最終決戦
2日目ーー夜ーー
リアムの意識が戻り、全身の痛みが彼を襲う。
リアムは痛みに顔に手を当てると真新しい痛みと共に腕から
血が流れた。
ふと背後に気配を感じるリアムが振り返ると、其処にはデッカが
腕を組み立っていた。
デッカ「どうだ、痛みは、痛かろうが体が動かなかろうが、
俺達に休息は無い。任務が終わるまではお前は常に戦場に
立たねばならない、出来なければお前には、
この俺自ら、骸にしてやるがな」
リアム「あぁ……解っている……」
デッカの冷たい視線が戦場での厳しさを物語る。
デッカ「支度しろ……」
冷たい視線を浴びせ、その場を立ち去るデッカ
ベッドから起き上がる彼の足元に1人の男が骸となり
横たわっていた。
リアム「……」
その骸の手には大型のナイフが握られリアムの血痕が付いていた
そして、その心臓は胸から凍らされた姿だった。
リアムの昏睡状態を狙った腕輪強盗だった。
リアム「彼奴……」
?「そうだよ、デッカさんがお兄さんの昏睡してる間に
忍び混んだ賊をやっつけてくれたんだよ」
リアム「!」
暗殺術に長けたリアムが気付かない背後に懐かしい声が
聞こえる。
それは幻影の中であった彼、そうまさしくネロの声であった。
振り向くと、もう二度と会えないと思っていたネロの姿に
しばし呆然とするも目から涙が溢れるリアム
ネロ「相変わらず泣き虫だなぁお兄さんは」(笑)
リアム「どう……して……?」
ネロ「僕は側にいたよ、ずっと、お兄さんが僕を見ようと
しなかっただけ、大事な時にお兄さんは心の中で僕を必要と
してくれ、見ようとしてくれたから夢に出れたんだ」
「あの日、僕は眼が覚めると天国だと思ったらお兄さんの
側にいたんだ、お兄さん僕が側にいるの気付かないんだもん
酷いよ……」
「あれからずっと一緒だったんだよ。お兄さんが苦しんでる姿も
ずっと見てきた。僕も悩むお兄さんの姿が凄く凄く辛かった。
お兄さんは僕を見ずに自分が作り出した後悔の念に僕の幻影を
自分で作り出したんだよ。酷いよ、僕あんな事、思わないの
お兄さん知ってるでしょ」
クスクス笑うネロにリアムは久し振りの満天の笑顔で笑った。
逝けない彼の原因は自分にあると解るも、今はただ純粋にネロに
会えた事を神に感謝するリアムであった。
「僕、どうもお兄さんの生体エネルギー貰って存在してる
みたいだから、御免なさい……でも逝き方が解らないんだ……」
リアム「そんな事はないさ、俺はお前が側にいる事がこんなにも
嬉しい……この魂全てお前に捧げてもいい、だから言うな」
ネロ「う……ん……」
困った顔をするネロに優しい顔で答えるリアムは
また何か1つ、己の呪縛から解き放たれたのであった。
ネロ「あ……消える……お兄さん僕、自分で現れる事ができる時と
出来ない時があるんだ……僕はいつもお兄さんの側にいる……
忘れ……な……いで……」
他に何か言いたげなネロだったが、ネロの姿はリアムの前から
消えたのであった。
全身の苦痛ながらリアムの白い仮面のような顔が優しく見える。
集合場所に集まるリアムにデッカが近寄る
デッカ「今日は俺が先陣を切る、リアム、お前は俺の後方支援
に当たれ、今日からマシュー、ドルフレアがいるマーブル隊も
参加する、後は一気に川前の敵の拠点、ルンガ砦まで押し切る。
既に他は制圧した、横から来る敵も居ない。
あとは正面突破だ」
(この作戦に味方兵士の半分以上が参加する事となる。
既に周りは制圧しており、サイドからの奇襲も不可能となった
今、敵兵は総動員しての配備となる。
オルデラン城側、その数およそ2000に達するも
砦の待機兵を視野に入れると実質多くても1500人と思われた。
対する味方デルト城軍はユニオン隊、マーブル隊も含め
総勢1200人での戦闘となる。
砦を拠点とするも、敵も陣を砦前につかれる事は敗北を意味する
事は承知であり事実上ここが最終決戦ラインとなる。)
