第12話 記憶・感情操作と監禁
性的描写はありませんが、若干それに関わる発言が出てきますが、飛ばさない方が話を読み進めるに当たっては、いいかと思います。
長い長い夢を見ている気がした…
走馬灯のように今までの記憶…主に思い出の部分が早送りされた映画の如く、ずっとずっと流れていた。
一度見た思い出は霧のようになり、1つの大きな結晶…というか氷の塊に吸い込まれていった。
その氷の塊は、どこから伸びているのかも不明な鎖に雁字搦めにされ、固定されていた。
吸い込まれる度、もがき苦しむように氷の塊は揺れるが、揺れる度に鎖から激痛が与えられ、こちらにその痛みが流れ込んでくるのだ。
痛みは様々で、流れ込んでくる度に、叫び声をあげた。
そうしなければ、死ぬような気がして、止めれない。
痛みを止めたくても止められない。
逃げたくても逃げられない。
そんな事が続いていた時、不意に思い出はプツリと切れ、真っ白な映像が流れ出した。
それと同時に、今度はカラフルな色の結晶が浮かび上がり、暖色系の結晶だけが強い力に押し負けたみたいに砕け散り、氷の塊に吸い込まれていった。
後に残ったのは、寒色系の結晶と思い出が全く浮かばなくなった映像だけだった。
どれぐらい経っただろうか?
顔をペチペチと叩かれた感覚に陥ったのは。
鬱陶しさを感じ、叩くものに噛み付いた。
あまりの状況の変わりように、仕方ないとばかりに目を開く。
「んんっ………?ここは…?」
目に入ったのは特殊加工されたガラスの天井。
特殊加工は…多分内側から外が見えなくなることと、内部からの攻撃に対する耐性だろうか。
噛み付いたものが、近くで手をかなりの力で壁に打ち付けているのに、全く揺れないところを見ると。
それに外から何か声や音はするのに、何も見えない。
まあ…取り敢えず、起き上がるか。
「…は?」
今更ながら気がついた。
手足が今の状態から、全く動かせない事に。
今の状態…というか体勢は手を頭の上で纏め上げられ、足は膝を曲げた状態で両足をくっ付けられてるという感じ。
抵抗しようとすればするほど、その状態でいる事を強制させられる。
何とか首だけは動かせたため、グルリと動かしてみた。
すると、手と足に枷…それもかなり頑丈で、解除には特殊な鍵が必要みたいだった。
試しに、魔力線を放とうとしたものの、身体中に強い電流が流れ、全く出来なかった。
今までの事を整理し、導き出された答えは『脱出不可能な部屋に行動の一切を完全に封じられ、監禁された。』だった。
「おい、そこで壁叩いてる奴。こうなった理由を説明しろ。要求があるならさっさと言え。」
こうなれば、必然的に壁を叩いてる奴に聞く羽目になる。
「ああ?テメェ今の自分の立場分かってんのか?」
いかにもガラの悪そうな声に、溜息を零す。
「いや、立場とか言われても、監禁されてる以外情報無いんだから、知るわけ無いだろ。」
「…はあ。それもそうか。じゃあ、教えてやる。」
一度言葉を切り、呼吸を整え出した。
「お前にはある計画の関係者だという疑いがかかっている。その計画の隠蔽のために記憶・感情操作を施し、ここに入れられている。」
そこで躊躇ったような顔をし、言い淀んだ。
「で、その続きは?」
諭すように脅すと、再び言葉を紡いだ。
「…本来殺されるなら所を、うちのボスが…ショ、ショタコンで、お前の容姿や性格を気に入ってしまったため、玩具としてなら生きることを許されたのだ。あ、ありがたく思え。但し、お前には高い殺人能力や魔力があったため、その枷で封じ、逃げれぬようにこの部屋に入れたというわけだ。」
「ふ〜ん。で、要求は?」
さらっと、身体中に感じた寒気を受け流し、要求を聞く。
「…それが…その…女装して部下たちの性処理人形になれ…とのことだ。はあ…ちなみに俺たち部下は誰1人として、ホモでは無いし、ゲイでも無い。正直言ってこの要求は、お前に女装してもらって、適当に偽装工作すれば、どちらの貞操も守れていいと思うんだが…どうだろうか。」
…はあ。つまり何だ?
こいつを始めとする男達のボスが、変態ショタ趣味男で、自分の部下達に女装した俺がヤられるのを楽しみたいから、俺に性処理人形の人形になれってか?
で、部下達的に、自分達は普通に女が好きなだし、童貞だから貞操守るために、偽装工作に協力してほしいだと?
