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リアム物語 天使と悪魔の天秤  作者: しおじろう
2/29

幽閉の中

 



 ーーリアム16才の夏ーー


  幽閉から5年経った頃リアムに少しずつ変化が訪れた

 リアムの身体は虐待に耐え、常人なら息絶えるか

 自我が崩壊する拷問に耐える身体になりつつあった。


  精神は闇に取り込まれ、憎悪の炎は人の存在自体に

 向けられていたが辛うじて、人としての意識を失わずにいた。

 そう心の奥のずっと奥に……


  その小さな灯火は幼い頃の家族の思い出と、無事を信じる

 彼自身の振り絞るような願いでもあったが

 同時に彼が生きる糧となっていた。


  もう一度取り戻すために……


  彼は心の奥の憎悪の炎の中、焼き尽くせない家族への愛に

 感謝とそれを壊した者たちへの復讐心しかなかった。


  彼は呟いた


「お……れは生きる、もう一度取り返す……」


  彼の唇はすでに上手く動かす事は出来ずにいたが

 その言葉には、何事にも屈しない強靭な意思が

 込められた言葉だった。


  彼は決意したその日から飢える中、時折部屋を走る鼠を取り

 土を漁り、ミミズ等のタンパク源を積極的にとり始める。


  最初の頃は嘔吐を繰り返し、体力を逆に減らしていたものの

 摂取を少しずつ取り身体を慣れさせていった。


  深夜、誰もが寝静まった頃、木を擦り合わせ、時折

 落ちてくる家畜の糞を密かに乾燥させ、それを燃料がわりに

 少しの火を灯すその小さな灯火を使い肉を焼き

 またその焼いた肉を餌にして、それを狙う虫や動物

 何でも食らった。


  その小さな灯火は寒さを凌ぐ程に大きくは出来ない

 見つからないように消化を助けるべく胃を温める。

 そしてまた喰らう。


  そして筋力を鍛える毎日が続く。


  彼には時間はあった、彼はしたたかに虐待をも利用し始めた。


  毎日の暴力をも、のたうち回るフリをし、当たる場所を変え

 急所を避けながらのやられ方すらも反射神経を鍛える訓練とした。


  時には殴打をも、ボクサーが腹部に重いボールを落とし、

 鍛える様に意識し身体を鍛え、その狂気の暴力に自我を失わぬ様

 自らも静かに心の奥で狂気による狂気での相殺する術を覚えた

 恐怖や不安、その全てを心の奥の憎悪や狂気で燃やしてゆく


  彼の顔はヤスリによる研磨と納屋に置かれた石灰のせいか

 顔半分はもはや白い仮面の様であった。


  果たしてそれは石灰化上皮腫によるものかはわからないが

 それをも硬質化させる様、彼は自らそれを更に硬くなる様に

 削っていった、手の豆が使う程硬くなる様に


  毎日の地獄の様な日々に身体が適応し始め

 彼の体の治癒能力は飛躍的に上り、大抵の傷や腫れは

 1日立たず治る様になっていった。


  日に日に痩せてゆく筈のリアムの身体の変化に夫婦は気付き

 始めた。最初は鎖に繋がれ運動不足の上に食事すら

 まともに与えていない事からのクワシオルコルの様な物だと

 思ってはいたが、リアムの身体は細身で有りながら中肉中背の

 もはや戦士の身体となっていたからだ。


 ※ クワシオルコル 発展途上国の子供によく見られる症状の一つ


  その事をドレン卿に報告するものの、その存在すら忘れていた

 ドレン卿にとっては、どうでも良い事でありリアムの存在は

 虫の様な物である。


  面倒なら焼き払え、との指示に夫婦はリアムを殺害しようと

 納屋ごと火を放ったのである。


  リアムはこれを予想していた、来たるべく日が来たのだと。

 リアムには夫婦を殺害出来る自信があったが

 それを行わなかったのは、足に繋がれた鉄の鎖があったからに

 他ならない。


  一人を殺めても繋がれたこの状態では衛兵を呼ばれ

 殺されるのは明白であったからだ


  足枷の付け根にある鉄杭をなんとかせねば

 ならなかったからだ。


  火事になれば、その硬い鉄の杭を支える手の届かなかった

 木で出来た柱が燃えるその機会を伺っていたのである。


  しかし、これはリアムにとっても賭けであった。

 燃え盛る納屋の天井を姿勢を低い体勢で全神経を

 落ちてくる残骸を鍛えた反射神経と筋肉で振り払う

 一度のミスですべてが終わる。


  彼の肉体自体は最早、皮膚の硬質化で

 燃えにくくはなっていたが、煙による咳き込みを防ぐため

 姿勢を低く、出来るだけ呼吸数を減らす。


  したたかに強くしなやかに、目は炎の中冷ややかに

 同時に生きる渇望への熱い目であった。


  バキバキ、ドゴォォォォ……ン


  そんな中、久しく見える燃え盛る炎の天井から見える青空に

 リアムの心は踊った。

 これを乗り越えれば……


  私は目的を果たせる翼を手に入れることができる。

 愛する家族の灯火を再び手に入れるために……


  やがてその時は来た、炎は天井の一部を燃えつかせ、

 リアムを縛り付けた鉄杭が音を立てて倒れこむ、

 倒れると同時にリアムは足枷の輪っかを抜き全身に込めた

 五年の想いを爆発させるかの様に呼吸を止め、

 炎と残骸を力で捻り伏せるかの様に弾き飛ばした。

 

