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第1話 入学式と担任との出会い

―場違いだ・・・。


「さて、生徒諸君、君たちは栄えあるこの国のシズニアの騎士団になるため最も近い場所にいるということを真に理解しているだろうか。」


 豊かに白髭をたくわえた壮年の男は豪奢な演壇で両手を広げて魔法式拡声術を使い語る。


「この騎士学校は身元が保証されており、なおかつ優秀でなければ試験を受けることすらままならない。それはこの学園に入ってからも同様である。

この国の精鋭たる騎士団には不心得者は入れない。優秀でないものも入れない。

つまり、努力を続け、己を磨き続けなければこの学園にて学ぶ資格を持つことすらできんのだ。

ならば、諸君達に期待することは一つ。

学び続けよ、磨き続けよ、それこそがこの学園にいる条件だ。

そもそもー」


 冬が終わり、小春日和の風が校庭をかける中、騎士学校の教頭が熱を込めて新入生徒に演説を続ける。ほぼ全員の生徒の目には野心や正義感を秘めた熱い眼差しでその演説に聞き入っていた。その熱のこもった風景にはこれから国を担うものとして義務感のような矜持を感じさせるものがあった。そんな中、ほぼ全員の例外であったレニアは独りごちた。


―ぜったいに、場違いだ・・・!

本来なら自分は地元の学校で算術を学び、商いを学び、実家の商売を手伝いつつ日々を暮らし、適当なところで近くの男性と良縁があれば嫁がされることになる生活がまっている「はず」で、そして、決して平和でないかもしれないがありきたりな未来が待っている「はず」だった・・・。


 レニアは胸元まで伸びるウェーブのかかったくすんだ栗毛色の髪を指先でいじりながら、目線は教壇に、しかしどこか遠くを見ながら未練がましく現実逃避を続けていた。

 そもそも周りは熱意にあふれているが私は半ば拉致されて連行されてきたようなものだ。未だに訳がわからない。ため息をつきながら自分の人生が大きく変わってしまったその日に思いを馳せるのだった。


 レニアは親からの再三の注意もむなしく、14歳になっても周りの同性に比べお転婆であり、男子と混じって遊んではからかわれてはそのからかいを許せず男子を泣かせるまで執拗にやり返すことを除けばごく普通の女性であった。

 そして本来、その日は子供たちにとって誰もが待ち望む日であった。15歳を迎えて年が明けた2週間後、子供たちはそれまで禁止されていた魔法を使用してよいとなる初めの日なのだ。それまで子供たちは大人の目を盗み、兄や姉、近所の年上からこっそりと教えてもらったり、見よう見まねで学び使ってきた魔法をしっかりと学校で教えてもらい、また大手を振って使うことができるようになる節目の大切な日でもあったのだ。

 その大切な日に、レニアは近所の子供たちと共に街の集会所で魔力試験を受けたところ、魔力値は高くなかったはずなのだが、魔力を通すと無地の試験紙が赤、青、黄のどれかになるはずが緑色に変わったことで、珍しい形で魔力を使用することができると判明してしまった。

 その翌日、魔導学校の教師と名乗る大人達が家に押しかけてきたのだった。


「娘さんは通常の形で魔法を使うことができません。このまま使い方を学ばずにいてどこかで魔力暴走事故を起こした場合、大きな事故につながる恐れがあります。我らの学園にて魔力制御についてだけでも学んでいただきたいと思います。」


 両親は告げられた言葉に半信半疑で初めは渋ったものの、無料で高等教育が受けられることや上流階級と知り合う機会が得られるという言葉に結局首を縦に振ることになるのだった。その後はあれよあれよとしている内に一週間と経たずにこの学園に連れてこられたのである。


―――以上だ。諸君のこれから3年間の成長に期待するとともに幸運を祈る。」

「礼っ!・・・各自はそれぞれ事前の案内通りの場所に向かい、説明を受けるように!」


 教頭の訓示が終わると、皆、めいめいに話をしながら移動を始めた。

 確か今話していた教頭の名前はベルセリオスという名前だったろうか、その眉間に刻まれたしわがなんとも厳しそうな印象を与えている。そんなベルセリオス教頭がじっと自分を見ているような気がしてならなかった。


「いやぁ、ベルセリオス教頭は歴代の騎士学校の教頭の中でダントツで実績のある教師なだけあって、ものすごい威厳だったよな!」

「そうね。叙位6等や青月褒賞をもらった騎士ってベルセリオス教頭だけだものね。」

「俺だって負けられないな、いつかあの場所に立てるよう頑張ってみせるさ。」

「魔法騎士は性別関係ないからあんたは1番になれないよ。」

「今はそうかもしれないけど見てろよ。吠え面かかせてやる。」

「吠えるのが犬なら、負け犬のあなたじゃない?」

「言ったな、絶対負けねぇからな。」


 移動中に聞こえる会話に耳を傾けるとその眩しさにやっぱり場違いだという感情が胸をよぎる。


…眩しすぎるっ!