「何で俺が性処理人形になってまで、生きてなきゃならないの?それに俺はお前らの都合なんて知らない。」
「えっ?いや、でも…」
狼狽しだした男にキツく跳ね返す。
「殺さないで生かしてくれたことだけは、感謝するが、俺は女でも無い野郎に、興奮する男の趣味に、付き合う義理は無い。」
「なら何で!」
困惑の2文字を浮かべた男にそれとなく諭すように暗示をかけてみる。
上手くいけば、鍵を外してくれるかもしれない。
「貞操守りたいなら、さっさと俺をここから出した方が手っ取り早いし、何なら部下達全員でボスを殺しにかかれば、お前達は晴れて自由の身だ。不平不満なく生きられるぞ。」
「そうなのか?」
何も知らない無知な少年のように、無邪気に話に食いついてきた。
そこをすかさず利用する。
「ああ、そうだ。従ってばかりじゃ、人間長くは生きられないからな。たまには反抗することも大事だ。」
ダメ押しの一言で、男は顎に手を置き、う〜んと唸り始めた。
どうやら、反抗心は少なからずあるらしく、俺の話に頭をクルクルと回し、返答に悩んでいるみたいだ。
「…分かった。同僚達にそう伝えて来るからちょっと待ってろ。」
頷きながら、男は俺にそうやってしっかり、はっきりと答えた。
用件は終わりだとでも言うように、壁の一部に手を押し当て、何かを唱えだした。
ピーッ、ガチャ
明らかに扉が開いた音だった。
「なあ、一応枷ぐらい外してくれないか?トイレに行きたいんだ。それに手と足が鬱血してきてて、とても痛いんだ。頼むよ。」
必死に頼み込む人の面持ちを取り繕い、そう告げた。
「それはいけない!早く手当てしないと手足が使い物にならなくなってしまう!今開けるからな。ちょっと待てよ……」
ゴソゴソとズボンのポケットに手を突っ込み、弄りだした。
その間に辺りを見回すと、部屋の隅にリュックと刀が置かれてあり、俺の近くには点滴と思しきパックが吊り下げられ、俺の腕に繋がれていた。
どうやら、長い間夢を見ていたらしく、体も少し細々しすぎるほど、痩せていた。
「あったぞ。」
そういうが早いか、男は枷に銀色のカードを近づけ、枷を解除した。
それと同時に今まで封じられていた魔力と戦闘力が一気に身体の中を駆け巡り、身体の急速な再生が始まった。
「よし。もうこれで大丈夫だ。じきに医者が来る。見てもらってから動けよ。」
優しげな笑みを浮かべ、安心したような顔で暫くの間頭を撫でてきた。
その間に再生が終了し、身体が元に戻った。
それを見て、男は満足したのか出て行くため、後ろを向いた。
その瞬間を狙い、部屋の隅に置かれた、他のものとは雰囲気がまるで違う、リュックと刀を掴み、男の足の腱を刀で素早く切り、部屋から抜け出した。
男の悶え泣き叫ぶ声が、扉を閉める刹那、聞こえた気がした。
部屋の外は鉄筋コンクリートで作られた壁や床が一面に広がっており、細い通路のようになっていた。
記憶や感情を操作されてるらしいが、知識に関する部分やマイナスの感情(怒りや悲しみなど)は手つかずのまま、脳内に残っており、闘うには支障が無いことが判明した。
探知を発動させ、敵の反応、建物の内部構造を把握する。
どうやらこの建物は地下施設らしく、地上には唯の森の中にある原っぱとしか認識されないため、助けが来ることはまず無いみたいだ。
…さて、どうしたものか?
今のところ、記憶から引っ張り出せたのは名前だけ。
それも月夜見 冷夏という名と葉宵という2つの名だけだ。
薄っすらと見えた限りでは月夜見 冷夏の中のもう1人の人格のようなものが葉宵で戦闘の場合はこちらが主に出るらしい。
しかし…自分の今の容姿が全く分からない。
鏡というのがあればいいのだが…
いや別にナルシストなわけじゃなくて。
なんか現在、冷夏か葉宵かを見分けるには、今の瞳の色が紺桔梗色か朱殷色かでしか見分けられ無いらしいからさ…
どっちかによって、戦闘力に差が出てしまうし。
てな訳で、とりあえず敵が出来るだけ居ない通路を通って、移動してるんだが…
一向に姿見の一枚さえない。
「はあ…」
溜息が出てばかりで、幸せも逃げまくりな中、不意に壁に手を付くと、何かを押してしまった。
ゴゴゴゴゴゴ…
何かが回転する音が響き、敵の反応も近づいてくる。
バタン
何かが閉まる…というか留まる音と共に現れたのは…何と鏡だった。
すぐさま鏡に映る姿に目を向ける。
まだ大きな変化はありませんが、段々と冷夏の中で何かが歪み、壊れていきます。
上手く書けるかは分かりませんが、これからもよろしくお願いします!