第21話 カオスと謎
ふわふわと浮かんでいるような感覚がする。
それは心地よくて表情が緩んでいく。
しばらく経った後、温かい何かに撫でられた気がした。
反射的にそれに擦りよってしまった。
「可愛い……可愛すぎるよ…ふふふ…」
…身の危険を感じるその声が耳に入ると同時、目を開けた。
闘うなら敵を見た方が色々と困らないからだ。
「んんっ………!…お、お前ら誰だ⁉︎」
瞼の向こうには何十人もの子供達がいた。
少年少女、低身長高身長、髪の色等々…
こんな視覚情報他、様々な形で一度に入ってきたのだ。そりゃ脳だって混乱する。
お陰で声は裏返るわ、動揺するわ…もう散々な事態になった。
「あ、起きたぞ!」
「本当だ〜!」
「せんせぇ〜、あの子起きたよぉ〜!!」
「やった〜!今日はご馳走だぁ〜!」
小さい子達の反応(一部抜粋)
「こんな可愛い子が…男の子だなんて……ああ、なんで世界は残酷なんだぁああ‼︎」
「この変態がぁああ!お前は黙っとけぇええ!」
「ああ、怒らせちゃった。本当学習しないよね。」
中学生〜高校生ぐらいの人達(一部抜粋…ホモ約1名はかなり例外的。ツッコミ&野次?他)
「コイツ本当に男なん?身体とか見た目モヤシやし…って、ヤバい!コイツ身体ムッキムキや!」
ちょっ、何徐ろに服脱がせてんすか!
で、ペタペタ触らないでくれませんかね!
てか俺、そこまでムキムキじゃないし…
「マジか!でもムキムキの癖に…なんだこのエロさは⁉︎」
撫でまわすような触り方に悪寒が生じた。
「ひっ、やめっ!そんな触り方、すんな!…この変態ショタ野郎!」
思いっきり顔面殴ったらどっかへ吹っ飛んだ。
というか、これ何だよ!
カオスにも程があるだろ⁉︎
集団に普段囲まれないようにしていた俺は…ついに…
「…ううっ、ひっぐ…もう…何なんだよぉ…!…怖いじゃん、かっ…というか…此処何処?」
「…あの腹黒が教えてくんなかったから分かんないし……今度見つけたら、しばくっ!」
…泣き出した。同時にしばく宣言もした。
涙が落ちた場所は凍っていき、たちまち辺り一面アイスリンクのようになった。
その様子を見た周りはあわあわとしだした。
一人は原因を怒り、一人は先生とやらを呼びに行き、一人は背中さすってくれ、一人は泣きやませようと変顔をしだし……と、三者三様の反応をした。
この場合、四者四様とでもいうべきか?
とにかく、一言で言えば『カオスがさらにカオスになった。』って感じだ。
「何だ何だ…引っ張るなよ。」
「先生、早く早く!あの子が大変なの!」
「はあ…はいはい。分かったから一回落ち着け。」
「みんなぁ〜先生連れてきたよぉ〜!」
その言葉でみんなある程度静かになった。
先生ってやつのパワースゲェな。
そんな関心を抱くうちに、涙は止まってきたが、完全には収まらず、ついには壁まで氷に包んでしまった。
「うわ、何じゃこりゃ⁉︎ガッチガチじゃねーか!何ちゅう手間増やしてくれてんだ…」
頭を抱えながら出てきたのは…
「お前かい‼︎」
「何だよ、僕じゃ悪いのかよ。冷夏君。」
風鈴寺 凪だった。
はあ…期待して損した。
「…ていうか、お前には一発お見舞いしないとな…」
ある刀を生みだしながら、男に目を向ける。
さっきまで寝ていたベッドから少し離れた位置にいた男に近づくには、一歩で十分だった。
一足飛びで間合いを諭させないよう距離を詰めた。
「は、ちょ、待てって!忘れてたのは謝るからさ。その武器しまって!てか、その刀何だよ⁉︎青い炎⁉︎」
…おい、ちゃっかりゲロってんじゃねーよ。
聞き出す手間省けた以外に何の得にもなってないし。
そんな考えを巡らせながら、青い炎を刀身に纏し刀…青炎刀を構えた。
「おいおい、腹黒さんよ…この落とし前付けてもらうぜ…」
その言葉と共に切り替わる。
地面スレスレまで沈み込み、刀を小太刀サイズにしながら五体を繋ぐ関節に刃を入れる。
念のため、自動結界を張りながら行う。
朱殷の瞳は刹那の間、煌めく。
最低限必要な動きで体を捻り、揺れ動かした。
その時間、およそ3秒。
起きたばかりでなければ1秒半で済んだであろうその作業はモードの切り替えを素早く行うことによって成り立つ。
瞳の変化、雰囲気の変化を読み取る事は不可能ではないが、読み取ったところで回避出来れば良い方、最悪それでこの世とおさらばなんて伊達じゃない。
全ての作業の出来をチェックしようと、一瞬停止した。
キンッ
その瞬間、背後から首に腕を回され、サバイバルナイフが当てがわれた。
「くっ…!」
「チェックメイト…だな。」
耳元で囁かれた言葉で敗北が決まった。
…何故だ。
何故、自動結界並びに青炎刀での攻撃…その全てが効いていない?
