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リアム物語 天使と悪魔の天秤  作者: しおじろう
3/29

旅立ち

 





  衛兵に追われるリアムは数カ所に傷を負い、火事の時に切った

 手首の出血も止まらず意識は朦朧としていた。

 

  疾走する彼の姿を見た町人達はその姿を見て化け物と叫んだ

 彼の顔の半分は白い仮面の様相で片手には斧を持ち

 血だらけで走るその姿は悪鬼にしか見えなかった。

 

  人の印象は見た目で決まるものなのであろう。


  衛兵以外捕まえようとする者は居なかったが、時折投げられる

 投石が体に付く傷より彼の心を深く確実に傷付けて行く……


  自分を見て怯える人々、罵倒を浴びせる者、石を投げる者

 私の受けた拷問や境遇を知る者は確かに居ない。


  しかし私はお前たち町民の娘の命を救ったのに…


  私はお前達に何かしたのか、天に唾を吐く様な事をしたのか

 その怯える目の奥には軽蔑や悪寒、憎悪を感じる。


  リアムは泣いた


  泣きながら思った。


  鏡こそ無いが自分はもう人の仲間では無いのかも知れぬ

 見た目もそうだろう

 しかし心の奥の憎悪は人のそれでは無いのかも知れぬと

 湧き上がる周囲への殺意を解放し異質なオーラを纏い始める。


  やがて先回りされた衛兵に道を塞がれる

 衛兵の数は十人


  衛兵「この奴隷野郎っ!」

 

