無難鉄機ブナンダ―
「ブナンダーに乗れ、でなければ帰る」
僕を呼び出した、髭面グラサンの胡散臭いオッサンは開口一番そう言い放った。
「帰る……?」
「間違った。帰れ」
僕は控え目に「はぁ」と答えると、回れ右をして、この部屋に入ってきたときと同じ扉に向かって歩こうとする。
「おいバカ、本当に帰ろうとするやつがあるか!」
「ええ~」
なんのために君をここまで呼び出したと思っている、とかなんとか言ってプリプリ怒るオッサン。正直どうでもいい。
「そんなこと言われても、僕下校途中にむりやり片道切符握らされて連れてこられただけですし。そもそも何するかもわからないんですけど」
「なに? うちのスタッフからの説明は受けていないのか?」
「無難がどうとか……」
オッサンは妙に上ずった声で唸った後、肘をついたまま両手を組んで、その上に顎を乗せた。いや、そのポーズキモくない? 手を組むなら、普通顔の前とかじゃないの?
「いいか、わざわざ高い交通費を払って、千葉に住む君をこのつくばスゴイロボット研究所に呼んだのは他でもない。君にロボットに乗ってもらうためだ!」
いや、千葉~つくば間って片道1500円しないんだけど。って、え? ロボット?
「驚くのも無理はない。我々の造りあげたスゴイロボット、ブナンダーは無難な人間にしか乗りこなせないのだ」
なにそのふわっとしたパイロット縛り。
「そこで、関東でもっとも無難なポテンシャルを持つ君を我々の組織にスカウトしたというわけだ」
「はぁ……。それで、乗ってどうするんですか」
「もちろん戦ってもらう」
なにとだよ。
「我々つくばスゴイロボット研究所は、数年後に襲来が予測されている宇宙怪獣を撃退するために設立された組織だ」
「ということは、その怪獣と戦うためにパイロットを育成するってことですか」
「いや、違う」
違うの!?
「我々と同じ目的で設立された、種子島ヤバイロボット研究所という所があってだな、そいつらがことあるごとにやってきてはロボットを自慢してくるんだよ! むこうは既に三体もロボットができているのに対して、ウチはたったの一体……。このままでは政府からの資金が打ち切られるのも時間の問題なんだ! だから、次自慢しにきた機体をウチのブナンダーでボッコンボッコンにしちゃってくれ!」
「理由くだらな過ぎるだろ!」
史上最低の内輪もめじゃねーか! いいオッサンが大人気ない!
「種子島の総司令がスッゴイ嫌なやつなんだよ……。最近では機体の出来をいいことに、無駄にカッコイイ装飾着けてはしきりに自慢してくる。あんなの戦闘ではゴミ以下のオプションなのに。腹立つ~!」
手を組むのも忘れ、怒りに打ち震えているオッサンを尻目に、僕はまた扉に向かって歩く。
「おっと逃がすか!」
ポチッ、という音と共に目前の扉が格子状にロックされた。数々の電子機器が並ぶ室内を赤いランプが照らす。
「なにをする!」
「なにをするじゃないよ! 乗れって言ってんだろこのモブ顔!」
誰がモブ顔だ。いい加減イライラしてきた。意地でも乗らんぞ。
「随分強情だな。だが、これを見てもそんなことが言えるのかな?」
オッサンが手元のボタンを押すと、彼の座っている席の後方から大型のモニターが展開され、動画が表示された。どうやら研究所内のロボット格納庫の映像らしい。
「君も、我々が造ったブナンダーの洗練されたボデェーを見れば気が変わるだろうよ」
『ええーでは、今から我々つくばスゴイロボット研究所が誇る、スゴイロビョッ……、ロボットをお見せしたいと思います』
レポーターいきなり噛んだぞ。
カメラが天井に近い位置を映す。頭部から順に見せていく構成のようだ。こんなふざけたオッサンが絡んでいるとはいえ、曲がりなりにも巨大ロボットのようである。
『見て下さい、この精悍な顔つき! いや~格好いいですね~』
ブナンダーの顔面がアップになる。確かに格好悪いということはない。各パーツがアニメに出てくるロボットたちから、寄せ集めたようなデザインなのが少し気になるが。
次にブナンダーの首から下が映る。銀色でがっしりとした寸胴ボディから太い腕が二本生えていて、頭部とはまるで毛色が違う。なんだこのアンバランス感。
『……うん、首から下も、いい感じですね~……』
レポーターも言葉に詰まってるじゃねーか!
さらにカメラが下にスライドし、脚部が映る。
『あっ、キャタピラ……。うん、うん……』
露骨にがっかりされてる! っていうかなんなんだよこのロボ! 武器もないし、これ相手のロボの膝のところをガンガン殴るしかねーじゃねーか!
「それでいいのだよ」
大型モニターの下から髭面が現れる。
「なにせ種子島の連中のロボは二足歩行で、重心に大きな問題を抱えているからな。膝さえ破壊してしまえば使い物にならんだろう」
本質を見失ってる!
「宇宙怪獣など、種子島を潰した後でゆっくりと対策すればいい。さぁ、ブナンダーに乗れ!」
「こんな陰湿なロボ乗りたくないよ! っていうかこんなのに乗って戦ったら最悪死ぬだろ!」
グラサンが小首を傾げる。
「なにを言っているんだ君は?」
「だから、巨大ロボットに乗って戦闘なんかしたら、パイロットも危ないだろって」
「今時本体搭乗型のロボなんて危ないもの、造るわけがないだろう。ブナンダーは遠隔操作型コクピットだよ?」
「どうしてそこだけ妙に無難なんだよ!!」
1年ほど前に執筆した掌編ギャグです。
少しでもにやりとしていただけたら幸いです。