない。


 ルナマリアとミロスラフが森に足を踏み入れたのはそういう時期である。


 目的はレベルを上げること。今のティティスの森が危険であることは言をまたないが、逆にいえば、普段は森の奥に潜んでいる魔獣と遭遇しやすいということだ。経験を重ねてレベルを上げるには絶好の機会である――そんなミロスラフの提案にルナマリアは乗った。即答したといっていい。


 普段のルナマリアならば、相手の提案に応じるにしても即答はしなかっただろう。


 これまでのルナマリアはレベルに重きをおいていなかった。レベルは冒険者として活動した結果に過ぎず、レベルを上げるために危険を冒すという発想はなかったのだ。


 だが、今のルナマリアはレベルにこだわっている。エルフの賢者の脳裏には、先の鬼ヶ島勢の襲撃があった。青林旗士のひとりであるクリムト・ベルヒに手もなくひねられた記憶、と言いかえることもできる。


 武技も魔法も何ひとつ通じなかった。もしクリムトに殺意があれば、今ごろルナマリアの頭と胴は泣き別れていたに違いない。


 聞けば、クリムトのレベルは『50』に達しているという。


 イシュカ随一の実力者と目されているギルド長のエルガート、第一級冒険者の彼のレベルは『35』。カナリア最強をうたわれるドラグノート公爵も、おそらく『50』には達していない。


 レベル『50』というのはそういう領域だった。


 クリムトはソラと同じ年齢だというから、まだ二十歳になっていないことになる。そんな若者がレベル『50』になれたというだけでも驚くべきことなのに、クリムトと同年の姉クライアにいたってはレベルも力量も弟以上だという。


 そして、そんな二人さえ鬼ヶ島の中では「気鋭の若手」でしかないという事実に、ルナマリアは絶句するしかなかった。


 ソラと御剣家の間に隙が生じている今、クリムトたちと同じか、それ以上の実力者が襲ってくることは十分に考えられる。


 今の自分では何の役にも立てない。ルナマリアはそう思い、危険を冒してでもレベルを上げる道を選んだのである。


 ただ、これとて限度はあった。ルナマリアたちがどれだけ森の魔獣を倒しても、一気に十も二十もレベルを上げることは不可能なのだ。ミロスラフは先にスキム山で短期間のうちに四つもレベルを上げたそうだが、それは大量の魔法石という裏技があってのこと。真っ当な方法でレベル『50』に達しようと思ったら、それこそ十年単位の時間が必要になるだろう。当然、御剣家がそんな猶予をくれるはずもない。


 身もふたもなく言ってしまえば、今のルナマリアの努力は焼け石に水でしかなかった。


 そのことをルナマリアは自覚している。それでも森にやってきたのは、何もしないよりはマシであると考えたことがひとつ。そしてもうひとつ、脳裏にひらめいたある着想が行動を促したからであった。



「幻想一刀流の奥義である心装は同源存在の力を統御することにある、とマスターはおっしゃっていた。私の推測どおり、鬼門と同源存在に関わりがあるのなら、鬼門と同じ性質を持つ龍穴の近くで戦えば……」



 幻想一刀流や御剣家の外にいる者でも、同源存在を知覚することができるのではないか。それがルナマリアの推測だった。


 ソラに頼んで龍穴に連れて行ってもらうことも考えたのだが、何度か赴いた経験からいえば、ソラは龍穴の存在を忌んでいる。おそらくルナマリアの考えを聞けば反対するだろう。


 だから、自分の足で行こうと考えた。


 深域でのレベル上げはその第一歩。実力をたくわえ、ソラに頼らずに龍穴に挑むのだ。


 ……急がばまわれ、というにはあまりに迂遠うえんすぎることはわかっている。今のルナマリアの実力では龍穴どころか、深域を抜けることさえ難しい。


 だが、クリムトやクライア、それにソラと同じ領域に踏み込むにはこれしかない、とも思う。


 脳裏に浮かぶのは、クライアと稽古をするときのソラの楽しげな顔。


 ルナマリアの青い双眸に、賢者らしからぬ焦りの色が浮かんでいた。



コミックアース・スターで連載中のコミカライズ版ですが、本日ニコニコ静画の方でも第一話が公開されました。

この作品を読んで「面白かった、続きはよ(ノシ`・ω・)ノシ バンバン」と思われた皆様、コミカライズ版の応援もどうぞよろしくお願いします。


コミックアース・スター及びニコニコ静画へは下記リンクからとぶことができます。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000
反逆のソウルイーター第8巻7月14日発売
ご購入はこちらから(出版社のTwitterに飛びます)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