表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

第24話 食堂と琥珀

「…ん…?朝か…」


窓の方に目をやると、まだ暗さが残る空模様だった。

多分、明け方頃だろう。

二度寝しても良かったのだが、暫く動いてなかったせいか身体が疼いて、寝られそうも無い。

ランニングでもするか…

とりあえず、そう決め、ベッドから起き上がった。

流石にまだ早い。灯りは付けない方がいいだろう。

念の為、足音を消し、近くの箪笥に歩み寄った。

流石にこの服では…な。

普通の服が入っていますように!

そんな失礼なお願いをしながら、そっと開けた。


5段全ての引き出しを見た所、ジャージやスニーカーと言ったものは5段目の奥に、まるで隠すようにして入っていた。

その代わり、髪ゴムやリボン紐は取りやすい箪笥の3段目。小さな木箱に小分けされ入ってた。

ご丁寧にブラシや整髪料なんかも近くにあった。

この明らかな違い…よっぽど俺に着てほしく無いんだろうな。

容易に予想できる訳に苦笑いを浮かべた。


ジャージの中は適当に引っ張り出してきたTシャツを着込み、上下黒のジャージで着替えは完了した。

スニーカーは所謂ランニングシューズで、軽い割には走りやすいよう計算された構造やフォルムが、特徴的なスポーツ用の紐靴だ。ちなみにデザインはグレー主体で緑のラインが入った、かっこいいやつだ。

キュッと紐を結び、トントンと履き心地を確かめた後、静かに部屋を出た。


廊下の右側に手洗い場を見つけた。

洗面台近くにブラシや整髪料を置き、黒の髪ゴムを手首に付ける。

幸い洗顔料は備え付けがあったため、遠慮なく使う。

キュッと蛇口を捻り、泡を流す。

冷水が寝惚け顔をハッキリとさせていく。

積み重ねられた備え付けのタオルを手探りに取り、拭く。

さっぱりした所で、手首のゴムを咥え、ブラシで寝癖混じりの長い髪を何度も梳く。

その後、整髪料をかけ再度髪を梳かし、寝癖がなくなった髪を高い位置に纏め、咥えたゴムでブラシと併用しながら、慣れた手つきで結わえる。

結わえた髪を梳き、その他の支度も済ませ、ブラシと整髪料を部屋に戻し、廊下に戻った。


何となく覚えてた食堂までの道程をトボトボと歩き、扉に手をかけた。

開いてなかったら、最悪解除(リリース)して復元(リストア)かければ何とかなるだろう。

端から見れば、泥棒同然な事を考えながら、開けようとした。

ガラ

…は?

ガラガラガラ…


「開いた…?」


そう、開いたのだ。

こんな早い時間だというのに開いたのだ。

困惑しつつも、とりあえず中に入ってみた。

何故開いていたのか。


「…誰かいるのか?」


これ以外に答えが無い。


「いるさ。で、用件は何かな?冷夏君。」


ビクッ

突然目の前に現れた人物に思わず反応した。

…まるで気配が無かった。


「…誰?…あと、水。ペットボトルに入ったやつ…それ2本貰いに来た。軽食もあれば助かる。」


「自分から声かけといて、誰は無いでしょ…まあ、いいや。俺っちは警備兼料理担当の柊 琥珀(ひいらぎ こはく)。で、差し支えないなら聞くけど、何でそれがいるのかな?」


親指を立て、その指を自身に向けて、強調してきた。


「…ランニングするから。水分補給とか、栄養摂取とかしないと身体に影響出るし。それよりどこから湧いてきたんだ?柊とやら。」


「へぇ。ま、それもそうか。というか、人を虫みたいに言わないでくれよな。あと、俺っちの事は琥珀でいいから。で、どっから出てきたかだっけか?答えは簡単。『上』だよ。」


