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刀系魔法少年の人生譚  作者: 由羅木 ユーリ(旧名:夏風 鈴)
第1章 物語の始まりは突然に
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第2話 追っ手との戦闘

裏山の祠か…

管理を任せてた癖に、祠には触れるなとかよく言ってたな…

まあ…今となってはその指示など守ってる場合ではないな。

しかし、祠の場所は分かるが、言ったところで抜け道の類は見当たらない筈…

何故父上は祠へ向かうよう指示したんだ?

結界が突破された時点でこの裏山も後に侵入される事は明白だ。

それに、あの結界は母上が張ったものと聞いた。

…それを破るほどの刺客とは。

一体何者だ?

はあ…今はウダウダと考えてられなさそうだ。

兎に角、今は慶兄と向日葵を案内する事だけを考えよう。


様々な考えがグルグルと頭を巡る中、僕は慶兄達の前を先導して走る。

足音を消し、素早く地をかける。

湿った空気が木漏れ日さえも、重くする。


ポニーテールに結われた長い金髪。

揺れ動くたびに光り輝き、数束のオレンジ色の髪はその髪をより印象付ける。

それは見たものを惹きつけてやまない魅惑の(テール)


「冷夏!祠には後どれぐらいで着く?」


慶兄の必死そうな問いに思わず振り返り、一瞥した。


向日葵を小脇に抱え、走る慶兄。

そのグレーの瞳はいつもより鋭く厳しい。

藤色の髪が激しく揺れ動く。

慶兄の視線は自然と髪に向けられた。


はあ…別に気にしないけど。

何でみんな髪ばっかり見るかな?

何なら背負ってるリュックの方に目を向ければいいのに。

例えば、何か使えそうなものはないか?とかさ。

あとは腰に差した愛刀ぐらいしか、身につけてないけどな。

…ま、それどころじゃないか?


「…あと4、5分程度です。でも僕は祠に連れて行くだけ。出るなという命令がある限り。」


その声色は、自分でも驚くほど低く冷たい。

さっきまでの無駄な考えをしていたとは誰も思わないほどに…鋭く、はっきりとしている。


「…!そうか…なら当主に変わって命を下す。共に逃げろ、冷夏。」


普段なら聞かない鋭い声。

それだけで心は分かる。

はあ…深層心理的には研究材料を傷付け、親にどやされるのが嫌なだけだろうな。

まあ…表面上は兄として心配なだけだろう。


「分かりました。…!どうやらこちらもうかうかしてられなくなったみたいですね。」


「追っ手か!」


無言で頷き、速度を上げる。

慶兄も遅れて、この速度に食らいつく。


ビュン!

シュタッ!

タタタタタタッ…


かなりの数の足音と気配…それに冷たい視線を感じる。

追っ手は二手にでも別れてたのだろう。

でなければ、こんなすぐ追付ける筈がない。

それにこの速度について来るなんて…只者じゃない。

相当の手練れだ。

多分相打ちにでもならないと数を減らせれない。

…チッ。

こうなったら、祠に相手より先につくしかない。


そう思考を巡らせる間に祠が見えた。


高さは2m程で材質不明の黒い塊は一見すれば、ただのガラクタにしか見えないが、よく見れば祠。

という具合の代物だ。

さて、これのどこにそんな都合のいい抜け道があるんだ?


「冷夏!あれが祠か?」


慶兄も認識したみたいだ。


祠近くで止まった僕達は素早く祠の前に向かう。


『ニンショウコードヲイッテクダサイ。』


…は?

認証コード?


カタコトな言葉が祠から聞こえてくる。

…なんか不気味だ。


それより…


「認証コードって何なんだ?父上はそんな事言ってなかったぞ。」


慶兄も向日葵もポカーンとした顔をしている。


流石の追っ手達も急に止まった僕達を警戒しているのか、その場から動かない。

かと言って、目を反らすわけもなく、その場は暫し硬直状態になった。


「確かに…だが、このままだと確実に殺られるぞ!…如何する?」


いや…そんな縋るような視線向けられても…

こっちが聞きたいんですけど!

…なんて言えるわけもなく。


「…とりあえず戦闘態勢になって、それを維持する間に考えるとかですかね?」


今出来る事を絞り出した結果、頼りない案しか出なかった。

つか、こんな状況で冷静なやつとかいたら、そいつ経験者かチートとかの有能者だろ!