デッカ「後数分でマシュー、ドルフレアもこちらに来る。
その前にお前には話ておこう。
アルからの連絡が途絶えた。奴の事だから無事だとは思うが、
緊迫した局面に魔物が現れる可能性も否定出来なくなった。
心してかかれ」
「それと、あの霊体、昨日の夜、俺の寝床に現れやがって、枕元
でギャーギャー騒ぎやがった。お前が危ないから助けろってな」
「仕事柄霊体はよく見るが、あんな言葉達者な霊体
俺も初めてだったが、霊体と仲良いてのは、お前らしいな」
リアム「ふっ……アンタもこの戦いの前と今じゃ大分、顔が穏やか
になったがな」
皮肉を込めた言葉にデッカも笑う
「そうだな、前に言った通り、俺は弱い奴は嫌いだ。
少数より多数を助ける為には犠牲が必要だと、今も思っている。
しかしお前は強い、まぁいくら疲弊したとはいえ
寝込み襲われるんざ、俺から言えば、まだまだヒヨッコだけどな」
リアム「例を言う……世話になった、昨日も含め色々と……」
デッカ「おうおう口も達者になったな、顔も暗殺者らしくないぜ
その甘さ嫌いじゃないが、それでも度を超すと、今でもお前を
背後から刺すぜ俺は……しかし……俺はお前を認めた」
「俺もまだ甘い所があると、天国の嫁と子供に叱られんなぁ」
リアム「そうか……お前家族がいたんだな……」
デッカ「おっと口が滑っちまった、他には言うなよ、スゲー
怖い嫁だったがな、本当は誰よりも優しく気高い女だった。
顔はちとアレだったがな」
リアム「……愛していたんだな……」
デッカ「あぁ……とびっきりな……」
豪快に笑うデッカ
マッシュ「あれ珍しい初めて見たな、お前が笑う所」
ドルフレア「ほんと何も起こらなきゃ良いんですが」
赤い顔をしたデッカが照れ臭そうに頭を掻く。
デッカ「では集まった所で作戦会議を始めよう。
リアムは俺の後方支援に回る。お前らの武器を見せろ」
その武器は既に、かなり刃こぼれや金属疲労で使い物に
ならなくなっていた。
今回の戦闘の激しさが物語るようにーー
予備の防具と武器を持つA班はどうした?
ドルフレア「来たには来たんですが、2日目の朝、届いたのは
これだけで……」
デッカ(全体を統括するアルからの連絡が途絶えた事が
関係あるのか……)
ドルフレア「A班の連絡によると、物資を届ける際、
敵の襲撃にあったそうです。
A班は50名程で構成はされ万全の体制だったのですが」
「それとアルから連絡があったそうです。
魔物と交戦に入り、見事これを撃破したそうです」
デッカ「そうか、流石だな」
ドルフレア「……しかし、魔物は一体ではなく3体、その内
一体は魔人との事です……」
デッカ「な……何だとっ!」
「一体の低級魔物でも鬼が最低2体は相手しないと
きついと言うのに……この状況では戦況をひっくり
返されかねない……」
「更にA級50名を倒した存在も気になる……
補給には味方兵士300は投入済みと聞いていたが……」
「部隊での殲滅ならわかるが奴等を殲滅するには最低でも
兵600は必要だった筈……」
(敵の情報の戦力より多い……)
「となると……」
「伝令の者はどうした、詳しい話が聞きたい」
ドルフレア「到着まもなく……詳しい話は私も聞けず……」
デッカ「そうか……」
マッシュ「俺も魔人は見た事が無いが、そんなに強いのか」
デッカ「強い何てモノじゃない……あれは人がどうこう出来る代物
ではない……我等、鬼ですら複数人で対処してもどうなるか……」
「魔物の野性の力を持ち、知恵を持つ魔人の多くは魔法を使う
と言う、我等この世界では魔石を使うだろう、あれはその
魔力の一部を閉じ込めたに過ぎない」
「中にはその魔人を閉じ込めたものがもあるが、
それはどうやって出来たか誰にも解らん、しかしそれ以上の
存在が、封じた物だろう。
俺達はその力の一部を使わせもらっていると言うわけだ」
マッシュ「まさか石の力の源と戦うのか……