 目的意識があって、厳しい試験を受かった彼らの会話を聞いてレニアは自分の居場所が無い事を再確認したのだった。

 帰りたい、今まで退屈すぎてどこか別の場所に行きたいと思ったことはあったけど、ここまでは望んでいない。帰りたい。

と、堂々巡りの思考からレニアは未だ逃れることはできなかった。



 演説後、レニアは事前に来るようにと指定されていた近くの管理棟の面談室に案内されると、一人の教官執務服を着ている黒色の短く刈りそろえた髪をした男性が椅子に座らずに部屋の端で佇んでいた。周りを見回すと他に生徒の姿は見えないところから、この場所に呼ばれたのが自分だけなのだと思う。


「お前がテヘタのレニアか?」


 教官執務服の男性に近づくと低い声で問いかけられた。顔を見ると整った顔立ちをしているが、どこか近寄りがたい印象を感じたがよくよく見るとどこかまだ若いということがなんとなくわかる。


―・・・かなり教官にしては若い?方なのかしら?


「はい、そうです。レニアです。よろしくお願いします。」


 名乗ると、男性はふむと頷きレニアに近づき、向かい合うように立った。近くで向き合われるように立つと思ったより男性の身長が高いことに驚く。


「そうか、俺の名はクリストフ。お前が所属する教室の教官だ。一応、確認をするがお前は魔法の経験はあるか?」

「いえ・・・。あるとしても、近所のお兄さんたちに少し教えてもらった程度です。」


 いきなり15歳前に魔法を使ったことがあるかと聞かれてまたもや驚いた。一応、子供が魔法を使っている姿を官憲に見つかってしまえば親は罰金を支払うことになってしまうのでそんなことは聞かれることは無いのだが、一応正直に答えてみた。


「ちっ。」


―・・・舌打ち!?


 いきなり舌打ちしたクリストフ教官の顔を見ると明らかに不愉快そうな顔をしていた。正直に答えたのにこの仕打ちは納得がいかないが、とりあえず黙っておく。


「そうだな、お前は三体系の魔法の適正はわかるのか?」


 不愉快な顔をとりあえず引っ込めて更に質問というか、詰問みたいになっているが問いかけられた。


「それが、魔力試験で適正見るための紙や液体が黄色に変わってしまって分からないんです・・・。」


 とりあえず、もう一度正直に答える。噂によると変わる色によって干渉しやすい物が変わるらしいのだが、自分はそもそも色が普通ではなかったのでわからなかったのだ。


「ちっ!」


―さっきより大きい!?


 本当に不愉快な空気を隠すことをやめたクリストフ教官に驚くと、頭を抱えてよそを向きつつ、なにやらぶつぶつ言っていた。


「あのじじぃ・・・。なんでも俺に押し付ければいいと思ってんじゃねぇだろうな・・・!」


 何とも言えずに手持無沙汰の上、何とも理不尽な仕打ちにどうしてくれようかと悩んでいたが、クリストフ教官は何とか不愉快の気を払って声をかけてきた。


「すまなかった、一応確認させてもらったんだ。色々とあるだろうが、基本的に最初の1月はお前に合わせたカリキュラムで行く。その後は個別指導という形で対応させてもらう。苦労をかけるだろうが何とか食らいつけ。」


 なんかいきなり頭を下げられて呆気にとられているとさらに言葉を続ける。


「ここは本来かなりのエリートたちの集まりだ。ついて行くだけでもかなり苦労がともなうはずだ、だが、俺もできるだけフォローする。なんとか乗り切ってくれ。それでは教室棟に向かってくれ、お前の同級生たちが待っているはずだ。俺も向かう。そこに教科書一式がある。後で取りに来い。では、また後で会おう。」


 と、言いたいことだけ言ってするりとわきを抜けて扉を開けて風のように去って行った。扉がぴしゃっと閉じられた後、あっけにとられていたレニアだったのだが、とりあえず色々と思うことがあるものの一言叫んでおくのであった。


「・・・せめて名前で呼びなさいよ!!」


 これから長く師事することになる教官と初めての出会いはレニアにとっての印象は最悪からの始まりだった。


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