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侵攻

二人が表に控えていた通信車輌に飛び込んだ時には、状況は更に進行していた。


「機体は救助部隊本体の大型輸送機と同型機で、IDも発信していたそうです」


「すっかり騙されたというわけか」


「急にルートを外れて初めてことが発覚しました。それで今、哨戒機が追跡していますが……」


「完全に手遅れだな」


青年が忌々しげに眼をやるモニター上では、既に哨戒機は侵入者の背後に着けている。十分射程圏内にいるだろう。しかし(ドラゴン)に向かって真っ直ぐ一直線に飛ぶ侵入者を背後から撃つということは、その気はなくとも(ドラゴン)に向けて撃つということになる。首尾よく侵入者を仕留めたとしても、機体は(ドラゴン)に向けて墜落することになる。爆炎が(ドラゴン)の足元に届く可能性は高いだろう。封鎖区域の奥深くまで侵入を許してしまい、正面から迎撃できなかった時点で既に手遅れなのだ。


「手間をかけて侵入してきて、自爆でもするつもりか?」


侵入者の機体は機銃も何もない純粋な輸送機だ。間近で(ドラゴン)を見たいがためにわざわざやって来たのでないとすれば、あと考えられるのはただ一つ。爆薬を満載してのカミカゼ・アタック。

何にせよ、将校たちが今この場で出来ることと言えば非常に限られていた。つまり、歯軋りすること、見守ること、あとは祈ることくらい。

青年も悔しさを滲ませて言葉を吐き出した。


「信じよう。炎を吐き、火口に住まうという者が、爆炎に焼かれて倒れるなんてことがないと」




追跡してきた哨戒機が遂に進路を変え、脇へと逸れたのを確認して男は勝利を確信した。少なくとも今この瞬間に彼の敗北はなくなった。命を投げ出した対価として得られるものが(ドラゴン)の足元を僅かに揺るがす程度では、惨敗もいいところだったが、兎に角、勝った。哨戒ルートから一番対応に時間のかかる侵入ルートとタイミングを割り出し、あとは撃たれるか撃たれないかの賭けだったが、それに勝利した。あとはヤツにこのヤケドするほどアツいプレゼントを叩き付けてやるだけだ。

(ドラゴン)はもう目と鼻の先だ。何時から気付いていたのか、(ドラゴン)は顔を上げてこちらを見ていた。

その気だるげな目と目があった瞬間、男の怒りは沸騰した。


「でけぇツラしてんじゃねぇぞ、トカゲ野郎が!」


男がスイッチを押すとハッチが開き、無数のタンクが空中に放り出される。もう一つのスイッチを押すとそれらが一斉に破裂した。ごく少量の爆薬で爆破されたタンクは真っ二つに裂け、(ドラゴン)に向けてその中身を吐き出す。白い煙を伴って、液状の何かが(ドラゴン)の全身に浴びせられた。2、3度首を捻って身じろぎした(ドラゴン)だが、その後はぴたりと動きを止めた。あっという間に真っ白な霜がその体表を覆い尽くしてゆく。それこそ、瞬く間に、巨大な雪像が出来上がっていた。



モニターで事の次第を見守っていた者たちは皆が皆、一様に絶句した。

恐らくは、液化窒素か何か、低温の液化ガスをぶちまけたのだとは多くの者が理解したが、問題はその先だ。

マイナス200度近いものを浴びせられたのだ。並大抵の生物なら凍傷では済まない。だが、相手は並大抵の生物ではない。

多くの人間が固唾を呑んで見守る中、(ドラゴン)の首が震えた。張り付いていた薄氷が砕けて剥がれ落ちる。もう一度首をひくつかせてから、ガフッと勢いよく息を吐き出した。吐き出された吐息が傍らの半壊していたビルを叩き潰し、その裏手の交差点を抉った。

その衝撃で(ドラゴン)の全身を覆っていた霜が舞い散る。白い破片が舞い散る中に佇む姿は神々しさを纏い、畏敬の念に値するものだった。

足元の摩天楼からも新たに瓦礫が崩れ落ち、僅かに傾いたその上で(ドラゴン)はバランスを取るように少しだけ身をよじった。身体が落ち着いたところで右の翼を少しだけ広げて、その内側に炎の息を吹き付けた。そのまま首を回して腹の部分から、最後は左の翼へ。翼の下に暖気をはらませると(ドラゴン)は蹲り、何事もなかったかのように眠りについた。


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