  リアム「俺……は何もしてない、ただ少女を助けただけだ」


  衛兵 「お前が夫婦の母屋に火を付け少女を殺そうとした事は

 聞いている、 大人しく、その斧から手を離せ」


  リアムは素直に斧を手放した。


  リアム 「俺……本当に何もしてない……信じて……」


  数人に取り押さえられるもリアムは抵抗はしなかった


  衛兵はリアムの顔を足で踏みつけながら唾を吐きかける


  衛兵の1人がリアムの耳元で囁く……


  衛兵 「お前がやってない証拠はあるのか?あろうがなかろうが

 お前の様な奴隷の者の言葉を信じる者も居なければ、証言者の

 夫婦はドレン卿の配下、何が正しいかでは無いのだよ」


  「仮にお前がやってないとしても、このままでは収まりが

 付かないであろう?化け物が悪行を働く

 どうだ民は納得するであろう?」


  「どう収めるか、なのだよ、それに何故お前の様な下劣な者の為に

 我々が汗水流して捜査せねばならぬのだ?」


  「お前が私達に賄賂を渡せると言うなら話は変わってくるかも

 知れぬぞ?労働には対価というものが必要なのだよ」


  周りの衛兵が高笑いをあげる


  リアム「衛兵は町や人を守るのが仕事では無いのか!」

「お前達……貴族や町人の正義……は何なんだ」


  衛兵「あん?奴隷は人ではないだろう、人間様に

 何説教垂れてんだ」


  衛兵「皆さん、ごらんの通り罪人家畜は衛兵が捕らえた

 薄汚い仮面を剥いだ顔をしっかり目に焼き付け各々の

 奴隷の躾をしっかり監視するがよい」


  そう言うと衛兵はリアムの顔の半分を占める白く硬質化した

 仮面の様な顔に手をかけ、剥がそうとした


  衛兵……


  衛兵「ん?」

  「取れないぞ?……」


  複数が仮面に手をかけ無理矢理剥がそうとする

 無論仮面では無い硬質化した縁の皮膚から血が出始める


  衛兵「こ……いつ、もしかして……」

「本物の化け物だっ!」


  叫ぶや否や衛兵達や周りを取り囲む町人の顔がみるみる青ざめる


  リアムは自分が化け物と見えている現実を知った。


  無論彼は人間である、それも元王に仕える衛兵隊長の息子である


  しかし彼にとって思考している暇はなかった。

 衛兵は槍を構えすぐ様、彼の頭目掛け槍を突く、彼の硬質化した

 頰に槍は弾かれ更に衛兵や町人の恐怖を煽った。


  町人「ひぃぃ槍も通さない悪魔だっ殺せっ!」


  衛兵達の槍を辛ろうじて避けるも少しづつリアムの身体に傷は

 増えてゆく


  リアム「待って……俺は人だ……お前達を

 傷つけるつもりはな……い」

  そう言う彼の言葉に耳を傾けてくれる者は只一人もいない

 彼の腕に槍が刺さる苦痛からリアムは刺した槍を持った衛兵

 を突き飛ばす


  数人の衛兵がさらにリアムを追い詰める

 その目は朱色に染まり恐怖に歪んだ顔に見えた

 槍は長く鋭いその穂先を容赦無くリアム以外の周りをも

 傷付けながらリアムを追い込む、その穂先には先程まで

 取り囲む様に観覧していた町人達の血でも染まっていた。


  逃げ惑う町人達から衛兵を遠避ける様に刺されながらも

 リアムは必死に10本の槍の鋭い突きを辛うじて避ける


  振り回す衛兵にはもはや町人の姿は写っては居なかった

 衛兵の一人が倒れている少年の身体に躓く


  衛兵「邪魔だっ!ガキっ!」

 衛兵は少年に向かいその矛先を彼に突き立てようとした瞬間

 リアムは彼を抱いてその矛先から少年を庇った


 グサっ


  苦痛に歪むリアムの顔に守られた少年は持っていたナイフで

 リアムの首を刺した、辛うじてそれを手で受け頸動脈から守った


  少年「この化け物め僕から離れろ!僕は悪には屈しないぞっ!」

 衛兵は少年を庇ったリアムの行動に勝機を感じた


  彼等は仕留められないリアムの代わりに少年を狙い始めた

 その矛先に向けられた凶器の先をリアムは全て己の身で受ける


  えぐられた身は塊となって飛び散る

 

  少年はリアムに石を投げ、衛兵は少年を狙う矛先がリアム自ら

 刺されに来る状況を利用した


  それでもリアムは槍の勢いが少年を仕留めるに充分な

 力が込められている状況に刺される他はなかった


  やがてリアムは大量出血で意識が朦朧とし始め彼を庇いながら

 避ける事が難しくなり、やがて少年の前で仁王立ちとなった


  容赦無く刺さる槍はもはや獲物を弄ぶ凶器となり

 仕留められる内臓を狙わず彼の腕や足に向けられた。


  そして仁王立ちとなる彼の背中に激痛が襲う

「ぐぉぉぉぉ」


  少年は持っていたナイフでリアムを背後から刺したのだ

 リアム「何故?……」


  化け物と罵る少年の姿はもはや衛兵と変わらぬ目をしていた

 人は先入観と、人に見えないリアムを悪と判断し、リアムの

 少年を守る行動は視界には入っても脳がそれを

 悪を倒す好機と見なしたのか


  最早、何が正義で何が悪か……何が守るもので何が敵なのか

 守るものも彼を容赦無く切りつける


  そう身体も心も容赦無く……


  リアムは叫んだ

 内臓から振り絞る様に感情が入り乱れる


  しかしリアムは背後にいる少年を傷つける事は出来なかった

 

  リアムは少年から離れる事により、利用しようとする衛兵から

 少年と自分を守る手段を取る他無かった。


  逃げ惑う中リアムの攻撃は衛兵を一人、一人なぎ倒して行った

 正義は最早此処には存在しない


  大怪我を追いながらも城門から逃れたリアムは息絶え絶えに

 なりながら身を隠す為に山へ逃げ込んだ


  そして彼は意識を失った……


  チュンチュン……


  リアムは久し振りに幸せな幼少期のような、眩しい陽射しの中

 目を覚ます……


  その温かい日差しは彼に先程までの地獄の記憶を忘れさせる


  リアムは幼き日の夢を見ていた。心の何処かでそれはもう

 遠い記憶の中の事と認識しているのだろう。

 彼は涙を流しながら微笑む様に目を覚ます

 

