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盗聴
パキリと、乾いた音が室内に響く。続けてボリリと噛み砕く音が。
そこは調度の整ったホテルの一室。とは言っても、今のこの街には電気もガスも通っていない。薄暗い中で一人、ヘッドホンに耳を当てている男は勿論、宿泊客などではなく、不法侵入者だ。
「ハッ。交渉人のガキも難儀だな。あっちの反応は分からねぇが……」
男はヘッドホンをテーブルの上に置いて立ち上がった。品格のあるテーブルとは不釣り合いな、無骨な機械の群れに手を突っ込み、そのスイッチも切る。
カーテンを引くと外の方が幾分明るい。分厚い雲の広がる鈍色の空では、まだ陽があるかどうかは分からない。
「明日あたり、挨拶に行けそうだな」
ガラス越しの遥か先には摩天楼が望める。その上には、勿論、あの竜も。ここからだと丁度右の側面が見える形になる。随分と距離があるため、竜の姿は随分と小さくにしか見えないが、同時に高低差を感じなくて済む。見ようによっては、見下す風でもあった。
「アレをとっちめたら、どれだけ名が売れるかねぇ?」
声を殺して笑うと男はカーテンを閉め、暗がりの中へと消えていった。