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帰投

やや駆け足気味に階段を駆け下りる青年の後に将校が続く。摩天楼に程近いこの建物も(ドラゴン)の飛来で随分と荒れ果ててしまっていた。屋内のいたるところでガラスは砕け散り、エレベーターは壊れて落ちてしまっていたし、屋上まで続く非常階段が無事だったのは奇跡と言ってもよかった。


「それにしても、これは本当に必要だったんですか?」


裾の長い洋服では少し足元が見えにくく、加えて靴も普段の丈夫なブーツとは違うので、落ちているガラス片や瓦礫を踏まないよう、将校は注意を払って進む。


「どれだけ効果があったかは分からないけど、最初に言っただろ?あくまでも礼儀だって。強いて言えば、一つでも共通項があったら親近感が湧くかも、ってのは考えていたけど」


「何だかんだ言って私が困っているのを見たかっただけじゃありませんか?」


「それもある」


「…………」


ビルを下りると将校は即座に待機していた車輌に飛び込んで着替えてしまった。部下の一人が指示を受けて駆け出すと、また別の部下が報告にやって来る。その報告によれば、二人が(ドラゴン)と対面している間に特に目立った動きはないらしい。


「それ、よっぽど嫌だったんだな」


「会談の間だけ、という約束だったはずです」


「つまり明日まではまたお預け、か」


「いいえ、次からはこれで同席させて頂きます。あの様子では我々の服装にどうこう言うような相手ではないでしょう」


着替えを終えた将校は襟を正してから小さく身を震わせた。今さっきまでの自分の姿を思っての身震いか、纏った軍服をその身に馴染ませるためか。ようやく一心地つけたらしく、小さく吐息が漏れた。

確かに(ドラゴン)はこちらを見ていたが、それは興味や警戒によるものではなく、煩わしいものをみる目だった。あれではロケットランチャーか何か、武器を構えて見せたところで興味を惹けやしないだろう。


「確かに細かいことをどうこう言う御仁ではなさそうだな。じゃあ、私も次からはヘリで直接屋上に乗り付けるとしようか」


「騒がしいのは機嫌を損ねるのではありませんか?」


「う~ん……やっぱりそこは許可を取ってからにするべきか……流石にあれだけの階段を上り下りするのはもう勘弁願いたいんだけどなぁ~……帰りだけでもパラシュートか何かでぱぁ~っ!と下りられないかな?」


「あれだけビル風が強いと、プロでも危険ですよ。ビル内をロープで降下するにも随分と高さがありますから、訓練を受けていない人間にはやっぱり危険です」


二人が(ドラゴン)と対面したビルも、摩天楼には及ばないが相当な高さがある。エレベーターも使えない以上、今日は階段で行き来したが、ヘリで出向けるものならば体力と時間を大幅に節約出来る。打診してみる価値は十分ありそうだ。


「それにしてもあんな芝居がかった言い回し、よく出来ますね」


「一応、プロだからね。言葉は選ぶし、立ち振舞いだって場に合わせるさ」


「即時目標達成といかなかったのは残念ですが、救難活動を訴えて食い下がったのを見て、少し見直しました。仕事はきちんとなさるんですね。子供じみた言動が目につくもので、正直、侮っていました」


青年が頭を掻いて言葉を濁していると、先程出て行った部下が報告に戻って来た。準備が出来たらしい。頷いて将校が先に立つ。


「通信車輌はこちらです」

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