  意識が混濁し思わず涙で歪んだ人の姿に


  リアム「パパ……?ママ?……」


  そっとリアムの大きい身体を包む暖かい体温にリアムは

 溢れる涙を抑える事が出来なかった


  「ママ、とても怖い夢を見たの、人がその姿のまま化け物となって

 僕を虐めるの、パパもママも側に居なくて僕はとても寂しかったんだ

 あぁ夢なのに何て残酷な夢だったんだろう……」


  「僕は尊敬するパパの言い付けを守ったよ、貴族として、

 パパの子供として、人として、正しいと思った事をやったよ」


  彼のその言葉を聞いた、その暖かい、ぬくもりは

 彼を一層強く抱きしめた


  「そうかい、そうかい、偉いねぇ……」

 その発する声に甘えつつも、毎日聞いた、あの母の声と

 違う事に気付いた彼は、その目を見開きその人物を見た


  其処には見知らぬ老婆が彼を抱きしめて居た。

 彼は驚いたが、その温もりに暖かさと愛情を感じた彼は

 その温もりから離れられずに居た。


  コトン……


  リアムの寝ているベッドに暖かいスープが置かれた

  「ほれ、起きたのなら、このスープでも飲むがええ

 お前さん一週間も寝っぱなしだったぞ

 血だらけで見つけた時はびっくりしたぞ……


  その声の主もとても心地良い暖かな声であった。

「うちのばぁさんが山の麓でお前さんを見つけてな

 儂がお前さんを運んで寝かせたのじゃ、高熱と出血で今にも

 お前さんの心臓は鼓動を止めるかの様じゃったで……」


  「毎晩お前さんの口に温かいスープを流し込んでおった

 バァさんに嫌でなければお礼の一つでも言ってやっておくれ」


  意識が鮮明になりリアムは自分を助けてくれた老夫婦に

 感謝した。その夫婦の包む空気はとても暖かく柔らかい

 実に心地良い空間であった


  お爺さんの名はムウ、お婆さんはレイラと言った。


  ムウは山の中で暮らす代々森と共に生きる木こりの

 生活をしていた。森の木を伐採し取った数だけ新たな木を植える

 常に森と共に生き感謝の念を忘れぬ生粋の木こりであった。


  リアム「お爺さん何故見ず知らずの、俺……にこんなに

 親切にしてくれる……」それに、俺が怖くは無いのか?」


  お爺さん「ふぁははっ長年付き添ったバァさんが

 お前を助けたいと言った、それだけで儂はお前さんを

 助ける理由には充分、事足りるわい」


  「それに顔は人の良し悪しを図る尺度にはならん

 お前さん血も赤かったではないか、何があったか知らないが

 お前さんからは気品が感じられる。


 この世は今は混沌としておる。悪徳貴族の醜悪な顔の方が

 余程怖いわい」


  高々と笑うムウの姿にリアムは父の姿を重ねた…


  ムウ爺さんは長年監禁されて居たリアムにこの世界の

 現実を教えてくれた


  貴族の子供であったリアムは広い世界の現実を知る事となる。

 

  奴隷の事は父から多少聞かされては居たものの、その現場は

 リアムが自分の体で知る事となったが、それ以外も国中の

 至る所での内乱が起こっている現実


  そして世界には町での逃走時リアムが恐れられた怪物という

 生命体が実際に少数ではあるが存在している事


  その多くは戦争や内乱時において無頼なる力を使い

 傭兵として力を発揮する者をはじめ、この世界の傍観者として

 存在する者もいる。


  ここ2年前から、毎年紅い月が夜を照らす時、

 足元の暗闇が濃くなり紅い光を吸収する。

 その暗き闇から呻き声と共に化け物は現れる。


  そして噂ではあるが町から近いこの山にも城の噂は届き

 リアムの父オスカーが何者かにさらわれた夜から

 その現象は起き始めたという。


  しかし現実に、その化け物と言われる生命体はその夜を境に

 数を飛躍的に伸ばし始めているという……


  しかし悲しい現実から化け物と呼ばれる者も少なくない

 多くは人でありながら奴隷とされ、忌み嫌われ虐待や

 逃亡生活においてその身を守るべく力を付けていき化け物と

 同様の戦う力を身につけた者も多い。


  やがて、その心は人を恨む様になり心までが化け物となる。

 それは人間が持ち合せる本性なのかも知れない

 

  化け物は人が作るものでもあるとムウは語るのであった……












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