普通ありえないから、チートとか。


「う〜ん、それしか無さそうだね。」


微妙なニュアンスだが、肯定された。

ならば事は決まった。

愛刀の柄に手をかけ、戦闘態勢に入る。


緊迫した空気が辺りを埋め尽くすかに思われたとき、事態は動いた。


追っ手のうちの2人が此方に走り込んできたのだ。

僕は愛刀を鞘から抜き出し、その艶やかな刀身を追っ手に差し向けた。


赤く色付いた美しく輝く刀身は細く、その形は日本刀そのものだった。

名を舞斬華(まいざんか)

僕専用に作られた最高の一品だ。

まあ…これをくれたのは両親ではないが。


半身で前を向き、中腰の姿勢で鋭く剣を構え、攻撃に備えた。


慶兄も腰に差した鞘から一本の剣を取り出した。

重厚感ある独特なカーブを描く、銀色に輝く刀身が目に眩しい。

その隙のない構えは相当な熟練者である事を示していた。


向日葵は短剣二本を取り出し、低く構えた。

気配はまるで無く、背後を取られたら終わり…という雰囲気を纏っていた。


一番近くいた慶兄に2人は的を絞ったのか、走りこむスピードを上げた。

右側にいた男が先に斬りつけてきた。

が、しかしその攻撃はあっさりと躱され、背中に一発肘を入れられていた。

左側の男は躱したと同時に斬りつけたものの、蹴りを腹にお見舞いされていた。


「殺す必要ないだろ?」


何もなかったみたいに涼しい顔して剣納めてる。


「ええ…まあ。」


その様子に苦笑いするしかなかった。


ちなみにもれなく、その2人は気絶していた。


その余りの差に他の追っ手は標的を慶兄から逸らした。

が、目を他に移した時には既に遅く、頸動脈を一撃で斬られ、半分程が血の雨と共に地に倒れ伏していた。

どうやら、向日葵が気配を殺してやったみたいだ。


「兄上、兄様終わりましたよ!」


短剣についた血糊を払い、納めた向日葵は元気いっぱいに手を振って来た。


「了解!」


声を少し張り、返す。


「お疲れ様、向日葵。」


慶兄が優しい笑みを浮かべ、弔う。

…ここが戦場になってなかったら、大層惚れる女が出そうなものだ。


そんな端から見ればヤバい僕らへの追っ手からの反応は多様だった。


「バ、バケモンだ!」


怯えるやつ。


「こうなったら弱そうなチビ助狙うしかねーだろ!」


ヤケになるやつ。


「確かに…女みてーな名前だしな…もしかして本当に女なんじゃね?」


馬鹿にするやつ。


ギャハハハハハ…


下品な笑い声。

…嫌いだ。

こんな奴らばかりじゃないか。

狭い世界は闇しかこの目にうつさせてくれない。


「…これ以上この世界に絶望させないでよ。」


そう小さく呟く。

空気が重くかわる。

ヒューーと、低く響く様な風が吹く。

しかし、追っ手達は気づかず喋る。


「は?聞こえねーよ?あ、分かった!命乞いでもしてんだろ?」


「…黙れ。」


低く冷たい感情のない言葉。

さっきまでとは何だか違う雰囲気に追っ手達の頭の中では警戒音が鳴り響く。


「…お前は一体何者だ?」


勇気ある1人が問う。


「…葉宵(はよい)だ。……対象確認。消去する。」


感情がまるで感じられない声。

だが、誰もが惹きつけられたのは色が変化した瞳だった。

元の瞳は闇夜の様な紺桔梗(こんききょう)。その色の瞳はどんな宝石よりも美しかった。

だが今の瞳は無感情で、両手を血で真っ赤に濡らす壊れた人形のような…朱殷(しゅあん)だった。

その色は昔から人の血を表すため用いられてきた。

これを理解出来たものは何名いただろうか?

殺戮に一番近い色が目の前にあるという事の意味を。


瞳の中に『希望』の光はない。

ただ機械的な…純粋なる殺意が宿っていた。


恐ろしさのあまり動けない対象を糸で縫い上げるが如く、少ない回転数と、動作で切り捨てる。

あとには、唯の肉片しか残っていない。


あまりの早さに飛び散った血が花のように辺りを彩り、斬る姿は舞う様にしなやかで美しかった。

周りにはそう見える。

だから舞斬華っていう名前なんだ。


あ、ちなみにチビ助とか女なんじゃねと言った奴は八つ裂きにしてやりましたよ。

まあ…自業自得だし、雑魚キャラが吐くセリフしか言ってないしな。

ちなみに、葉宵モードの時でも思考は完全にならない限りは僕のままだ。


こんな事を考えながら、ニヤリと頬を緩ませていると、斬り損ねた2人が軽蔑の視線を向けてきた。

それも複雑そうなやつを。

…いつの間にか挟んできてるし。


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