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プロローグ

 猩々院(しょうじょういん) 椿木(つばき)

 

 彼はノーマル教師。




 人として特別優れてるでもなく、また、劣っているでもない。

 ただ、彼には特別な過去がある。


 それは悪霊に憑かれたこと。

 

 高校生の時にちょっとした噂に惹かれ、立ち入り禁止の旧校舎に踏み入った。

 それだけで。

 彼は地獄を見ることになった。この世の住人ならぬ、向こうの住人を見ることになった。

 

 怪異を、見ることになった。

 

 そして死ぬ前に彼は運よく助かった。


 運よく救われた。

 

 一人の少女と、一人の怪物みたいな人間に。

 彼等と全く逢えなくなって。幽霊を全く視ることもなくなって、二十(・・)年が経とうとしていた。


 

 彼はとある町の小学校で生徒達に心砕く教師となった。

「……んじゃ、HRは終わりだ。気を付けて帰ってくれ。宿題もいいが、親の手伝いもしてくれよ」


「「はーい!!」」

 先生のさよならが終われば生徒達は各々、教室から去ったり、挨拶を交わしたり。

 そして。


「ねェねぇ、一人かくれんぼって知ってる?」

「ええ。ちょっと古くない?」

「本当に来るんだって」

 

 噂話を始めたり。



 何年、何十年経とうとも。暗い噂は、怪異の噂は人をこんなにも惹き付ける。


 噂は噂。

 誰かの付いた根も葉もない嘘だったり、でも、どれかは真実で時には生きてる人を向こうに連れて行ってしまう。


 二度と戻れない、 向こう(あの世)へ。


 ノーマル教師の椿木に出来ることは無い。

 噂を信じ、真偽を確かめようとのめり込む生徒を止めることくらいだ。


 二度と怪異と関わらないと思っていた。関わらなくてもいいと思っていた。


 


 そんな椿木を怪異に招く電話が来たのはちょうどその夜だった。


 帰宅した椿木を待っていたかのように電話が鳴る。


 おかしかった。

 その着信音が嫌に大きく、笑っているように聞こえたのだ。


「猩々院です」

「……先生」

 受話器の向こうからは子供の声。

 

 声の主には覚えがある。

 椿木は無意識に安心した。

 

「お前、みずき、か? 田中 みずきかァ!? 久しぶりだなー。元気だったか?」

 そう。相手は一ヶ月前まで椿木の生徒だった子供だ。

 

 彼は両親の都合のより、少し遠く離れた土地に転校して行った。

 椿木がちょっぴり感動していると、

 


「う、うう。僕、僕、裏野ハイツってところに引っ越したんだけど。ねェ、先生。

 ここは、怖いんだ。ダメなんだ。パパもママもおかしいんだよ。


 ここ、何かが()るんだよ!」



 助けてよ!!


 それは、みずきからのSOSだった。 


「……みず、き?」

 

 ――ぶつん!!


『おかけになった電話は現在通じておりません。おかけに な、な、なったで電話は現在、つつ、 じて、 つ、 て、……はは。


 

 あはははははははははははははははははは!!』


「……ひ!?」

 

 椿木の鼓膜をふるわせるのは知らない人間の笑い声。人間(・・)? 

 いや違う。これは、

 

「みずき!!」

 

 椿木は笑ったままの受話器を叩き付けると嫌な汗を握った。

 

 襲って来るのは久しぶりの感覚。

 それは、懐かしい二十年ぶりの恐怖。

 その後の椿木の人生を変えてしまうほどの怪異事件の始まりだった。


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