この男は…?
「…お前、何者だ?何故あれが効かない……」
「はあ…あのさ、いきなり襲ってくるとか…君は礼儀というものを知らないのかい?ちなみに、君のあのモードは既に体験&対処済み。それにさっきも言ったでしょ?ここは大人以外魔法が使えないって。全く…君の方が異常だ…何故魔法を使えたんだか。」
悩ましげな声でご丁寧な説明をされたが…
「…そろそろ離してくれない?…野郎に囁かれる勘違い受けそーな体勢は避けたいんだけど。それとも何?お前もショタコンなのか?はあ…あとこの格好さ…どうにかならない?」
提案のオンパレードで叩く。
「離しても攻撃しないならいいさ。それに僕はこんなお子ちゃまでなくても、そこらへんは間に合ってんだ。」
いや、間にあってるとか知らねーよ。
「しないし。俺的には攻撃するより、この格好どうにかしてほしいけど。それに…」
一度切り、言葉を選ぶ。
「今の俺じゃ殺せない標的だからだ。レベルが違いすぎる。それぐらい手合わせすれば誰だって分かるさ。」
歪んだ笑みを浮かべ、そう繋げた。
「そーかよ。」
そう言って、ナイフを離した。
「それとな…」
言いづらそうに頭を掻き、こちらをチラ見した。
「何だよ。文句あんのか。」
鋭く睨み、問いただす。
「お前今、上半身丸見えだぞ。それに、髪も乱れまくってるし…あれの後みたいになってんぞ。もっと分かりやー」
「ギャアアアアア!それ以上言うな〜〜馬鹿!」
言葉につられて向けた目の先にあった…あられもない姿に顔面真っ赤にして男を殴った。
が、男は避け逆に腕一本で支えられた。
「おっと、危ない危ない…」
「ううっ……恥ずかしさで死ねるぞ…これぇ…」
バタバタ動いてもビクともしない事以上に、腕一本で軽く支えられた事の方に傷付いた。
「よっと…はあ、とりあえず今はこれ羽織っとけ。」
抵抗するのを諦め、同時に冷静になってきた頃、男は俺を割れ物でも扱うように、そっと立たせ、着ていた黒いパーカーを羽織らせた。
「……何の真似?」
俺にはその行動の意味がわからなかった。
「はあ…こういう時はありがとうって言うんだがな…全く、愛想の欠片もないな。それに着替えるにしてもここに服はない。移動するのにそれじゃあ…色んな意味で問題になる。」
遠回しに核心に触れないようにしている気がした。
「は?確かにこのままじゃ移動出来ないだろうが……というか、何で移動する必要があるんだ?」
「…君がいきなり来るからだよ。小さすぎて、お古はみんな着れないし、採寸しようにも重症患者に無理は強いれないし…ま、つまり君の服がないってことだ。」
……今何と?
小さすぎて、お古さえ着れない?
採寸しないとサイズがない?
脳に雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
「…じゃあ、俺のリュックの中に入れた服にすればいいだろう。あと2セットはあるはずだ。それに俺の刀はどうした?」
何とか切り替え、提案した。
「ああ、あのリュック…あれ今研究室で分析中。珍しい物好きな人の目に止まったんだ。君の正体があまりにも異質…というかデータがなかったんだ。全人類のデータの中に、君の名前…その他すべて。唯一、最近登録したギルドカードにだけはデータがあったんだ。」
………⁉︎
「…君は…本来、この世には居ないんだよ。人間として存在が認められてない人間という事になるからね。…つまり、君は人間じゃない。…異界の者だ。」
青天の霹靂だった。
異界の者と聞いた瞬間、右胸と左手首に激痛が走った。しかも今回はそれだけじゃない。
周りの声が聞こえない…
視界が白黒になる…
呼吸ができない…
何も考えられない…
ただ痛いんじゃない。苦しいんだ。
身体中から汗が吹き出し、体温が急激に上昇、血液はグツグツと煮え滾る…




