疑問
通信を切ると青年は椅子にかけた。
「これで少しは落ち着けるといいんだけど」
「そうですね。今日のところは一旦引き揚げて休むのがいいでしょう」
将校の指示を受けて撤収作業が始まった。
「それにしても。やけに救助活動に拘ると思ったら、貴方も色々と考えておられるのですね」
「そりゃぁ、まぁね」
「出来れば任務を手っ取り早く終らせる方法も考えて頂きたいものです」
「急いては事を仕損じる、って言うよ?大統領からも期限は切られていないし」
「それでも、みんなの平穏を取り戻す為に頑張って下さい。主に、私の心の平穏を」
「手は抜かないよ。そんな余裕もないしね」
相変わらずの軽い口調で言われては、緊迫感も何もあったものではない。が、青年の口から溢れた言葉に思うところのあった将校は、それを訊いてみることにした
「大統領は貴方の事を公に出来ないと仰いましたが、他国の援助部隊との連携は手間になりますし、救助隊員を募るにも貴方が交渉してある程度安全が見込めることを前面に出した方が効率的ではありませんか?」
「そんなことをしても、君の仕事が増えるだけだよ。反大統領の一派も交渉人の存在は仮定くらいはしているだろうけど、それよりも今は竜との戦闘に向けて準備を整えているんじゃないかな?本気でこっちを潰しにかかってくるとしたら、強硬手段を封じられるか失敗するかしてからだ」
「強硬手段?軍部が勝手に竜を攻撃するとでも?」
「うちの軍部はまだ抑えが利くだろう。むしろ国外の勢力の方が危険だね。竜が暴れればそれだけ我が国は疲弊する。そう考えてちょっかい出そうと機会を窺ってるとこが幾つかありそうだとは思わないかい?」
「……パッと考えただけでも2つ3つ、思い当たりますね」
「だろ?私よりも竜に護衛をつけるべきだよ。まぁ、今しばらくはのんびりとさせてもらうとしよう」
青年は大きく伸びをしてから、肩を鳴らした。
「……それが、救助部隊派遣の、真意?救助部隊がいるところに攻撃なんて出来ないから?」
「ま、良心があれば攻撃は躊躇うよね。完全に封じたわけではないけど、半端な覚悟じゃ攻撃に踏み切れないでしょ?他国の救援部隊も参入するのだから、その国々も敵に回すつもりでないといけないわけだし。それから、我が国の軍部に関して言えば、これで暴走することは恐らくなくなる。彼らにしたら国の危難に何も出来なくて苛立っていたわけだから、国の為に何か出来ることを与えてやれば、喜んでそれに従うさ」
「それでも、被害にあった人々の関係者が私怨にかられて暴挙に出ないとも限らないのでは?」
将校の指摘に青年は満足気な笑みを浮かべた。