奸計
翌朝、将校は焦げた臭いで目を覚ました。不寝番のつもりが何時の間にか寝入ってしまっていたことに関して考える暇は全くなかった。反射的に飛び起きて、臭いと音のする方を向いて銃を構える。
「やぁ、お早う。ぐっすり眠れたかい?」
「これは……どういうことですか?」
構えた銃口の先では青年がフライパン片手に格闘していた。
「どうもこうも、ご覧の通りさ。残念ながらベーコン軍曹はとっくに消し炭だ。エッグ二等兵も……これはもう、助からないな」
観念した顔で首を振って青年はフライパンを置き、ガスコンロの火を止める。ようやく事態を呑み込めた将校も銃を下ろした。
「食事なら移動中の機内で取れる様に手配してあります。あぁ、メニューのリクエストを聞いておくべきでしたね。気が回らなくて済みません」
「いや。朝食があるならあるで、それで全然構わないんだ。君に私の手料理を振る舞うのは、またの機会の楽しみに取っておくとするよ」
目覚めの瞬間から緊張、そして急速な弛緩へと慌ただしく揺れ動いた将校の思考回路が、ようやく正常に動き出す。
「私は……眠っていたのか?」
「天使の様な寝顔だった」
満面の笑みを浮かべる青年。差し出されたスマートフォンにデカデカと写された自分の間抜けな寝姿をみて将校は顔を真っ赤にして睨みつけた。続いてテーブルの上のメモと水筒を。
「……くっ……これ、か……」
「ご明察」
「ぐっ……」
一言だけ、労いの言葉が記されたメモを握り潰して、将校は必死に怒りを呑み込む。
「今後は……こういう真似は慎んで頂けますか?」
「うん、まぁ、目的は大体達せられたからね」
「そこまでしてこっそりと私の寝顔を見たかったのですか……?」
「それもあるけど……それで、よく眠れたかい?」
「えぇ、それはもう、ぐっすりと。お陰であと72時間は眠らずに過ごせることでしょう」
「それは良かった」
憮然として答える将校だったが、それは青年を更に喜ばせるだけで、それはまた巡って将校を苛立たせるだけなのだった。
「それなら、移動中は私の話相手になってもらえるな」