苦笑いを浮かべたかと思えば、ニッコリと笑った。

よくそんなに表情筋が動くもんだ。


「『上』?張り付き(ペースト)気配消去(サイン・イレイス)の併用か?」


感心したような顔で頷いた。


「ご名答。天井ぐらいしか死角取りづらいしな。特に冷夏君みたいなタイプには、な。」


「それ褒めてんのか?あと…俺の事は冷夏でいい…琥珀…」


呼び捨てにしたことが無かったせいか、不覚にも顔が熱くなった。


「褒めてるさ。その様子、呼び捨て慣れてないみたいだな。とりあえず、用意してくるから。そうだな…ま、適当に掛けといてくれ。」


「…うっせ。ま、よろしく。」


琥珀は琥珀色の猫目で、少し長めの胡桃色のくせ毛を後ろで縛っている。スズメの尻尾みたいで、ちょっと面白い。

少し焼けた肌と相まって、宛ら虎のような顔立ちだ。その上、高身長と来た。

親しみやすい雰囲気を醸し出しているため、怖さも無い。

…絶対モテるだろ。


今の琥珀は黒シャツにモスグリーンのカーゴパンツを着ているだけだというのに、かっこよく見える。

紺のエプロンを着て、キッチン…というか厨房に立つ姿はまさに料理男子。


そんなことを考えながら、ボーッと琥珀を見ていると何やら匂いがしてきた。

軽食にそこまでの手間をかけるだろうか?

てっきりおにぎりとかサンドウィッチ程度だと思ったんだが。


匂いがしてきてから、15分ぐらいで琥珀が戻ってきた。


「はいよ。ミネラルウォーター2本と軽食のサンドウィッチ、ここ置いとくから。」


琥珀はテーブルに水と軽食を置くと、厨房からトレーに乗せて何かを持ってきた。


「これ、折角食堂に来たんだから、食べて行きなよ。」


持って来たのは白米、焼き鮭、味噌汁、浅漬け、緑茶。典型的な和食だ。


「…頼んで無いよ。何、餌付けの積もり?」


いきなり勧められたまともな朝食に疑いの目を向けた。


「違うよ。俺っちこれから朝食だから、一緒にどうかと思っただけ。それにまだ冷夏は子供だ。ちゃんとしたの食わないと背、伸びないぞ。」


不服そうに眉尻を下げた後、嫌味ったらしく笑った。

背の部分を強調して言うもんだから、ちょっとイラッとして思わず殺気を向けてしまった。


「…!いや、そんな怒んないでよ。ご飯作ってもらったんだから、そこは有り難く頂戴すればいいだけだし、突っぱねられてもね。」


少し怯んだみたいだか、何事もなかったような顔でフォローしてきた。

…通常より少し強い殺気だったんだが。

明らかにこれはそういうこと(・・・・・・)に慣れてるやつの反応だ。


「…わかった。じゃあ、食べる。」


敵対しない方がいい気がした為、とりあえず従う事にした。


「分かればいいさ。やっぱり子供は素直が一番だ。」


満足げに笑い、トレーを俺の前に置いた。

ささっと自分の分をよそって、向かいの席についた。


「いただきます。」


「…いただきます。」


琥珀に習い、同じようにして食べ始めた。



「ごちそうさまでした。」


「…ごちそうさまでした。」


そう言ったあと、食器を洗い場まで一緒に運んだ。

身体は糖分を求めていたのか、一口食べた瞬間、がっつく羽目になった。

結果、ご飯2杯、味噌汁2杯…つまりお代わりしてしまったのだ。


「どうだった?美味しかったかい?」


「…分からない。微かにほっとする気がしたぐらいかな…」


優しさを感じた。

そう言いたかったが、果たしてこの解釈で良いものか悩みようがある為、結局遠回しにしか言えなかった。


「へぇ…ほっとする、か。ま、そんな風に感じてくれたなら、幸いだ。」


嬉しそうにそう言って、右頬を掻いた。


「……あり、が、と。」


どうしてもはっきり伝えられない…というか、そうしたらまた痛みが来そうでまともに言えなかったが、消え入るような声は届いていたみたいだ。


「どういたしまして。」


柔らかな笑みを浮かべ、頭をそっと撫でてくれた。

暖かな手は心を落ち着かせた。



暫くして、琥珀はふと思い出したように言った。


「ランニング、頑張って。」


「…うん、頑張る。」


水と軽食を持ち、琥珀をしっかりと見据える。


「また来いよ。」


「…うん。」


コクリと頷き、手を振る琥珀に向けて小さく振り返した。

食堂を後にした俺はぶらぶらと歩きながら出口を探し、少しして見つかった玄関からそのまま外へと繰り出した。



できるだけ更新はしますが、出来ない日が多いのでご容赦下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