第1話 始まりは突然の襲撃から
人間兵器化とかそんな感じの名前の作品の改定版です。こちらを読むのが一番です。
更新はのんびりしますので、悪しからず。
「すいませ〜ん!あの〜、ちょっとお尋ねしたい事があるんですが、何方かいらっしゃいませんか?」
そんな声が玄関先からしたのは突然だった。
道に迷った旅人のようなニュアンスで、誰も警戒などしなかった。
一山丸ごと買って建てられた家は、何かから隠すようにして、結界が張られている。
普通、入るときは合言葉と特殊な鈴を用いらなければ入れない。
だが、その…声からするに若い男が何も用いらず敷地内に入っている。
この異常さに気づかなかった。
…いいや、気付けなかったのだ。
この時すでに、家にいたものは敵の術にかけられていたのだから。
「どちら様でしょうか?」
世話係の八千が声を返した。
その時、この家の主達は朝食を済ませたばかりで、まだリビングにいた。
それも運が良いのか悪いのか、そこは家の中心地点。
玄関からは遠い。
敵が来たとしても攻め入るには時間を要する。
そんなことが起きているとはつゆ知らず、僕はいつもの様にリュックを背負い込み、腰に愛刀を提げる。
「母上!裏山に行ってきます!」
一声かけ、裏山に向け、歩を進め始める。
急ぐ必要はないため、のんびりと向かう。
裏山には結界張りの魔法剣術訓練場がある。
そこで僕は魔法剣術を訓練している。
魔法剣術…それは読んで字の如く、魔法を用いて剣術を扱うもの。
体内で生成される魔力量が一定量より多いか、魔法の方に才を見出したものにしか使えない剣術だ。
ちなみに、僕には剣術において負け知らずの兄がいる。
名を月夜見 慶という。
僕は慶兄を超える事は出来ない。
僕の剣術は魔法抜きで使うと、僕で居られなくなる。
まあ…これには色々と事情があるんだが…
それを差し引いても、慶兄の剣術は騎士剣術。
正義を振りかざし、人々を守る為のもの。
僕とは相反する剣術だ。
しかも、慶兄はこの狭き世界では名高い五星島騎士団団長の右腕を担うものだ。
当然そんな腕っ節のいい兄がいたら、当たり前のように弟は放置される。
でも幸い、母上から継いだ魔力が一定量のおよそ30倍だったため、魔法剣術でなら…みたいな流れで、訓練することになった。
最近では、裏山の管理も任されている。
といってもただの厄介払いで、だがな。
管理と言っても、精々結界が破られてないかのチェックか気を間引くなどの林業みたいな作業だ。
魔法使えば、すぐ終わる。
それ以外は勉強か訓練の二択しかない。
ノルマがある終われば、ただの暇人だ。
「行ってらっしゃい!怪我するんじゃないわよ。あと、昼頃には1回帰ってきなさい。」
歩き出して5分ほどした頃、やっと返事が返ってきた。
はあ…全く。
関心がないも程がある。
見送りの1つや2つさえ面倒なんだろうか?
返してきた声も、わざとらしいまでに暖かい。
でも、その言葉の端々に棘がある。
上辺だけの心配なのが目に見える。
研究材料が傷付くのが嫌なだけだろう。
そんな呆れたと返したくなる気持ちを抑え、子供らしくする。
逆らえば、また…
一瞬駆け巡ってきた過去の記憶に頭痛と吐き気を覚えた。
何とかバレないように繕い、明るく返す。
「うん!わかっ…」
キィイーーーーン!
だが、返そうとしたセリフは唐突に遮断された。
細く鋭い高音波の音。
それはこの家では非常事態を告げる笛の音。
混乱と緊迫感がぐるぐると家中を埋め尽くす。
母上は音がなった瞬間、向かってしまった。
取り残された僕には、ただ指示が降るのを待つしかない。
それがこの家の中心。
忠誠心と判断力の2つがなければ、動くことはおろか、存在することも許されない。
そんな残酷なようで一般的には美しいルールの下で僕は生きている。
1ミリたりとも持たない忠誠心を誤魔化して、僕は盗聴魔法を発動させる。
「慶!向日葵を連れて騎士団本部に向かってくれ!回線が完全に絶たれた!」
父上の叫び声同然の指示が降る。
珍しく焦ってるみたいだ。
「し、しかし!それでは父上達が!」
慶兄か?多分戸惑ってるのだろう。
声に揺れが目立つ。
「そんな事言ってる場合か⁉︎事態は一刻を争うんだ!これは月夜見家当主としての命だ!さあ、早く行け!裏山の祠からなら抜けられる筈だ!向日葵と共に行け!早く!」
「わ、分かりました!向日葵、行くぞ!」
「い、いや!離して!父上、母上!」
ダダダダダッ
父上からの強い叱責でやっと慶兄がこっちに来だしたみたいだ。
向日葵は…かなり抵抗しているみたいだが、慶兄の事だ。
首根っこ引っ捕まえてでも、父上の命に従う筈。
煩く足音を立て、動いている。
それ程までの事態なのだろう。
…しかし、祠に何かあっただろうか?
抜け道があるなど聞いたことないが…
1分後、抵抗する向日葵を小脇に抱えた慶兄が飛び出してきた。
「兄様!離してください!まだ母上達が!」
動揺の色を隠しきれない向日葵はただそれだけを考えてるみたいだった。
でも、それはうちにとってはただの逃げ。甘えだ。
決して揺らいではならない願いだ。
例えそれが妹からのものであっても。
「冷夏!裏山の祠まで案内してくれ!今は父上達を信じて逃げるんだ!いいな?」
無言で頷く。
「慶兄、こちらへ!あとな、向日葵…大人しくしてろ!生き残りたいならな。」
叫んだ後の低いトーンの声にビビったのか、向日葵はそれ以来喋らなくなった。
家からは断末魔の声と、金属がぶつかり合う音、そして詠唱の声が入り乱れ、重苦しい空気が漏れだしていた。
読んでいただきありがとうございましたm(__)m
この小説はまだまだ続きます。
かなり長くなると思いますが、コツコツ更新出来るよう頑張ります。
See you!
Have a good time with books!
Good bye!
P.S. 英文2行目の訳は『本で良い時間を過ごしてください!』と言う意味です。