 それは爆発する爆弾の様に激しく、納屋を吹き飛ばした。


  そして飛び出るその姿は彼の容姿とは裏腹に

 飛び散る火の粉は彼を美しく輝かせ、生きる未来の希望を全身に

 纏った彼の姿はこの世のものとは思えない

 まるで天使が天に帰るかの様な、美しい姿だったと言う……


 ーー


  リアムはすぐ様、その場から離れようとした。

 しかしすぐに夫婦の断末魔の様な叫び声が聞こえた。


「キャァァ!どうか誰か我が愛する娘を助けておくれ!」


 その声の主はリアム5年の恨みを持つ夫婦である。


  夫婦には10歳になる娘がいた。納屋からも時折聞こえていた、

 団欒の声はリアムのかつての平和な家族の姿を思い出させていた


  リアムは夫婦をみた瞬間、逃走本能から憎悪への感情に

 押し流され夫婦へと疾走した、毎日受ける暴力に醜悪な

 反吐がでる行為に復讐心が彼の行動を駆り立てる。


  火事の周りには数人居たが、彼はそのすべての人間を抹殺

 出来る自信があった。


 その異様な殺気に気付いた夫が彼に駆け寄る


  主人「頼む、わしらはどうなっても構わん

 あの子はお前の存在すら知らない子なのだ、どうか、どうか

 娘を助けてくれないかっ」


 その姿は涙で溢れ鼻水を垂らし必死に懇願する親の姿だった……


  リアムは父オスカーを思い出した。我が父ならどうするか。

 彼は近くにある斧を持ち母屋に飛び込んだ。


 炎は激しく、屋根が今にも落ちそうであった。

 熱風が激しく彼を覆い尽くそうと、メラメラと忍びよる……


 

 業火に焼かれる母屋にリアムは叫んだ


「おれの名はリ……アム、何処だ何処にいるっ、助けに来た!」


 女の子「ここよ、お願い助けて!熱いの、とても熱いのっ」


  声の少女は2階の部屋の奥にいる様だ。

 すでに火は階段をも燃やしていた、裸足のリアムの足はその熱で

 足裏は焼けただれ、歩くたびに激痛が襲う。


  皮膚はすでに剥がれ、肉が露呈している上に木片の棘が

 容赦なくリアムの足に突き刺さる。


「パパお……れに力を……貸してく……れ!」


  全身に力を込め、リアムは焼け落ちそうな階段を尋常ではない

 スピードで駆け上がった。


 走る足場が砕け散り、床の落ちるスピードよりも早く。


  見つけるやいなや、少女を抱きかかえた瞬間、屋根を支える

 柱の一本が無残にも2人の頭上に落ちる。


「ズドドド……ン……」


 地響きが辺りに、こだまする。


  咄嗟に少女を包み守るリアムの背中に柱がズシリと、

 のし掛かる。


 その柱の炎は少女の着ていた服の袖に燃え移った。


  半狂乱の少女にリアムは優しく囁く……


「だ……大丈……夫」


  不器用な唇から発する言葉には、彼の優しさが込められ

 少女は不思議な安心感に包まれた。


  リアムは持っていた斧で手首を切り裂き、噴き出る血で

 少女の火を消した。

 炎で赤く染まる風景に、彼の血は少女に恐怖を与えなかった。


 リアム「しっかり……掴まれ……」


 少女は頷く


 そして窓から少女を抱き飛び出すリアム



  しかし駆け寄る夫婦に少女を渡すリアムの目に映ったのは

 衛兵達の姿だった……

 夫婦は火を付けたのはリアムだと叫び

 娘を人質に取った凶悪犯とされた。


  ドレン卿への体裁や取り逃がす事は夫婦にとっては

 都合が悪いからだった。


  リアムは逃げるしかなかった……

 助けた事が自分の身を危険にさらした……

 ここで捕まるわけにはいかぬ、家族のためにも……



 しかし理不尽に追われるリアムの心は凍える様な寒さだった。

 あんなに子供の為に懇願した親は、自分の希望が叶えば、こうも

 変わる者なのか……


  あれが嘘なのか、本心なのか……それはわからない

 それは彼自身の中の気持ちも同じだった。


  助けることが良かったのか、彼等のように自分の事だけ考えた

 方が生き方として得なのではなかろうか……


 何故、僕はこんなに痛い思いをしてまで自分にとって損を

 する行為をしたのか、しかも命をも狙われ、あの虐待をした

 夫婦に対して……


 葛藤に涙が交わる。


 涙が怒りに変わる。


 泣きながら、叫びながら、それでも少女を救えた事に

 後悔はないリアムであった。



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