そして魔法なんて夢のような力があるのか……武器や防具に
宿す、力の主なんかに勝てるのか?人が……いや鬼が……」
リアム「石はその力を封じ込めている。即ち、それ以上の力は
存在する。そして、その石を持つ我等にも必ず勝機はある……」
リアムの強い眼差しと、退かぬ強い意志に皆、僅かな希望を
感じたのであった。
デッカ「そうだな……今はするしかない事をするだけだ。
やらなければ前は無い。そして俺達に後退も無い」
デッカ「お前、昨日から雰囲気が変わったな……アレが関係
してるのか……いや詮索は我等には御法度だったな……」
「よし、装備を分けるぞ、俺は防具、武器共に無事だ、しかし
魔力の残量は支給品の石を足したとして……
残り30%がいい所だな……」
「マッシュ、ドルフレアは遠距離武器をあるだけ持って行け、
近接は悪いがこちらに全て貰う。
出来るだけ離れて俺達をサポートしてくれ」
彼等は防具はもう使い物にはならなかった、怪物との戦闘で破壊
されたのであった。
デッカ「そしてリアム、お前の防具も使い物にならないな……
しかし防具の支給は無い。魔犬の宿るのは籠手は何とか無事か」
俺の後方で逃した敵を中心に殲滅を目指せ
そして念の為この剣2本を持て、光魔剣だ。
コレは光の魔力が宿る剣だ、長さは短いが2本ある」
「対人戦にはただの短剣にしか過ぎない。
対魔物、魔人戦に備えて渡しておく」
「残った防具の小手とは相性は最悪だ。
使う時は魔犬は出せないぞ、出しても魔犬は光の力により
消えゆくぞ」
「マッシュお前にコレを渡しておく。この石は使うべきでは
無いが、いざとなったら我が身をも犠牲にして
任務を遂行する為に、昔から持っていた物だ」
「使うかどうかの判断はお前らに託す。
俺達が倒れた時……使え……しかし一度使えば、恐らく
此処にいる者、敵、味方、全員、生きてはいまいが……」
マシュー「まさか……Sクラス3本柱しか持つ事が
許されないアレか」
デッカ「……そうだ」
デッカは袋に大事そうに入れた石ではなく宝石を取り出した。
その中に魔人が封じ込められた物だった。
ーー魔宝石ーー
中には上位魔人が封じ込められている宝石
魔石の中には、魔人が契約により封じ込められている物、
魔人が他者により封じ込めた物の2種類が存在する。
しかし、それは見た目には解らず、一度解放すると
石は砕け散る。
契約によるものならば、魔人自らが石に入り込む為、約定や
交換条件により制御可能。
封じ込められた魔人ならば、蓄積した悪意や憎悪の塊である事が
殆どで、制御する事は不可能に近い。
ーーーー
「俺達は任務を完遂する事が目的だ、味方を勝たす事ではない、
敵を殲滅し川まで追い込む事が我等の任務」
「解き放つ時は我等共々、敵味方共々、大将にも犠牲に
なってもらう。戦争を起こした罪はどちらにも、俺達にも
責任はある」
「オルデラン側の所業を放置すれば、必ず民は苦しむ事になる。
後は他のメンバーに任せ、デルト側が同じ所業を
行えば同じ報いを受けてもらう。
今はオルデランに勝たす訳には行かぬ」
「魔人が制御出来ないとなればデルト側も放置は出来まい。
総力を上げれば魔人とて討伐は可能だろう」
「今は此処に命を捧げ、我等、鬼になった所以の憎しみと、
それだけではなかった想いを胸に、鬼の宿命を果たそうぞ」
皆、自分がもう生きては帰れない事を理解していた。
ただ1人、リアムを除いて……
では出陣っ‼︎
一見デルト城側の圧倒的優位に見えた戦況は複雑に絡み合う。
魔物2体に魔人の存在、そして得体の知れぬ存在……
消息不明のアル。
物資が殆どなく激戦の最終決戦を前に誰もが逃げ出したい
恐怖と戦うも、後退も逃げることも殺されるしかない、
この現状に皆、心から戦闘に参加した事を後悔していた。
もう引き戻せない過去に、先の無い未来へ向かって
時は無情にも進む。
その中でリアムだけが何か違う感情に芽生えていた……